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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第5章 学園編(四年生)
134/173

35 卒業パーティー2

 もしかしたら、今までで一番緊張しているかもしれない。

 色々と準備している間に時間は過ぎ、気がつけば卒業パーティー当日を迎えていた。リーファがいつにも増して気合いを入れて身支度してくれたので、鏡に映る自分が何だか自分ではないように見える。

 今日のためにと、グランディール様から贈られた、淡い緑のグラデーションのドレス。金の糸で植物の刺繍が施されている。そして、胸元にはエメラルドの宝石がはめ込まれたペンダントが輝いていた。これは、幼い頃、闘技大会のお祝いとして頂いたものだ。

 改めてこの装いを見ると、エルメラド王家の伝統的な色を纏っていることに気づかされる。


(私、本当にグランディール様の正式な婚約者になるんだ)


 卒業パーティーに合わせて、婚約披露も行う予定になっていた。予め、ファブラス伯爵家やエルメラド王家には連絡がいっている。宮廷魔導士になることについて祝ってもらったばかりだったので、両親にはこの婚約についてだいぶ驚かれた。泣きながら祝福してもらったけどね。


「今日のパーティーでは、お嬢様が一番輝いているはずです。ご卒業、そして、ご婚約おめでとうございます」

「ありがとう、リーファ」


 目にうっすら涙を浮かべながら、リーファは優しく微笑んでいた。幼い頃から傍にいてくれて、お姉さんのようでもあった彼女。時には危険な場所までついてきてくれて、いつも支えてくれた。本当に、ありがとう。


「さぁ、殿下をお待たせするわけにはいきません。そろそろお時間です」

「うん、行ってくるね」


 ドキドキと胸が高鳴っている。うっかりしたら足がもつれそうだ。

 深呼吸して、背筋を伸ばす。よし――行こう。



 卒業パーティーの会場前では、すでにグランディール様が待っていた。私の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきてくれる。


「綺麗だよ、ルナシア」

「あ、ありがとうございます。グランディール様も、素敵ですね」

「ありがとう」


 正式な場で着る王家の正装に身を包み、いつにも増して王子様度が上がっている。思わず見とれてしまう。


「ルナシア……そんなに見つめられると、照れるのだが」

「あっ、も、申し訳ありません」

「いや、別に構わないが‥‥‥」


 片腕で顔を隠しているが、耳が赤くなっている。

 お互いなんだか照れくさくてまともに顔を見れずにいると、「何をなさっているのかしら、まったく」と、聞き慣れた声が届いた。


「グランディール様、ルナシアさん、いつまでそうしているおつもりかしら?」

「アミリア様!!」


 淡い桃色のドレスに身を包み、呆れたようにこちらを見ている。その隣にはリトランデ様がいて、苦笑していた。


「人が集まってきているからな、早く入った方がいい。ただでさえ、今日の君たちは目立つんだから」


 白い軍服のような正装に身を包んだリトランデ様が、ちらりと後ろを見やる。続々と今日の参加者たちが集まってきており、私とグランディール様は注目の的になっていた。

 しまったという表情をしながら、グランディール様がさっと腕を差し出す。


「行こうか」

「はい」


 お互いに苦笑しながら、それでいて幸せな気持ちになりながら、腕を組む。こうしてパートナーとしてパーティーに参加するのは初めてのはずなのに、不思議な安心感があった。


「まったく、見せつけてくれますわね」

「ようやくか、って感じだけどな」


 続くように、アミリア様とリトランデ様も腕を組んで会場に入る。


「見ました? あのアミリア様がグランディール様以外の方と一緒に参加なさるなんて……」

「ええ! しかも、グランディール様のお相手はあのホロウの称号を戴いた魔導士だなんて」

「よくアミリア様は静かでいらっしゃること」


 後ろからひそひそとささやく声が聞こえてくる。しっかり聞こえているけどね。


「煩いぞ、君たち。アミリアのパートナーが俺では不満か?」


 いつも穏やかなリトランデ様が、令嬢たちを睨みつける。ヒッ、と小さな悲鳴をあげて、令嬢たちは黙り込んだ。


「私の選んだパートナーですもの。今日は主役級にビシッと決めて頂かなくては困りますわ」


 その様子を見て、扇子で口元を隠しながら愉快そうにアミリア様は笑っている。


「悪目立ちするつもりはないが、パートナーとしてしっかりその役割を全うさせてもらうさ」

「頼もしいですわ」


 ふふっ、と挑戦的な笑みをこちらに向けて、アミリア様はリトランデ様と一緒に私たちから離れていった。

 アミリア様がパートナーを辞退したという話は本当だったようだ。同時に、背中を押してもらったような気がする。


「ほら、早く行きますよ!! ルナシアさんのドレス姿を拝まなければ!!」

「待ってください! ルナシアさんは逃げませんから!! せめてちゃんとエスコートさせてください、お願いしますぅぅぅ!!」


 再び会場が騒がしくなったと思えば、今度は騎士の制服に身を包んだエルとアルランデ様が入場してきたのだった。その入場の仕方は、だいぶ衝撃的だったが。

 アルランデ様が、エルの足を掴んで引きずられている。エスコートのエの字も存在しない様子だ。

 私の姿を見つけると、アルランデ様のことはそのままに、全速力でこちらに向かってきた。到着した時には、床に倒れ伏すアルランデ様の姿があった。


「ああ、ルナシアさん! ドレス姿、とても素敵です!!」

「あ、ありがとう、エル。あの、アルランデ様が‥‥‥」

「ああ、私のパートナーを申し出て頂いたんです」


 今そのパートナーは床で干物のように倒れ込んでいるけれど‥‥‥。グランディール様が憐みの表情で回復魔法をかけている。

 がばっと起き上がったアルランデ様は、急いでエルの隣に立って腕を掴んだ。


「よ、ようやく捕まえました。やはりエルさんには敵いませんね」


 いや、何の勝負をしてるの?

 ちょっとした騒動が巻き起こる中、続々と参加者たちが会場入りしてくる。

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