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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第4章 学園編(三年生)
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29 旅の商人4

 迎えた出発当日、多くの人が見送りにきてくれた。

 久々にグランディール様とも顔を合わせたが、非常に気まずい。以前の世界での彼に戻ったように、表情が消え失せている。こうしてみると、本当に今の世界では表情豊かになっていたんだな。なんて呑気なことを考えている場合ではない。もしかしなくても怒ってるよね?


「お兄ちゃん、ルナをお願いね」

「ああ、必ず無事に連れ帰る」


 見送りに来てくれたグレース様に、グランディール様は力強く頷く。


「私は一緒に行っても足手まといになるから留守番してるけど、お兄ちゃんがいない間、国のことは任せて。頼りないかもしれないけど、頑張るから」

「頼りにしているぞ、グレース」

「! うん!!」


 ぱあっと表情を明るくさせ、元気よくグレース様は返事をした。頼りにされて嬉しいんだろうな。


 レイ王国へ行くのは、私をはじめとしたファブラス家の人たち、アドラさんとファルコさん、グランディール様、そして陛下の命が下った騎士や魔導士たちだ。その中にはリトランデ様の姿もある。


「騎士団の方はガザーク家の人間たちで溢れてるから、人員は足りてるんだ。俺はグランの側近だし、こっちを優先させろっていう兄上の意向もある」


 最近、騎士団にやたら屈強な人たちが出入りしていると思ったら、ガザーク家の方々だったらしい。騎士団に所属していた経験があるらしく、指導者が不足していた隊に一時的に配属しているそうだ。

 リトランデ様の兄はガザーク家の新しい当主になられたため自分の領地からなかなか離れられないが、前当主である父アレグリオ様も騎士団の指導に混ざっているそうなので、ガザーク家の人間たちの統率は問題ないのだろう。

 当主の座を譲り、暇になったアレグリオ様が仕事の邪魔をしてこないように、レイリオ様が意図的に送り出したのだともまことしやかに囁かれている。


 忙しいのはグランディール様だけでなく、その側近であるリトランデ様も同じだ。だが、レイリオ様が色々と騎士団のことに介入してからは幾分か体調がいいように見える。職業体験中、お城にいる時間が多かったからリトランデ様の姿もよく見かけていたんだけど、随分と疲れ切った顔をしていたから心配だったんだよね。

 せっかく負担が少なくなっていたのに、私の我儘で仕事を増やしてしまった。だからといって、止めろと言われても引くわけにはいかないからなぁ‥‥‥。


「グランディール様、無事のお帰りをお待ちいたしております。リトランデ様、殿下をしっかりお守りしてくださいませ」

「はいはい、分かってるよ。それにしても、よく寝坊しなかったな」

「からかわないでくださいませ! 婚約者候補が見送りに遅れるなんて、あり得ませんわ」


 幼馴染のリトランデ様とアミリア様。そのやり取りは兄妹のようで微笑ましい。


「見送りありがとう、アミリア。必ず無事に帰還すると約束しよう」


 リトランデ様を前にする時と打って変わって、グランディール様の言葉にアミリア様は顔を赤くしている。

 しばらくぼうっとしていたが、はっと我に返ったアミリア様が私の方に向き直った。


「ついでに、本当についでですけれど! あなたもせいぜい、何事もなく帰って来られるといいですわね!!」

「ありがとうございます、アミリア様」

「ふん、別にあなたの心配をしているんじゃありませんのよ? ライバルがいなくなっては張り合いがなくなってしまいますもの。それだけですわ!!」


 つーん、とそっぽを向きながらではあるが、アミリア様らしい心配のお言葉をいただいた。



 レイ王国へ行くためには、まずレイ王国近くの人気のない場所に転移し、そこからは馬車や魔法で移動する。馬車はアドラさんが商売でいつも使っているものを貸していただき、魔導士たちは魔法で自分と、馬車に乗れなかった人たちを運ぶ。レイ王国は魔導士が多いので、飛行するのに魔法を使っても驚かれないだろうとのことだった。

 それでも転移魔法を使える魔導士は珍しいらしく、余計な騒ぎを起こさないためにも人気のない場所に移動することを選んだ。


「ホロウの名を戴いたお嬢様はともかく、ご当主も転移魔法使ってましたよね。本当に底の知れないお方ですよ」

「ヴァン様がご健在だった頃はホロウの称号を若者に与えないようにされていたって聞くし、時代が違えばお養父様も候補にあがっていたのかもしれないね」


 魔獣の問題をお独りで抱えようとしていたヴァン様。若者にホロウの称号を与えるのを反対し続けていたのは、若者に魔獣の問題を背負わせたくなかったからなのだろう。私がホロウの称号を戴いたのは晩年であり、ヴァン様本人もそれを察していたのかもしれない。

 ホロウの称号を戴いた日、ヴァン様はとても辛そうだった。本当は嫌だったんだろうな。それでも、自分に時間がないことを分かっていたから、苦渋の決断をしたのだ。

 ヴァン様から繋がれたホロウの系譜。絶対に無駄にはしません。


 転移魔法の準備をしていると、ここまで静かにしていたエルが急にそわそわし始めた。

 

「ああ、やっぱり私も一緒に!」

「抑えてください、エルさん!!」


 飛び出そうとするエルを、アルランデ様が若干引きずられながらも羽交い絞めにする。彼は学園に入学したての頃から、(私のところに来ていて)授業開始ギリギリになっても姿を現さないエルを探しに来てくれたり、獣人だからと騎士科の学生たちから避けられていた彼女が早く馴染めるようにしてくれたりと、色々と気遣ってくれている。

 いつの間にやら、たまに歯止めの利かなくなるエルのブレーキ役になりつつあるが。


「兄上、早く行ってください!」

「よくやった!」


 切迫した表情で、アルランデ様が叫ぶ。短時間でもエルを抑えておくのは相当大変なはずだ。

 馬車の近くに全員移動したのを確認し、急いで転移魔法を展開させる。 


 転移寸前、エルを抑えきれなくなったアルランデ様が吹っ飛ばされるところを見た気がした。

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