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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第5章 学園編(四年生)
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34 宮廷魔導士3

 後日、お養父様に承諾書を頂くべく、私はファブラス伯爵家に帰って来ていた。

 帰ることは事前に知らせてあったので、お父さん、お母さん、お屋敷のみんなに迎えてもらう。宮廷魔導士になるという夢を叶えられてよかったね、とみんな口々に祝ってくれた。


 お養父様は相変わらず忙しいようで、執務室に篭りっきりだとイディオが教えてくれた。

 本当は出迎えてくれるつもりでいたらしいのだが、どうしても今日の昼までに宮廷に送らなければならない書類があるらしい。

 お養父様のところには、その仕事が片付いてから顔を出すことにした。


 しばらくお茶を飲みながらみんなと談笑していると、お養父様の仕事が終わったようだとイディオが知らせに来てくれる。

 執務室の扉をノックすると、相変わらず表情を変えないまま椅子に座っているお養父様の姿があった。


「お忙しいところ、時間を作って頂きありがとうございます」

「いえ、こちらこそ出迎えられず、申し訳ありませんでした。どうしてもすぐに終わらせないといけない仕事があったもので」

「急ぎの用件だったのですね」

「最近、魔獣や魔物が活発化しているのは、あなたも知っているでしょう。各領地の被害状況をまとめて知らせるようにと、陛下からの仰せでして」


 その言葉に、ぐっと両手に力を込める。


「ヴェルデ領の被害状況は?」


 ファブラス伯爵家が治めるヴェルデ領。しばらく領地を離れていた身としては、現状が気になった。


「幸い大きな被害は出ていません。ファブラス家からも魔導士を派遣して、警備を強化していますから」


 それを聞いて少し安心する。

 これから先、もっと魔獣や魔物の脅威は増していくだろう。お養父様がいるし、簡単にヴェルデ領は潰れないと思うけど、やっぱり不安だ。


「宮廷魔導士になるという、あなたの夢が叶いましたね。おめでとうございます」

「ありがとうございます。魔獣たちの問題を解決できるように、全力で頑張るつもりです」

「そうですか。それが、あなたの選択なのですね」


 お養父様は、祝福の言葉ののち、すぐに承諾書にサインをしてくれた。

 迷いのない手つきに、聞かなければと思っていた疑問を投げかける。


「お養父様は、私が宮廷魔導士になることや、殿下の婚約者候補になったことについて、反対はなさらないんですか?」

「反対? なぜですか?」


 分からない、といった風にお養父様は首を傾げた。


「私は、ファブラス伯爵家の後継者として、養子になりました。今まで、とてもよい環境で学ばせて頂いたこと、とても感謝しています。でも、もしかしたらファブラス伯爵家を継ぐことはないかもしれない……私はお養父様から受けた恩を、どうすれば返せるのだろうと、そう考えていたんです」

「そういうことですか」


 なんて事はないように、まったく口調を変えずにお養父様は応える。


「あなたの選択を、誰が止められるでしょうか。誰が否定できるでしょうか。私は、ここまで立派に成長してくれたことを誇りに思います」


 誇り。

 私は、お養父様にとって、誇れる人間になれたのだろうか。


「ファブラス伯爵家の当主になってほしいから、あなたを養子に迎えたわけではありません。あなたの魔法の才能を見込んで、その力を伸ばしたいと考えたから、お誘いしたまでです。そこまで重圧を感じる必要性はありません」

「後継者は、どうなさるんですか?」

「あなたがやはりやりたいと思う日がくれば、あなたに譲りますし、そうでなければ他の人を探すだけです。元々、ファブラス伯爵家は血筋で存続してきた家系ではありませんから」


 確かに、お養父様も養子だったというし、ファブラス伯爵家においては、血縁関係が当主の絶対的条件ではない。


「あなたは、あなたが思うように、やりたい事を存分にやってください。それが、最終的にはみんなの為になるでしょう」

「ありがとうごさいます、本当に。血は繋がっていなくとも、ファブラス伯爵家の人間として、そして、お養父様の娘として、後悔のないように生きていこうと思います」


 何だか背中を押してもらった気がする。モヤモヤしていた不安は、すっかり消えていった。

 美しい字で書かれたサイン。承諾書を受け取り、大事に抱える。


「さぁ、あなたにも時間はあまりないでしょうから、急ぎなさい」


 書類の提出期限まではまだ数日あるが、余裕をもって出すに越した事はない。それに、卒業も間近に控えているので、論文もまとめなければ。


「お養父様の論文、参考にさせて頂いています。卒業まで、気を抜かずに頑張りますね」

「あなたもヴァイゼ先生の研究室に所属していましたね。大した研究はしていませんでしたが、少しでも参考になれば」

「大したなんて、そんな謙遜を……お養父様は本当に優秀な学生だったって、みんな口を揃えて言っていましたよ」

「そうですか……私は、皆さんが思うほど優秀ではないのですけれどね」


 何故だか、ちょっとだけお養父様の表情が暗くなった気がした。

 あまりこの話題には深く触れない方がよいかと思い、部屋を後にする。


 誰が見ても優秀だと思うんだけど、どうしてお養父様はそれを認めようとしないんだろう。謙遜している、とも違うような……。うーん、やっぱりお養父様の考えていることを読み取るのは難しい。

 新たな疑問が浮かんだが、あまり考えすぎるのはやめようと、頭を振った。

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