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聖女様は報告を受ける

 お盆休みも終わり、研究室にいつものメンバーが戻ってきた。理論研であるからあまり話し声が聞こえない研究室ではあるが、やっぱり人がいるとにぎやかな感じになる。同期の仲間達とだけ研究にうちこんだこの一週間もよかったが、一線の研究者が集う大学の雰囲気はやはり杏には居心地がいい。

 

 杏には、どうしてもはっきりさせておきたいことがあった。カサドンである。

 カサドンがいつものニヤニヤスマイルで出てきたところで、杏はカサドンを捕まえ、ゼミ室に引っ張っていった。

 

「なんですか、聖女様」

「なんですかじゃないでしょう。あの写真だけじゃ、真美ちゃんとどうなったかわかんないでしょう」

「聖女様、聞いちゃうんですか?」

「聞く」

「う~ん、どうしてもですか」

「どうしても。なんだったらのぞみ呼ぶ?」

「え~、あの人怖いですよきっと」

「いいから吐け」

 内容的に大声では言えないので、小声にするしかない。そのためかついつい杏の口調がきつめになってしまう。

 

 しばし苦悶の表情を浮かべていたカサドンであったが、あきらめたように口を開いた。

「いやぁ、結局ですね、告白できなかったんですよ」

「なにそれ、根性なし」

「はいはい、僕は根性なしですよ」

「っていうか、なんでよ。写真楽しそうだったじゃない」

「実際のところですね、とっても楽しかったんですよ。いい感じだったんですよ」

「うむ」

「でもですね、それだけに無理だったんですよ」

「だからなんで」

「だからですね、例えばコクって、玉砕したとするじゃないですか。僕、一生もう、あそこ行けないですよ。それに真美先輩だって、嫌な思い出になっちゃうじゃないですか」

 杏は言葉を失った。

 

「ごめん、そこまで考えてなかった」

 杏はもう、謝るしかなかった。

「ホントごめん」

「やだなぁ~、なんで聖女様が落ち込むんですかぁ? 僕が悪いみたいじゃないですかぁ」

「ごめん」


 思い出せば、お盆前、杏は真美の気持ちを確かめていた。真美は卒業後のことまで踏まえてカサドンとの付き合いを考えていた。考えた上で、うごけず、中途半端な状態を維持していたのだ。そう考えればカサドンが告白しなかったのは、真美の意志を尊重したことになる。

 

 視線を感じて顔を上げると閉めたはずのゼミ室のドアが少し空いており、池田教授をはじめ、何人かこちらを覗いていた。目が合うとみんな逃げていった。

 

「聖女様、僕、がんばりますよ。場所とかシチュエーションに頼らずに、真美先輩にアタックしますよ」

「うん、うまくいくよきっと」


 杏は朝の段階では、状況次第で真美に会って話を聞きたいと思っていた。カサドンの話を聞いた今は、どちらかと言うと真美と話をしたくなかった。余計なことを言いそうだからである。

 そう考えていたら、スマホに通知がある。

「聖女様、お昼会える?」

 真美である。

 

 昼食、いつもの学食に行く。学食入り口で、友達と話があるからと、研究室のメンバーと別れ、真美を待つ。すぐに真美はやってきた。杏を見つけて手を振り、とっても明るい表情だ。

 二人で定食の食券を買い、定食をもらって物理の連中の近くを避けた席に座る。

「あ、のぞみんだ!」

 真美がのぞみをみつけ、手を振る。のぞみも食事をとって、こちらにやってきた。

 

 のぞみが席についたところで、真美が頭を下げた。

「いやぁ~聖女様、今回はお世話になりました。のぞみん、嫁にできなくなりました」

「「はい!?」」


 真美がちょいちょいと手で招く。杏とのぞみは真美に顔を近づける。大声で話せないことなのだろう。

「いやさ、夢の国でさ、カサドン、それはそれは紳士だったよ」

「ほう」

「荷物とかすっと持ってくれてさ、何かと気遣いしてくれるんだよね」

「ほう」

「でさ、夜になるじゃん、パレード見るじゃん、花火あがるじゃん」

「うん」

 結末を知っている杏でも、話に釣り込まれてしまう。

「でね、カサドンさ、『じゃ、また』っていうんだよ」

「それで?」

「それだけ」

「それだけ?」

「それだけ」

 のぞみが聞いた。

「カサドン、へたれなだけなんじゃない?」

 二人それぞれの思いを知る杏は、なにも言えない。

 真美は、

「ヘタレかもしれない。でも、わたしもヘタレなんだよ。告られたらどうしようか、ずっと頭がいっぱいだった。きっとカサドン、私に気を使ってたんだと思う」

 半分は当たっている。

「それでね、私は惚れたね!」

 杏はそこでストップをかけた。

「真美ちゃん、ちょっと声大きい」

「やべ」

 再び三人顔を寄せ合ったところで真美が言う。

「いずれカサドンは告ってくると思う。私は受け入れる」

 杏は真美が、卒業後の二人のことを気にしていたことを指摘しようかとも思ったが、ここは言うべきではないと、思いとどまった。真美は覚悟を決めたな、と。

「というわけで、のぞみん、婚約破棄じゃ。申し訳ない」


 あっけらかんとした真美を見て、杏ものぞみも、どっと力が抜けた。

 

 その夜は、真美を応援したくて、杏は強引に自宅に真美とのぞみを招いた。久しぶりの女子会である。もちろん話題は、夢の国である。根掘り葉掘りである。宇宙ジェットコースターとか、雷山とか、お城とか、事細かく尋問する。多分恋する乙女である杏ものぞみもキュンキュンしてしまう。

 当然エタノールの摂取量も順調に伸び、のぞみが飲み物とか食べ物とか、かいがいしく台所から運んでくる。真美は、

「のぞみん、ワシの妾になれ!」

と叫んだ。

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