33 進路(リトランデ視点)
我儘で、自分の思い通りにならないことが許せない。様々な方法を駆使して、グランに近づく者たちを排除しようとしてきた。
それが、アミリア・アルテ・プリンシア、俺の幼馴染。時間が巻き戻る前のあいつの姿だ。
邪魔者を遠ざけようとするあまり、自らが嫌煙されることになってしまった。彼女の側から人はいなくなり、次第に独りになっていった。アミリアが二年生になった頃には俺も学園を卒業してしまっていたので、手を差し伸べてやることはできなかったのだ。
そんな中、最後まで彼女の側から消えることがなかったのがルナシアだった。ルナシアもアミリアから数々の嫌がらせを受けていたはずなのだが、それを気にした様子もなく、今まで通りに接し続けた。
それを見たアミリアにも心境の変化があったのか、学園を卒業する頃にはそれまでの当たりの強い振る舞いはなりを潜め、ルナシアとも上手くやっているようだった。
学園での目に余る行動はあったものの、後半は改善が見られたとあって、グランとの婚約の話もそのまま進んだ。
一途に想い続けていたグランとの婚約は、アミリアにとって何よりも嬉しいことだっただろう。それなのに、どこか納得のいかない顔をしていた。
その理由は、時間が巻き戻った今のアミリアを見ていて察することができた。
グランに用があって城の中を探していた時のことだ。ちょうどアミリアと何か言い争っているところに出くわしてしまった。
学園に入ってからというもの、会える時も限られていたわけで。しかも、今はアミリアにとって進路を決める大事な時期。
こうして城までやってきたというのは、余程重要な話があったのだろう。
言い争っている、というのは語弊があるかもしれない。一方的に、アミリアが何か捲し立てているようだ。
そのまま割って入れるような空気でもなかったため、陰からこっそり様子を窺う。
その内容に、俺は耳を疑った。
(ルナシアを、正式な婚約者に?)
アミリアの口から出てきた言葉が、俺は信じられなかった。聞き間違いだろうと耳を澄ませるも、聞こえてくるのは「早くルナシアを正式な婚約者にしろ」と、そんな内容だった。
あのアミリアが。グランのことが大好きで、それ故に近づく女性に嫌がらせの数々をしてきたあいつが。
二人の話が終わってからも、驚きから俺はその場を動けずにいた。
「盗み聞きなんて、行儀が悪いのではありませんこと?」
「悪いな、偶然通りかかってさ。出るに出られなかった」
こちらに歩いてくるアミリアと鉢合わせし、彼女はバツが悪そうに顔を背けた。
聞いたわけではないが、勝手にあっちから話し出した。
グランに想いを伝えたが、やはり彼の本心はルナシアにしか向けられていないこと。自分には、友人以上の想いは抱いてもらえないことを改めて確認したのだという。
「呆れたでしょう? やっぱりグランディール様のことは諦めきれなくて……この様ですわ」
「お前がどれだけ頑張ってきたかは知ってるよ。そこまで想い続けられるのは、素直に凄いことだと思う」
グランを純粋に好きだという彼女の気持ちに嘘偽りはない。過剰過ぎる部分はあったかもしれないが、その恋心は綺麗なものだと思った。
「この国は、王妃は一人だけなんてきまりはないはずだけどな。今の陛下も二人の王妃を迎えてる」
「私は私だけを愛してくれる方でなくては嫌なのです」
今のエルメラド王家の話を持ち出してみても、アミリアは自分のプライドなのか、はたまた自分にグランの愛情が向けられることはないことを悟っているのか、首を横に振った。
もっと落ち込んでいるかと思えば、どこかその表情はさっぱりしているように見えた。
好きだからこそ、その相手が最も幸せになるであろう道を選んで欲しい。俺が、ルナシアのことを諦めた時のように、アミリアも気持ちの整理をつけたのだろうか。
気丈に振る舞っていた彼女だったが、静かに光の粒が頬を伝った。
迷いながらも、それを持っていたハンカチで拭ってやる。
「リトランデ様も、泣きたければどうぞ? 今回は黙っていて差し上げますわよ」
それでこそ、アミリアだ。
この状況下でも、そんな口をきく余裕があるとは。思わず苦笑いしてしまう。
この様子だと、俺がルナシアのことを想っていたことを知っているのだろう。
だが、俺の想いはとっくに淡く消えていったのだ。
「期待に添えなくて悪いな。俺はとっくに割り切ってる」
「その余裕ぶっているところ、気に入りませんわ」
ふん、と顔を背けて口を尖らせる。
「割り切ってはいるが、余裕ではなかったさ」
俺だって、ルナシアのことが本気で好きだったのだ。だが、それ以上に大切な友人たちの幸せを願わずにはいられなかった。ただ、それだけだ。
「どうだ? 今日くらいは意地張るのをやめたら。胸なら貸してやるぞ」
「また子ども扱いなさって……」
そう口に出したものの、その両目からはポロポロと涙がこぼれ落ちている。
観念したのか、ボスっと勢いよく胸に飛び込んできたと思ったら、「グランディール様、グランディール様ぁ……」と、声をなるべく押し殺しながら泣き始めるのだった。
よく頑張ったよ、アミリア。
そっと、俺はその頭を撫でてやった。




