世界崩壊の時
その日、世界が崩壊した。
百年前、突如として魔界へ通ずる門が開かれ、魔物たちが人間界に現れるようになった。
年々その数は増え、ついに「魔王」までもが人間界に襲い掛かった。
私は、それを止めることができなかった。
天才魔導士などと呼ばれ、その証である「ホロウ」の名まで頂いた。宮廷魔導士にも任命され、魔物たちの脅威から人々を守る義務があった。
だが、私はその期待に応えることができなかった。所詮は、名ばかりが独り歩きした庶民の娘に過ぎない。
そんな私を信じてくれた人がいた。
そんな私を支えてくれた人がいた。
それなのに、私は何も返すことができなかった。
魔王と戦い、そして敗れた。力の差は歴然、全魔力を使い果たした私は、もう自力で動くこともできなかった。
もう目は見えない。音も聞こえない。
だが、ほのかに感じる温かさが、誰かが私を抱き起こしていることを教えてくれる。
もうすぐ世界が終わるというのに、私なんかを気にかけてくれた優しい誰か。
「守れなくて、ごめんなさい」
それがちゃんと言葉になっていたのか、確認することはできない。
ああ――雨が降ってきた。終わりが近づいた世界が、悲しんでいるのかもしれない。
ルナシア・ホロウ・シャルティル――私の人生は、ここで終わってしまうのだろうか。
この世界を死なせてしまったまま、大切な人たちを守れないまま。
どうか、神様がいるのなら――今度こそ、守ってみせるから。
だから、もう一度――