表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/94

聖女様は昼食を用意する

 日曜日、杏は早起きした。今日は榊原研で修二とともに中性子の実験データから、ノイズの乗っていない時間帯を探り出す作業をする日である。修二との昼食に、主食はおにぎりにして、卵焼きとかウィンナーとかハンバーグとかを作って弁当にするつもりである。

 米を研ぎ、炊飯器にセットする。お米が炊けるまで一時間ほどかかるから、その間に弁当の容器とおかずを用意する。

 容器は夏に母がおいていったものを、流し台の下から発見して昨夜のうちに洗ってある。水気を拭き取ればOKだ。卵焼きは、卵焼き用のフライパンがないので失敗した。うまく行かないと見るや、ごちゃごちゃに混ぜてスクランブルエッグにしてしまう。ウィンナーは焼くが、さすがにタコさんウィンナーにはしない。冷凍のブロッコリーを沸騰した湯に入れる。ハンバーグは作れない訳では無いが、時間の都合上、冷凍食品を昨日のうちに買っておいた。タッパーに夏に母が残しておいてくれた紙のカップで分けて詰める。チェック柄がかわいい。ケチャップとマヨネーズは、小分けのパックのものを持っていくことにする。

 ご飯が炊けた。おかずがしっかりあるから、塩むすびにする。

 冷蔵庫にりんごがあったので、切り分けて塩水につける。

 これらをすべてタッパー容器に入れたところで写真に撮り、母に送る。その意味は「私だってやればできるんだ」ということである。

 

 バンダナに包んでいたら、母からSNSが来た。

「ガンバレ」

とだけ。

 弁当の量から二人分であることを察し、応援してくれているのだろう。

 

 外に出ると、あいにくの曇り空だった。早く終わったら修二をさそって植物園にでも行きたいと考えていたから、ちょっとがっかりである。

 

 自転車でイチョウの落葉に気をつけながら走る。どんよりと曇った空、敷き詰められたイチョウの落葉、冬がすぐ近くに来ていることを実感する。

 

 自転車を置いて榊原研に直行すると、修二はすでに着いていた。

「ゼミ室でやろうよ」

 修二は自席から立ち上がって言う。手にはノートパソコンを持っている。杏もノートパソコンを持ってきていた。パソコンは一人一台のほうが効率がいいし、ゼミ室はテーブルが大きいからプリントアウトしたグラフを比較するにも都合がいい。

 修二は、

「コーヒーでも飲みながらやろうか」

と言うので、杏は池田研においてある自分のマグカップを取ってくることにした。廊下に出たら、榊原研M2の織田が来ていた。

「おお、聖女様、日曜なのに熱心だね」

「おはようございます。ちょっとデータ処理が間に合わなくて、唐沢くんと一緒にやってます」

 アリバイ作りが目的なので、織田の登場は都合がいい。

「織田先輩も、熱心ですね」

「熱心でもないよ、修論がやばくてさ」

 修士論文のため大晦日から正月の三日まで実験した人もいると聞くから、今のうちから頑張っているのだろう。なお、卒業論文は卒論、修士論文は修論だが、博士論文はD論と言う。はかろんとかはくろんとかとは言わない。

 

 コーヒーを飲みながら、二人がかりで短時間で細かく刻まれたデータをチェックしていく。測定の開始からしばらくはデータは良く、三時過ぎのものはノイズの嵐、またしばらくするとデータが良くなる。修二の言っていた通りである。もともと結果のわかりきった作業であるから、なんの問題もなく解析が進む。昼には八割がた終わってしまった。

 

「お昼にしよ。お弁当、作ってきた」

「そうなんだ、僕は何か買ってくるよ」

「ううん、二人分作ってきた。修二くんの分も」

「え、それはうれしいな」

 杏はテーブルの上を片付ける。ノートパソコンの蓋も閉める。修二との昼食に集中するためである。グラフなど目に入ったら、実験に関わる議論にシフトしてしまう自信がある。修二も片付けを手伝ってくれる。

 カバンから持ってきた弁当を出し、包んでいたバンダナを広げる。バンダナの華やかな柄が殺風景なゼミ室に彩りを与える。

「やっぱり、ゼミ室もこうして色があると華やかね」

 思わず杏は口にしたが修二は、

「神崎さんが来てくれただけで、華やかになってたよ」

「!」

 杏はさっきまでお腹が鳴りそうだったほど空腹であったが、今の言葉でどっかへ行ってしまった。

 

 タッパーの蓋を開ける。

「おにぎりの具は何?」

 修二が聞いてきたので、

「おかずがあるから、塩むすびにしてきた」

と答える。

「ケチャップとマヨネーズはお好みで」

と言いながら、ケチャップとマヨネーズのパックを渡す。手が当たらないか、期待半分緊張半分の杏であった。


 そんなことをしていたら、ゼミ室の入り口から二人の顔が覗いた。

「やっぱり、こんなことしてた」

 のぞみと明であった。

「私達もご一緒していい?」

 のぞみも手作りの弁当らしい包を見せながら言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ