聖女様はアウトドアショップに行く
クエンチ騒動はあったが、修二の東海村への準備は問題なく進んでいるそうだ。星見キャンプの準備のほうは無事真美の参加の承諾も得られた。宿はバンガローの予約を明がとった。杏はまだ北海道の冬を迎えていないので、服装、持ち物はカサドンに相談する。
「寒さ対策はですね、下半身をなめちゃだめですよ」
「下半身?」
「まず、ズボンっすね」
「Gパンじゃだめ?」
「死にます」
「じゃ、靴は?」
「やっぱ防寒シューズじゃないと。星見るのって、ほぼ動かないでしょう」
「そうだね」
「あと、帽子もちゃんとしないと、頭からキーンとなります」
「なるほど」
「アウトドアのショップに行くのがいいと思います」
「作業着屋さんは?」
「あ、それも悪くないです」
昼食時実験の打ち合わせの名目で、修二とのぞみ、ついでに明で集まった。
杏は切り出す。
「実験後のキャンプだけどね、カサドンの話だと、服装結構しっかりしないといけないらしい」
明が反応した。
「あー確かに。昨日の夜、望遠鏡出してたんだけど、寒くて足先とかヤバかった」
杏は、
「そう、上はダウンとかでもいいんだけど、下半身が大事らしい。防寒のズボンとか、防寒靴とか」
と続けた。修二は、
「そうか、買いに行かなきゃいけないか。僕、そんな時間あるかな?」
と言う。東海村へ行く前はもちろん準備、帰ってきたらデータ処理と、相当忙しいらしい。
杏は出鼻をくじかれてしまった。防寒具の買い物にかこつけて、修二とお出かけしたかったのである。修二が東海村に行っている間、会えないのだから。自分が行っていた間も、実のところ修二のことばかり考えていたような気がするのである。
とにかく防寒具の買い出しは必要である。しかし修二には時間がない。
「わかった、私、お店の下見しとく。大体の見込みがついてれば、サイズ合わせで済むでしょ」
杏の提案に、みんな納得顔であるが、修二は、
「それはありがたいけど、神崎さんも忙しいんじゃない?」
と気遣ってくれる。
「忙しくないわけじゃないけど、実験の人に比べて時間の融通が利くから」
と言ったら、明が余計なことをいう。
「じゃ、俺も下見付き合うか」
ダメである。こいつはついこの間、のぞみの機嫌を損なったのを忘れたのか。
「いや、いいよ。予約とかやってもらったし」
とにかく断る。
その日の夕方、杏は夕食を学食で取らず、アウトドアショップに向かった。大学から見ると、札幌駅のちょうど反対側にあって、ちょっと遠い。自転車でよかった。
店内は色とりどりのウェアでいっぱいである。登山用なのか、キャンプ用なのかぱっと見では全くわからない。とりあえず、店員を捕まえてみる。
「あの、月末にキャンプ場で星を見ようと思っているんですが、防寒用のシューズとかってどうしたらいいでしょうか?」
「そうですね、星を見るなら、ゆったり目のがいいでしょう。こちらとかはどうですか?」
いいお値段である。それがわかっただけでも収穫だ。
「今度、友達と一緒に来ます」
「それからですね、靴下は、厚手の登山用のものがおすすめですよ」
「あと、帽子とかも見たいんですが」
「こちらですね どうぞ試着してください」
連れてきてもらった場所には、フェルト地のもの、毛糸のもの、顔まで隠れるものなどいろいろある。
その中で、薄い茶色の帽子が目に止まった。表地はナイロンだが裏地が毛足の長い厚手のフリース地であたたかそうだ。何より、耳あての部分があって耳の下の方が冷たくならなさそうで良い。耳あては長く、ストラップで顎の下でまとめるようになっている。これなら風で飛ぶこともないだろう。パイロットキャップというらしい。あとで買うことにする。
「まだ下見の段階なんですが、ウェア類もみせてもらっていいですか?」
「どうぞ、こちらですね。あちらの登山用のものとか、スキー用のものとかは運動中であることを前提に作られているので、星を見るには不向きかもしれないですね」
「なるほど」
見せてもらったのはおしゃれで落ち着いた感じのウェア類で、普段遣いでも大丈夫そうだ。ただ、ちょっとお高い。
礼を言って、帽子だけ買って店を出た。
自転車を飛ばし、スーパーへ向かう。もう風が結構冷たく、自転車をとめ、さっき購入した帽子を被る。タグを取っていないので邪魔だが、頭と耳はとてもあたたかい。
スーパーでは夕食用の食材を買うつもりでいた。いつも夕食は学食だから、冷蔵庫の中はろくなものがない。しかし、弁当コーナーの前を通ったのがいけなかった。怠け心がでて、弁当を買ってしまう。その分勉強すれば良いと、自分に言い訳する。
夜八時を過ぎたあたりで、父に電話した。父はすぐに出てくれた。
「ああ杏、どうした」
「お父さん、今月、カード、ちょっと多めに使っていい?」
「いいけど、どうした? 教科書か?」
「ううん、月末にね、キャンプに行って星を見る計画をしてるの」
「誰と行くんだ?」
「のぞみとかだね」
「修二くんはいかないのか」
やっぱり聞かれた。うそをついても仕方ないと思い、
「行く」
と答える。
「なら、いいんじゃないか」
父にとって修二はどんな安全牌なのだろう。そう考えていたら、父が言葉を継いだ。
「寒くないのか?」
「バンガローに泊まるから、大丈夫。でも、靴とか服装にちょっとお金がかかりそうなの」
「なるほど、どうせ杏のことだからなるべく安くと考えているんだろ」
「うん」
「あのな、靴だけはいいものを買いなさい。足が冷たいとつらいぞ」
「わかった」
「カイロは使い捨てじゃなくて、アルコールのやつがいいぞ」
「アルコール?」
「アウトドアショップにあるよきっと。使い方もそこで聞け」
「了解」
「望遠鏡とかは持っていくのか?」
「明くんが大きいの、買った。実はね、明くん、その望遠鏡でのぞみに星を見せたいんだって」
「それはロマンチックだな。双眼鏡とかあるか?」
「知らない」
「じゃ、俺が昔使ってたやつを、送るよ」
「ありがと」
「ああそうだ、天体望遠鏡のショップも札幌にあったら一度行っとくといいかもね」
「うん、時間があったら」
「俺もお母さんと富士山でも行くかなぁ」
とりあえず父の許可は得た。




