38 失踪
その知らせは突然だった。
「お養父様が、いなくなった?」
魔人との戦闘を終えて帰ってきた私は、青ざめたイディオからその報告を受けた。
「なんで、どうして……?」
「ヴェルデ領に、これまでにないほど強い魔人が出現したそうです。被害を食い止めるために出向いたご当主が、その戦闘中に姿を消したと……」
当主が直々に出るなんて、よっぽど強い魔人だったのだろう。
「その魔人は、ヴェルデの人たちは、どうなったの?」
「ファブラス伯爵家に残っていた魔導士たちが、魔人の消滅を確認しています。民間人への被害も最小限だったと」
それは不幸中の幸いではあるが。
あのお養父様が。優秀な魔導士であるお養父様が、なぜいなくなってしまったのか。
「姿を消した、っていうことは、生きている可能性があるってこと?」
「ええ。ご当主は戦闘中に消えたとしか聞いていません。しかし……」
誰もお養父様の変わり果てた姿は見ていない。なら、生きている可能性もあるということだ。
しかし、それならなぜ姿を眩ましてしまったのか。確率としては、魔人との戦闘中に……と、考えるのが妥当だろう。
でも、信じたくない。あのお養父様が……お養父様に、もう会えないかもしれないなんて。
この間、挨拶して、お話しして、家を送り出してもらったばかりなのに。
「お嬢様……」
イディオが辛そうな顔をしながらも、私を気遣う視線をくれる。
彼の方が辛いはずなのに。ファブラス伯爵家にイディオを連れてきたのは、お養父様だ。誰よりも信頼をおいていたのも彼だ。
親子関係ではなかったのかもしれないけど、その絆は私よりもずっと強いはず。その彼を差し置いて、私が立ち止まっているわけにはいかない。
「状況を確認しないと。私、事情を説明して、少し休暇をもらってくる。イディオも一緒にファブラス伯爵家に帰ろう」
「分かりました。すぐ帰還できるよう、先に準備を進めておきます」
お互いに頷き合い、やるべきことをしに向かう。
お養父様が不在の今、私もイディオもいない状態では、ファブラス伯爵家がどうなっていることやら。
ヴェルデ領のみんながどうしているのかも気になる。
魔王について考えなくてはならないことも山積みだが、今は目の前の問題を解決しなくては。
ディーン様に事情を説明すると、すでに知っていたのかスムーズに許可が降りる。
リーファが既に荷造りを完了させてくれていたおかげで、いつでも帰れるようになっていた。
グランディール様やエルたちには手紙を残し、急いで私たちはファブラス伯爵家に帰還した。
 




