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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第6章 宮廷魔導士編
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39 魔王

 結局、お養父様が現れぬままひと月が過ぎた。

 ファブラス伯爵家の仕事は、養子となったイディオが当主代理として引き受けてくれている。これで、ファブラス伯爵家やヴェルデの人々のことはひとまず安心だ。


 そのおかげで、私は宮廷魔導士としての仕事に本腰を入れて取り組むことができた。

 このひと月で変わったことは、ファブラス伯爵家だけではない。世界が大きく震撼する出来事が起こった。

 予めこうなると予期していた私にとっても、やはり衝撃は大きい。


 遂に、魔王がその姿を現したのだ。


「魔界の門から現れた、人間の少年と変わらない姿をしたものを、我々は()()と呼ぶことにしました」


 宮廷魔導士たちが招集され、ディーン様からそのことを聞かされた誰もが深刻な顔をしていた。


「あの……()()は、本当に魔人たちと同じものなのでしょうか? 私には、本物の人間にしか見えなくて……」


 宮廷魔導士のひとりが、そう漏らした。他の魔導士たちも同じように思ったのか、険しい顔をしている。

 今の魔王は、エルメラド王国の上空にぽっかりと開いた黒い穴から顔を覗かせているだけであり、何かをしてくる予兆はない。

 しかし、それが魔王であることは、崩壊した世界の記憶をもっている私にとって疑いようのない事実だった。


 今は大人しい魔王も、しばらくすれば魔獣や魔物、魔人を率いて私たちの世界へ降りてくる。そして、破壊の限りを尽くすのだ。

 姿こそ人間と変わらないものの、光魔法や闇魔法を使って分析してみれば、その体のつくり自体は魔人と大差ないことが分かる。


「見た目に惑わされてはいけません。あなたたちも、()()が人間などではないことに気づいているでしょう」


 ディーン様は冷静に答えた。

 宮廷魔導士であれば、ほとんど誰もがその事実には気がついている。しかし、あまりにも人間に近い姿をしているせいで、受け入れられない者も何人かいるようだ。

 だが、今は受け入れられなくても、いずれ受け入れざるを得ない日がくるだろう。


 観察、警戒、警備を強化し、いつ何が起きても即座に対応する準備が急がれた。

 貴族たちには、領民たちの安全を第一に行動するよう通達がなされた。

 エルメラド王国だけに留まらず、世界各地で魔王に対抗するための手筈が整えられていく。


 重々しい空気があちこちに漂う中、私は空を見上げる。

 レイ王国で見たよりも巨大な魔界の門から、黒髪の少年の頭が覗いている。私たちを観察するように、赤い瞳がギラギラと輝いている。


(何か、言ってる?)


 ぱくぱくと、魔王の口が動いていた。何と言っているのか、唇の動きから予想する。


(なぜ、お前たちだけ)


 まただ。

 少し前に、魔人が言っていた。怒りが込められたような、そんな言葉。

 あれは、魔王の言葉を代弁していたの?

 魔王に、本当に意思があるというのなら。どうして、私たちに対して敵意を向けるのだろう。

 その理由を聞いてみたいと、そう思った。

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