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聖女様は提案される

 のぞみが真美の妾認定された数日後、池田研に網浜教授が訪れ、池田教授と何事か話し込んでいた。しばらくして、池田教授が杏をゼミ室に呼んだ。

 ゼミ室には網浜教授がいて、やがてのぞみ、そして榊原教授もやってきた。

 テーブル片側に網浜教授、池田教授、榊原教授が並ぶ。反対側に杏とのぞみが座る。

 思わず杏は、のぞみに聞いてしまった。

「もしかして私のせいで、実験失敗した?」

 のぞみは顔を横に振り否定する。

 池田教授が笑い出した。

「君たちさ、あくまでこれは提案なんだけど、九月の連休、里帰りしない?」

「「はい?!」」

 二人で変な声を出してしまった。

 

 網浜教授が続ける。

「無理強いはしないんだけどね、君たちゴールデンウィークもお盆も帰ってないでしょう。たまにはいいんじゃない?」

 杏は、

「私は両親がこっちに来ましたので」

というと、池田教授は、

「ああ、扶桑の先生にも挨拶してきたらいい」

などと言う。それにしても不審である。榊原教授が口を開いた。

「ちゃんと物理も用意してあるよ」

 テーブルの上に、茨城県東海村にある実験施設SHELの一般公開のパンフレットを二枚並べた。杏とのぞみは一枚ずつ手にとる。

 日程は秋分の日を含む二日間、一般公開なので誰でも入れる。榊原教授が続ける。

「君たちの十月の実験、出張するのは唐沢くんだけだからさ、君たちも見たいだろう。むこうに連絡しとくから、内側まで見せてもらってきてよ」

 のぞみが質問する。

「大変ありがたいお話ではあるんですが、連休に今更飛行機とれないんじゃないかと」

 榊原教授は、

「ああ、それね、連休の少し前に行って、連休の少しあとに帰ってくるといいよ」

などと言う。

「あの、授業とかもあるんですけど」

「そんなのどうでもいいよ。担当の先生には言っとくからさ。悪いけどさ、出張旅費が出せないんだけどそこはよろしく」

 網浜教授がとどめを刺す。

「緒方さん、サンプルは十分間に合うよ。日程ゆっくりとって、ご両親にも扶桑の先生にもしっかり挨拶しといで」

 なんだか知らないが、杏の都合は話題にもされなかった。

 

 話が終わると、のぞみは実験の途中とのことで戻り、飛行機は杏が探すことになった。空いている便を探し、SHEL一般公開を中心に合計5日間の休みを計画したうえで池田先生に報告した。

 池田教授は日程表を見るなり、

「リジェクト」

と言って、突き返された。「リジェクト」とは、投稿した論文が掲載拒否された場合に使われる用語である。

「あ、あの、リジェクトの理由は?」

「短い。往復に各一日、SHEL一般公開に二日、予備が一日しかないやないか。神崎くんはご両親と夏にあっているからいいけれど、緒方くんはもっとゆっくりさせてあげたらどうかね」

 公務員の出張は一日たりとも空きの日なんて認められないので、その感覚にやや余裕をいれてみたのだが、だめらしい。杏は無駄に札幌を離れたくないので短めにしたいのだが、指導教官の許可が出ない。これは逆に、怒られるくらい長めの日程を提案したら、いい感じになるのではなかろうか?

「では、十日ほどでは?」

「お、十日、アクセプト」

 やられた。

 

 その後、飛行機の便を確定し、SHELのビジター宿泊施設の予約をして、日程が確定した段階で池田教授に日程表を持っていった。

「網浜先生と榊原先生のところにも、コピー持ってっといてね」

「はい」

 無論杏は、のぞみの分を含めて迷惑をかけそうなところに挨拶に回る気でいたので、用意はある。その足でまず、網浜研に行った。


 網浜教授の居室をノックし入室すると、杏の顔を見た網浜教授が言った。

「ああ神崎さん、日程十日だってね」

「なぜご存知なんですか?」

「だって親衛隊とファンクラブに出てるよ」


 あとでSNSで確認したら、日程表を池田教授に出した直後のタイムスタンプで、杏の渡した表そのものが画像で出ている。実名など個人情報はさすがに映り込んでいないが、ちょっとひどい。

「池田先生、これ、先生ですか」

 がまんできず、杏は池田教授に抗議しに行った。

「うん、そうだよ。だって神崎さん、授業とか全部の先生に挨拶して回る気でしょ。手間が省けるかなと」

「ありがとうございます」

 杏は全く感情をこめず、礼を述べた。

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