34 宮廷魔導士2
ファブラス伯爵家に手紙を送ってからしばらくして。お屋敷のみんなから返事が届いた。
「お父さんも、お母さんも喜んでくれてるみたい。お屋敷の人たちも、皆おめでとう、って」
寮の部屋で手紙を読みながら、近くにいたリーファに声をかける。
「よかったですね、お嬢様」
満面の笑みでそう応えてくれる。
「私、ファブラス伯爵家の養子になってから、とってもよくしてもらった。推薦状をもらえたのだって、十分な環境で勉強させてもらえたからだし。どうしたら、恩返しできるかな?」
「宮廷魔導士の推薦状をもらえただけで、恩返しには十分では? それに、お嬢様はファブラス伯爵家の人間として、これまで多くの功績を残しています。エルメラド王家も無視できないほどに」
本来は、ファブラス伯爵家の後継者として養子になった意味合いが強かった。お養父様は無理強いするような人ではなかったので、自由にさせてもらえていたけれど。
でも、こうして宮廷魔導士や、グランディール様の婚約者候補という選択をしてきて、お養父様は本当にこれでよかったのだろうかと思ってしまう。
リーファは気にすることはないと言ってくれるけれど、ずっと気になっていたことだ。
「それほど気になるのであれば、直接ご当主様に聞いてみてはいかがですか?」
リーファの言う通りかもしれない。
承諾書にサインしてもらうためにも、一度ファブラス伯爵家に帰らなくてはならない。その時に、話をしてみよう。
「そうだね、今度お養父様に聞いてみるよ」
優しく微笑みながら、リーファは続ける。
「お嬢様が来てから、お屋敷の雰囲気はガラリと変わりました。あのだらけた魔導士たちも感化されたのか、少しはしっかりしてきましたし、何よりお屋敷の中の雰囲気が明るくなりました」
そんな話をしていると、お茶菓子を届けにレオがやってきた。
これまでの経緯をリーファが説明すると、いい香りがするお茶を淹れてくれながら、クッキーが乗せられたお皿をずいと、差し出してくる。
「そんなこと考えてたの? 少なくとも、アタシはお嬢様に感謝してもしきれないわよ」
きっとお腹が空いてるから、そういう心配事が頭に浮かぶのね、と早く食べるように促される。私がこういう風にしていると、大抵はらぺこだと思われてるよね。
サクサクとしたクッキーを口に運ぶと、一瞬だけ心配事はどこかへ消えてしまった。あながち、間違ってもいないのかもしれない。
「私も、お嬢様がお屋敷に来てから、仕事が楽しくなりましたよ。ドレスを着せている時なんて、とっても幸せな気分になるんですから」
「お嬢様のドレスアップした姿は素敵よね~! 思わず見惚れちゃうもの」
「それは、リーファたちの腕がいいだけで……」
「「お嬢様は、ご自分の魅力が分かってないですね(わね~)」」
まったくこの人は、と残念そうな目で二人とも私を見てくる。
「とにかく、私たちはお嬢様のことが大好きなんです。ですから、恩返しだとか、迷惑になっていないかとか、そういう心配はいらないのですよ」
「もし、ご当主様が何か言ってきたら、アタシたちが口添えしてあげるから、大丈夫よ」
二人に太鼓判を押され、ちょっと勇気づけられる。
私は、ファブラス伯爵家の人間として、認めてもらえていたのだろうか。少なくとも、この二人が嘘をついているようには見えない。
「ありがとう、リーファ、レオ。私も二人のことが大好きだよ。昔から、いつもお世話になってたね。本当にありがとう」
私がお礼を言うと、二人は深々と頭を下げた。
「お礼を言うのは、私たちの方ですよ。お嬢様にお仕えできて、本当に幸せです。ありがとうございます」
「アタシも。お嬢様には何度も救われたわ。本当に、ありがとうございます」
慌てて頭を上げさせる。
私も、二人も、少し照れくさい気持ちになりながら、それでいて和やかな空気に包まれた。




