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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第5章 学園編(四年生)
126/173

33 進路4

「ルナシア先輩、お久しぶりです」


 そう声をかけられて振り返れば、そこには以前よりも大人びたハイン王子が立っていた。


「お久しぶりです、ハイン様」

「ここしばらく、お忙しかったようですね。レイ王国の件もお聞きしましたが、やはり流石と言うべきか」


 お会いできず寂しかったです、と彼は人好きのする笑みを浮かべて言葉を付け加えた。


「宮廷魔導士になられるそうですね」

「はい。まだ、試験を受けてみないことには分かりませんが」

「ははは、ルナシア先輩を落とすようなら、他の受験生たちは揃って不合格でしょうね」


 雑談をしながら学園の中を散策していると、今後の進路のことが話題に上がった。

 前回の記憶もあるのでずるいと言われてしまうかもしれないが、前回以上の成績を残して合格を勝ち取るつもりでいる。魔王を倒すためには、宮廷魔導士としての権限がやはりほしい。


「僕も、来年にはこの学園を卒業します」


 ハイン様は、自分の進路について話し始めた。私はそれに耳を傾ける。


「エルメラド王国の王族として、何ができるだろうかと。次期国王になるであろう兄上や、魔法に優れた姉上と同じことはできません」


 そう話す彼の表情は穏やかで、以前のような自暴自棄な様子は感じ取れない。


「世界を見てみたいと思っているんです。先輩に諭されてから、興味をもち始めたもので」


(ハイン様のよさを分かってくれる人を探せばいいんです。世界は思っている以上に広いんですから)


 私が二年生の時、彼にかけた言葉を思い出す。


「外交に携わる仕事ができればと、今勉強を頑張っているところなんですよ。コミュニケーションは得意な方だと思っていますから。たとえ、魅了(チャーム)を使わなくとも」

「素敵な目標だと思います」


 今の彼には、かつての彼以上に魅力があるように感じた。

 夢に向かって新たな一歩を踏み出そうとする姿。視野を広げて、自分の力を開花させていこうとする努力。

 自分の過去とも向き合い、本当に王子は成長したのだと思った。


「ルナシア先輩、今の僕のことをどう思いますか?」

「この国の王族として、素晴らしい人柄に成長されていると思います」

「あなたにそう言ってもらえるのなら、確かなのでしょう。自信がつきました」


 どこかホッとしたように、ハイン様は肩の力を抜いた。


「兄上とは、最近いかがです? 上手くいっていますか?」

「えっと、その……おそらく、はい」


 ここで振られるとは思っていなかった話題に、受け答えがしどろもどろになる。

 グランディール様のことは、レイ王国での一件があってから、よく考えるようになった。

 元々は、私が婚約者候補に選ばれたのは、ホロウの力が必要だからだと思っていた。しかし、グランディール様にも世界崩壊の記憶があり、私のことをいかに大切に思ってくださっているのかを知り、ホロウの力が必要だから婚約者候補に選ばれたわけではないことを認めざるを得なかった。


 グランディール様は、私のことを好いてくださっている。それは、リトランデ様やグレース様、アミリア様の態度からしても疑いようのない事実だろう。

 そのことを自覚してから、私は戸惑ってしまった。今までは、臣下として彼が治めるエルメラド王国を守る者として宮廷魔導士になることしか考えてこなかったのだ。

 私が彼の正式な婚約者になるということは、この国の王妃になるかもしれないということ。

 何よりも、私自身が彼のことをどう思っているのか。最近はよくそのことについて考えていた。


 そして、ようやくその結論が出そうな気がする。確信をもつにはまだ足りないかもしれないけれど。


「最近は、グランディール様のことをよく考えるようになりました。次期国王としてではなく……一人の男性として」

「そうですか……はぁ、誰かが手助けしたんですね。あなたは鈍感なままでいてくれればよかったのに」

「え?」

「先輩の顔を見れば分かりますよ。好きなんですね、兄上のことが」


 そう言われて、私は思わず自分の顔に両手を当てた。何だか無性に恥ずかしい……。

 私は、グランディール様のことが好きだ。この国の主としてではなく、一人の異性として。

 この胸がムズムズするような感覚は、誰かを好きになるということなのだろうか。


「まったく、兄上には敵いませんよ。少しはチャンスがあるかと期待していたのに」


 残念そうな顔をしながら、ハイン様はため息を吐いた。


「ハイン様?」

「ご存知でしたか? 実は、僕の婚約者としても先輩の名前があがっていたんですよ」

「えっ!?」

「まだ今からでも間に合いますが」


 からかうような素振りではあったが、ハイン様の目は本気だった。期待とーーそれでいて、諦めを含んだ色をしていた。


「申し訳ありません」


 私にできることは、はっきりとそう告げることだけだった。

 ハイン様は初めからそれが分かっていたように、ふっと寂しげに微笑んだ。

 しかしーー


「それでこそ先輩です。でも、僕もまだ諦めたわけではありませんから」


 正式な婚約はまだですからね、とハイン様は彼らしく、悪戯っぽい言葉を残してその場を後にするのだった。

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