聖女様はラッピングする
翌日の昼食も、キャンプメンバーで摂る。
「昨日ね、これ買った」
学食でパイロットキャップを見せびらかす。被って見せる。
「単体で見ると実用本位だけど、女子がかぶると可愛いな、イテッ」
明が余計なことを言って、机の下でのぞみに蹴られたらしい。
明の学習能力は期待できないので、のぞみに被らせる。
「のぞみ、うん、可愛い。ね、明くん」
杏が睨むと明は、
「うん、悪いけど聖女様より、似合うな」
と言う。危機は回避されたが、修二がとなりでウンウンうなずいているのが気になる。危機が回避されてうなずいているのか、杏よりのぞみがかわいいのでうなずいているのか。もちろん確認する勇気はあるわけがない。
「これ、僕も欲しいな。耳がかくれるのがいいね」
と修二が言う。ポイントが良くわかっている。嬉しくてプレゼントしたくなる杏である。しかしこないだもクマを買ったばかりだし、押し付けてばかりも嫌がられる気がする。躊躇していると、
「おう、俺も欲しい。みんなでお揃いにするか」
と、明が提案してしまった。二人だけのお揃いにはもうならない。
「あとね、昨日お父さんに相談したんだけど、靴だけはいいのにしろって」
杏が話題を続ける。
「なら、作業着屋さんよりもアウトドアショップにしたほうがいいかな」
のぞみが反応する。
「みんなで揃っていきたいところだけど、実験の人は時間があるときに行くしかないよね」
明がそう言う。杏は思わす口を挟んだ。
「明くん、それは違うよ。のぞみの都合がいいときに、明くんが一緒に行けばいいんだよ」
「そ、そうか、そうする」
のぞみが机の下で手を伸ばしてきて、お礼だろう、杏の手を握った。修二は、
「僕もそうしたいけど、出張がね」
と言う。杏は、
「じゃあね、私でも買えるものは、買っとくよ。何が要る?」
と、聞いてみた。返事はすぐ来る。
「帽子、手袋はお願いしてもいいかな。春、軍手はきつかった。あとでお金は払うから」
「え、よ、予算は」
「うん、任せるよ。神崎さんと同じのでいいから」
修二は神であった。お揃い指定なのだ。
「聖女様、手、痛いんですけど」
さっきのぞみに握られた手を、強く握り返してしまったらしい。
「あ、だけど、サイズ大丈夫かな?」
修二が聞いてきた。
「帽子は、これ被ってみてよ」
修二が帽子を被る。
「ゆるくない?」
杏は頭がでかいのである。小顔には生まれ変わらないとなれない。
「うん、大丈夫」
「手は?」
杏は自分の手を、手のひらを上にして修二の方に伸ばした。
修二はその上に手を重ねる。
「「おんなじくらいだね」」
手と同じく、言葉も重なった。
その手を、のぞみがじーっと眺めていた。
昼食後杏はトイレに行ったのだが、手を洗うか洗わないか、ちょっと悩んだ。
その日の夕刻も、昨日と同じアウトドアショップに行く。修二から任されたのだ。時間をあけるわけにはいかない。
当然だが昨日と同じ店員さんがいる。
「こんにちは。あの、今日は手袋を見せてもらおうかと思って」
「ではこちらへ。星を見に行かれるんでしたよね。望遠鏡とか持っていかれるんですか」
「はい」
「では、こんなのはどうでしょう」
見せてもらったのは、指の部分が親指とその他四本にわかれている、ミトン型のものだった。
「こちらですね、指先を出すこともできるようになってまして……」
なるほど便利そうだ。
「直接金属部分に触れるのが心配でしたら、このミトンの下に、うすいこのインナーグローブをするといいですよ」
「ありがとうございます。色違いはありますか」
「すみません、ミトンはグレーだけ、インナーグローブもブラックだけです」
「じゃ、二つずつください」
「二つですか?」
「あ、はい、予備として」
「わかりました。では、ご精算は……」
「あの、ちょっと帽子も買い足しますので」
「ではこちらはレジでおあずかりしていますので、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
気の利く店員さんで良かった。
問題は帽子である。修二の指定は杏と同じもの、サイズも同じでいい。ただ、色を聞いてくるのを忘れた。眼の前には昨日買った茶色、その他黒と緑がある。作業着のときは黒にした。茶色だとお揃いだが、自分のと修二のとで間違えそうである。
お揃いにはしたい。でも取り間違えるのも困る。
しばらく悩んだ。
けっこう悩んだ。
いや、取り間違えていいのではないか。
間違えた場合、直前まで修二が被っていた帽子を杏が被るのである。なんの問題があろうか。むしろうれしい。
店員さんは気の利く人っぽいので、昨日同じ色のを買ったのを覚えているかもしれない。それを指摘されたらかなり恥ずかしい。よって、先制攻撃することにした。
「これ、お願いします。やっぱりこの帽子、この色がいいですよね」
「はい、ありがとうございます」
力技が効いた。
カイロは買い忘れた。
今夜の食材も冷蔵庫にはないから、スーパーへ向かう。
スーパーの自転車置き場に自転車を置き、今日も弁当を買ってしまった。
杏の家には、プレゼント用のきれいな袋とリボンの買い置きがある。なぜかと言うと、作業着といい女子大のクマといい、買ったときの袋のままで修二に渡してしまったからである。買ったときの勢いのままで渡してきたから、女子らしい包装とは無縁だった。このままではいけないと、次に修二になにか渡すときのため、100円ショップでかわいいのを選んであったのである。
しかし今回はプレゼントではなく、頼まれた買い物だ。今回こそは、お店の包装で十分なのだ。しかし女子としてのなにかが、それではいけないと告げている。
結局お酒に頼り、勢いでラッピングした。
ラッピングしてしまった手袋と帽子だが、お昼にみんなの前で渡すのは気が引けた。だから朝のうちに榊原研に行き、
「これ、昨日頼まれてたもの。じゃ」
と言って修二に押し付け、ダッシュで逃げた。




