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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第1章 幼少期編
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8 お茶会

「お茶会、ですか?」


 お養父様に呼ばれて執務室に行けば、お茶会の招待状が届いたという話を聞かされた。

 といっても、色々な貴族たちが集まる大規模なものではなく、呼ばれているのはファブラス家の人間だけらしい。

 

「うちに招待状がくるのは珍しいですね。しかも、あまり関わりのないガザーク家からですか」


 招待状に目をやりながら、お養父様が差出人の名を口にする。ガザークというと、思い浮かぶ人がいた。

 リトランデ・ロイ・ガザークーーエルメラド王国第一王子グランディール様の側近だ。グランディール様とは同級生で、親友の間柄でもあったはず。


 学生時代には、私が困っていることがあると何かと助けてくれる親切な人でもあった。貴族出身でも、そうでなくても、気にせず接してくれる。身分も学年も違ったけど、気軽に話せる相手だった。


「あなたにぜひ来て欲しいと書いてありましたから、せっかくなので行ってみますか? 予定が合わず毎度お断りしてきたので、いつの間にかどこからも招待状が届かなくなっていたのですがね」


 社交界に出る年齢でもないし、遊びに来いということなのでしょうけど、と言いつつお養父様は私の様子をうかがった。

 ファブラス家を支えているのはお養父様だ。私が来るまでは後継もいなかったし、なかなか家を長期間空けられないのだろう。それに、社交向きじゃないってこの前言っていたし、お茶会もあまり乗り気ではないんじゃないかな。


 ここは、ファブラス家の威信をかけて、私が頑張るべきだろうか。そう何度も断っていては、ファブラス家の立場が悪くなるかもしれない。

 それに、今の生活に慣れるいいチャンスかも。今後も、こういうお誘いがあるかもしれない。前はあまり関係なかったけど、学生時代に周りの令嬢令息たちが色々な会を開いているのは見てきたからね。今の私には無関係じゃない。


「私、行ってみたいです。お養父様はお忙しいですか?」

「はい。申し訳ありませんが、今回も私は同行できません。その代わりに、イディオを一緒に行かせましょう」


 お茶会への参加が決まってからは、しばらく慌ただしい日々が続いた。なんせ、貴族らしい振る舞い方なんて身についてないんだからね。

 急遽マナーの先生を呼んでもらったり、最低限必要なことは頭に叩き込んだ。前回の知識じゃ、そこは不十分だった。お茶ひとつ飲むのも大変なんだな……。


 ついでに、イディオもマナーの先生から厳しい指導を受けていた。「同行するならあなたもやるのよ!」と、スパルタ指導を受けていたようだ。

 私の専属家庭教師になってくれたイディオだが、生活力はほぼない。うちの魔導士の中ではましな方なんですよ、とは本人談。基礎知識や魔法学については教えてくれるけど、今は無力だった。

 一緒に頑張って乗り切ろう……私たちの結託は強くなったと思う。



 そして、いよいよ迎えたお茶会へ出発する日。

 マナーは完璧とはいかないけど、子どもだからってことで大目に見て欲しい。


 お茶会だからって、いつもより()()()()させてもらった。濃紺のフリルドレスは、色こそ落ち着いているものの、中身が成人している私にとっては可愛すぎるデザインだ。

 着替えさせてくれたメイドのお姉さんはやり遂げた顔をしていたし、変でないことを祈りたい。前からそうだけど、おしゃれに関することにだいぶ疎いから、何がいいのかよく分からないんだよね。信じますよ、お姉さん!


 ガザーク家へ向かう馬車に乗り込み、いざ出発。一緒には行けないけど、両親とお養父様が見送りに来てくれた。

 イディオと数名のお屋敷の人たちを乗せて、ポクポクと馬車は進んでいく。

 ガザーク家が治めるアグロス領までは片道三日ほどかかるため、途中の町で休憩を挟みつつ向かうことになっている。

 せっかくのおめかしも一旦元に戻ってしまうが、その都度整え直すためにメイドのお姉さんも同行してくれている。今日のおめかしは、お養父様たちに見せるためだったんだって。そのためだけに時間を割いてもらっちゃって、本当に至れり尽くせりだ。


「到着するまで暇ですし、昨日の復習をしておきましょうか? すみません、子どもが喜びそうな遊びには疎いもので」


 イディオの提案に私は食いついた。子ども向けの遊びをしたところで、中身が成人している私にしてみれば、さすがに物足りない。


「ううん、それでいいよ。復習は早いうちに、だもんね」

「お嬢様はしっかりしていますねぇ」


 昨日、イディオが教えてくれたのは、ガザーク家についてだった。お茶会に行く前の予習だね。

 ガザーク家はファブラス家と同じく、エルメラド王国の防衛を任されている辺境伯だ。ファブラス家が魔術なら、ガザーク家は武術を極めた一族。国が外部からの攻撃を受けそうになった際には真っ先に動き、未然に防いできたという。国からの信頼も厚く、王族の側近として仕えている者も少なくない。

 ファブラス家との関わりはほとんどなく、今回招待状が届いたのは、私がホロウだから興味を持たれたという理由が大きいのではないかと話していた。


「俺も噂程度にしか知りませんけど、ガザーク家の人たちは血の気が多いって聞きますからねぇ。お嬢様に絡んでくるやつがいないといいんですけど……」


 「うちの人たちは、血の気が多いから気をつけて」ーーそんなことを、リトランデ様も言ってたな。

 うーん、いきなり戦いを挑まれたらどうしよう。この身体での力加減がまだ難しいから、なるべく避けたいんだけど。うっかり相手に怪我させちゃったら大変だよ……。


「ああ、でも安心してください。お嬢様のことは、俺が責任を持って守りますから」


 心配なのは私のことじゃないんだけどね……でも、ありがとう。

 なんだか、今日のイディオはいつもより頼もしく見えるね。

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