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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第4章 学園編(三年生)
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29 旅の商人3

 レイ王国へ出発が決まってからは、その準備に追われていた。黙っているわけにもいかないのでリーファとレオにもその旨を説明したが、案の定ついてくることになった。

 それから、どこから聞きつけたのか、私が報告しに行くより早くエルも心配して駆けつけてくれていた。

 学生をできるだけ巻き込むのは避けたいという陛下のご意志と、人間と獣人の間の仲介役となっているエルを、今のエルメラド王国から離すわけにはいかないとのことで、彼女は留守番だ。

 しぶしぶ引いてくれたが、


「今回はグランディール様もいるので多少は安心ですが、くれぐれも無茶はなさらないでくださいね」


と、釘をさされてしまった。陛下といい、とにかく私は信用を失っているらしい。


 レイ王国へ旅立つ許可を頂いてから、私とアドラさんはすぐに計画を立て始めた。


「馬車で移動すると時間がかかるので、今回は転移魔法を使います。人目につくところだと驚かせてしまうかもしれないので、なるべく人気のない場所に移動したいのですが」

「それなら、この辺りがよさそうだね」


 今は、アドラさんとファルコさんが使っている部屋にお邪魔して、机の上に広げた地図を覗き込んでいる。こういったことにあまり興味がないのか、ファルコさんは扉に背を預けて欠伸をしていた。


 出発当日の行程を話し合っていると、扉をノックする音が聞こえた。

 ばっ、と勢いよく飛び退き、ファルコさんがいつでも飛びかかれるように構える。

 アドラさんが誰か尋ねれば、部屋の前で待機してくれていた宮廷騎士の声で、ファブラス家の人間だと教えてくれた。

 私の関係者? 間もなく開かれた扉の先に立っていた人物を見て、思わず立ち上がる。


「お嬢様、お久しぶりです」

「イディオ! どうしてここに?」


 危険はないと分かったのかファルコさんが警戒を解く。それを確認してから、イディオは部屋の中に足を踏み入れた。

 獣人たちとの争いが終わってからしばらく会っていなかったので、懐かしさを感じる。離れていたのは数ヶ月だけなんだけど、学園に入る前は長い時間一緒に生活していたからかな。一緒にいると何だか安心するんだよね。


「お嬢様の護衛として送り出されました。俺も一緒に行きますよ」

「決まったの一昨日なのに、早いね?」


 魔法で飛んでくれば一日ほどで着く距離ではあるが、手紙を送ったなら私がレイ王国に行くという情報が伝わったかどうかという頃合いではないだろうか。


「ご当主に、エトワール侯爵から魔法で連絡がきたんだそうですよ」

「ディーン様から?」

「書面でも正式にファブラス伯爵家に連絡がくるそうですが、知らせるのは早い方がいいだろうとの陛下のご判断で」


 それなら情報を受け取って、移動する時間はあるね。それでも早いと思うけど。

 魔法での連絡は、知っている相手同士なら遠距離でも魔力の波長を合わせやすいので成功しやすい。お養父様とディーン様は学園の同級生ということに加え、お互いに優れた魔導士だから出来たことなのだろう。

 イディオの他にも、腕のたつファブラス家の魔導士さんたちが何人か協力してくれるそうだ。ありがたい。手配してくれたお養父様にも感謝しないとね。


「それにしても、ま~た面倒なことに首を突っ込んでるんですね」

「あはは……」


 イディオにも呆れた視線を向けられてしまう。

 何だかんだイディオも面倒事に巻き込まれる確率が高い気がするのは、私のせいかもしれないな……。


「あなたがレイ王国の国王陛下と繋いでくれるっていう、旅の商人ですか? 俺はイディオ。ファブラス伯爵家で魔導士として働いています。今回はお嬢様の無茶に付き合わせてしまったようで……」

「いえいえ、元はといえば僕がホロウについて話したからなので。アドラといいます。こっちは護衛のファルコ」


 小さい頃から面倒を見てもらっているので、すっかり保護者のようだ。アドラさんに頭を下げているイディオを見ながらそんなことを思う。


「お嬢様は少し反省してくださいよ。ご両親も、ご当主も、ファブラス家の使用人たちも凄く心配してるんですからね」

「ごめんなさい……」

「困っている人を放っておけないのは分かりますけど、いくらホロウの称号を戴いているといっても、まだ子どもなんです。面倒事は大人に任せておけばいいんですよ」


 中身は大人なのが申し訳なくなるね……優しいなぁ、イディオは。お養父様に信頼されているのも、こういう性質だからなんだろうな。

 もうレイ王国の件は決定事項だし、どうしようもないと分かっているからか、それ以上注意されることはなかった。


「迷惑かけてごめんね」

「まぁ、主人の我儘に応えるのも俺たちの役目ですから。こういう時くらいしか、お嬢様に困らせられることはないですし。俺も自分で護衛を引き受けましたから、お嬢様が責任を感じることはないですよ」


 お養父様は本当に嫌がっていることをさせたりしないし、イディオが自分で私の護衛を引き受けてくれたのは本当なんだろう。


「もう十年近く前になりますか。ガザーク家のお茶会の時は情けないところを見せちゃいましたけど、今回は一味違いますよ。お嬢様のことは俺が守りますから」


 それを聞いて思い出す。初めてガザーク家のお茶会に招かれた時のこと。

 お茶をしに行ったはずが、いつの間にかアレグリオ様と模擬戦をするって話になっちゃったんだよね。

 流石に見た目は子どもだった私に戦わせることはできないってことで、イディオが代理を引き受けてくれたのだ。

 模擬戦には負けてしまい、本人もそれは気にしていたけど、私のことをしっかり守ってくれた。本当に感謝してるよ。


「いつもありがとう」

「改まって言われると照れますから……別に、いつも無茶するのを許したわけではないですからね?」


 少し気恥ずかしそうに、顔を逸らされる。でも、しっかりと釘はさされるのだった。

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