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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第5章 学園編(四年生)
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33 進路(叔父と甥)

 エルメラド王立学園。

 かつてそこに通っていた男は、懐かしむようにその門をくぐった。

 サラリとなびく空色の髪に、スカイブルーの瞳。男が歩くと、きゃあきゃあと女子生徒たちが騒ぐ声が聞こえた。


 宮廷魔導士にして、エトワール侯爵家の現当主でもある、ディーン・ステラ・エトワール。麗しの貴公子としても名高いが――口を開かなければ、と彼をよく知る者たちは口を揃えて言う。


 学園のとある一室。

 その扉をノックすれば、中から「どうぞ」と、声がかかる。


「叔父上、お久しぶりです」

「おや、珍しいですね。あなたがここに来るなんて」


 来訪者の顔を見て、ヴァイゼは目を細めた。


「ルナシアさんを、宮廷魔導士として推薦しに来たのです。尤も、推薦状などなくとも、彼女は間違いなく合格するでしょうけどね」


 久しぶりに顔を合わせることになった甥っ子を前に、ヴァイゼは少し話でもと座るよう促すのだった。

 ルナシアはこの研究室の学生ではあるが、あいにく今は席を外していた。

 半年後の試験に向けて勉強に励んでいるようなので、推薦状はいらないだろうとヴァイゼも同じことを考えていた。

 しかし、断る理由もないだろうし、何より国が彼女の力を欲しているということだ。双方の利害が一致しているのならば、受けない手はない。


「叔父上が羨ましい。彼女と一緒に研究しているのでしょう?」


 優雅な仕草でお茶を飲んでいるのに、子どもっぽく拗ねる甥の姿に思わずくすりとしてしまう。


「学園に入るまでは、あなたと一緒にヴァン様の研究について語り合っていたそうではないですか。私など、まだ出会って数年の話ですのに」

「しかし、今が魔導士にとって成長の時期でしょう。それを間近で見られる叔父上が羨ましくて羨ましくて……」


 サッ、と目元をハンカチで拭う。

 感情が昂る甥の姿は幼い頃から見慣れているので、ヴァイゼは涼しい笑顔でニコニコと受け流す。


「確かに、彼女は興味深い。これからどう成長していくのか、まだまだ伸びしろのある子ですからね」


 しかし、ディーンほどではないにしろ、ルナシアの成長を間近で見られることに興奮しているのはヴァイゼも同じだった。

 大魔導士と呼ばれたヴァンを上回る、いや、歴代最高のホロウだと名高い彼女と共に研究できるという幸運。魔法を研究する者であれば、誰でも羨ましがるだろう。

 これでは、どちらが先生かわからないものだが、とヴァイゼは心の中で苦笑する。


 このままでは何時間でも語り続けそうな甥を落ち着かせるためにも、話題を変えた。


「兄はまだ戻りませんか」

「ええ、今頃どうしていることやら。まぁ、今更帰ってきても何か変わるわけではないですし。手紙くらいは寄越せと思いますけどね」


 先程までの姿が嘘のように、呆れ返った表情でディーンは答えた。

 エトワール侯爵家の前当主であったのは、ディーンの父。しかし、昔からの自由奔放な性格で、よくふらっと家を留守にすることも多かった。

 そんな姿を見かねて、弟であるヴァイゼを当主にしようとする動きが見られ始めた。ギスギスした親族を宥めるべく、継承権は放棄するとの意を込めて、ヴァイゼは本家から退いたのだった。

 今回の一件で、流石に兄も考えを改めてくれると期待していた部分もあった。


「私が本家から離れた後すぐに、兄が行方をくらましましたからね。まったく、昔から行動が突拍子も無い」


 しかし、そんなヴァイゼの思いは裏切られ、残された甥が跡を継ぐことになったのだった。

 結果としては、前当主よりも何倍も優秀で真面目に仕事をこなしているということで、親族たちから反感を買うこともなかった。


「エトワール家の当主のことなら心配ありませんよ。兄弟たちもいますし、今のところ支障はありませんから」


 言葉にせずとも伝わったのか、ディーンはけろりとした表情でそう言った。

 宮廷魔導士としても大変だろうに、エトワール侯爵家の当主としての仕事もこなしている。


「本当に、兄は優秀な子をもったものです」


 ヴァイゼは、自分がエトワール侯爵家の後継者争いから退いたことを少し後悔していた。

 本来ならば自分がすべきだった仕事をまだ若い甥が引き受け、もっと力を入れたいであろう魔法研究の妨げになっているのではと思ったからだ。

 だが、無用な心配だったなとヴァイゼは肩の力を抜いた。


「今となってはもう遅いかもしれませんが、手伝えることがあれば何でも言ってください」

「今のところは大丈夫かと。ああ、でももし父が帰ってきたら、お話をしてもらえると。()()()()()、ね」

「それは言われずとも、任せてください」


 静かに鬱憤をぶち撒けながら、お互いにやりと笑みを浮かべるのだった。

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