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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第6章 宮廷魔導士編
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39 魔王(ヴァールハイト視点)

「駄目だ、許可できない。ラーチェス様も、お考え直しください」


 父上の反応は、予想通りでした。

 銀竜たちと共にエルメラド王国に加勢に行くというラーチェスと、それについて行こうとする僕。それを父である、サフィーア帝国皇帝に話せば、当然の如く却下されました。


「ここで何もせずに見ているだけでは、本当に世界が滅ぶかもしれんぞ? そうなっては、銀竜の存続以前の問題であろうよ」


 幼い少女の姿に変身している状態ですが、ラーチェスの言葉には強い威圧感があります。姿を変えたところで、長年生きてきた銀竜の貫禄は隠せたものではありません。


「ラーチェス様、あなたは一度命を落としかけているのです。そのことで、どれだけ国民たちが心配したか、忘れたわけではないでしょう?」


 はぁ、と重いため息をついて、父上は眉間を指で押さえます。


「もちろん、忘れるわけがなかろうて。だが、ルナシアがいなければ失っていた命だ。エルメラド王国には、大きな借りがある」

「だからといって、あなたが出て行く必要はないでしょう」

「老いぼれといえど、儂の力を舐めてもらっては困る。そこらの若造にはまだ負けんよ」


 父上が何と言おうと、ラーチェスの意志はもう決まっているのです。


「なに、この国を守るだけの戦力は残していくから安心するといい」

「私は、あなたの心配をしているのです。ヴァールハイト、お前もなぜ止めない?」

「僕は止めましたよ。でも、僕が言ったところで、ラーチェスを止めるのは無理です。だから、一緒に行くことにしました」

「お前まで……なぜそういう考えになるんだ」


 ますます父上の顔が険しくなります。


「ヴァールハイト、お前はこの国の皇子なんだぞ?」

「知っています。皇位継承の話が出ていることも」

「そこまで分かっていても、考えは変わらないのか?」

「ええ、父上に何を言われても、僕たちはいきます。今日は、報告をしにきただけですから」


 まったく困った者たちだ、と父上は椅子の背にもたれかかります。


「ヴァールハイトも、ラーチェス様も、私を困らせるのが趣味なのですか?」

「人聞きの悪い。そんな趣味はないぞ?」


 悪戯っぽく、ラーチェスが笑います。

 その様子に、諦めたように父上がもう一度深いため息をつきました。


「ふたりとも、必ず無事に帰ってくること。約束してください」


 正直なところ、以前の記憶をもっている僕としては、確約出来かねます。でも、今度こそ生きて、この先の未来を見てみたい。

 だから、希望を込めて頷きました。

 父の竜の瞳が煌めきます。父の目には、僕の姿がどう映ったのでしょうか。


「ヴァールハイト」

「はい」

「お前は皇子である以前に、私の大切な息子だ。必ず無事に帰ってきなさい。返事は?」


 絶対に生きて帰ってこれるとは言い切れないなと思っていたのが、見抜かれてしまったのでしょうか。やはり、父に隠し事はできませんね。


「分かりました。ラーチェスと共に、この国に戻ってきます」

「……わかった。これ以上、止めても無駄だな」


 父は、ラーチェスに向き直ります。


「ラーチェス様、くれぐれも無茶はなさらずに。それと、息子を頼みます」

「ああ。ヴァールハイトのお守りは任せるが良い」


 未だ幼い子ども扱いされているのは気になりますが、長生きしているラーチェスからしてみれば、赤子も同然なのでしょう。


 父を無理矢理ながら納得させ、僕とラーチェスはエルメラド王国へ向かう準備を進めます。その前に、獣人たちのところへ行って、応援を頼むつもりです。彼らの戦力が、きっと必要になるでしょう。

 僕たちの他に、銀竜や竜人の仲間たちも名乗りをあげました。ラーチェスが行くならと、かなりの数が集まっています。


「準備はよいな? 危険な戦いになるということ、肝に銘じておけ」


 ラーチェスの言葉に、皆力強く応じます。

 長い間、サフィーア帝国に身を隠していた銀竜。ついに、その歴史が動こうとしています。

 銀竜の存在が外部に知られれば、もしかしたら、また人間たちと争うことになるかもしれません。しかし、それも魔王に勝てればの話。

 今、こうしてラーチェスと共にいられるのは、時間が巻き戻り、ルナシアさんがラーチェスを救ってくれたからです。世界がまた滅びの運命を辿るのか、はたまた新しい未来を見せてくれるのか。


 僕にできることなど、今も昔も限られています。それでも、一歩踏み出す勇気が未来を変えることもあるのだと、二度目のこの世界で実感しました。

 だから、僕にできることなら何でもしましょう。偉大な魔導士にして恩人であり、今も前線で戦う友人のために。


 まずは、獣人たちの元へ向かいます。

 僕自身の力は強くありませんが、人と竜、人と獣人を繋ぐ架け橋になることはできるでしょうから。

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