聖女様は相談にのる
のぞみにはSNSで連絡した。
「ちょっと相談があるんだけど、夜会えない?」
「何?」
「研究室の後輩から相談うけた」
「恋愛系?」
「そうともいう」
「真美ちゃんは?」
「今回はよばない」
「なんかわかった。六時半に東門でどう?」
「了解」
六時半にカサドンをともなって東門に着くと、のぞみは先に来て待っていた。
「ごめーん、遅くなった」
「ううん、待ってない。私早く来ちゃったから」
「のぞみ、これがカサドン」
「なにそれ、あだ名?」
「うん、まあ、こまかいことは夕食でも食べながら。カサドン、いい店知らない」
「おまかせください」
カサドンは、意外におしゃれな店を知っていた。こないだのイタリアンとは別の店で、ビストロというよりは洋食屋という感じである。
「ここは、オムハンバーグがおすすめです」
「じゃあ、それ」
「飲み物は、とりあえず生でいいですか」
「うん」
「すみませーん、生中みっつ、オムハンバーグみっつおねがいしまーす」
「はーい、生中みっつ、オムハンバーグみっつ」
すぐに生ビールはやってきて、乾杯した。
「で」
のぞみが早速質問してきた。
「いや、あのですね、ぼく、真美先輩とお話ししたいんですよ」
「なるほど、で、まみちゃんのどこがいいの?」
「真美先輩って、かっこいいじゃないですか。あ、のぞみ先輩もかっこいいです」
「カサドン、のぞみんファンクラブ会員だよ」
「ほほう、可愛いやつじゃ」
カサドンが惚れているのは真美である。しかしのぞみはファンクラブ会員でもある。ちょっと節操がないのではないか。
「カサドン、ちょっとなんでもありなんじゃない」
「べつにいいじゃん、もしかして親衛隊も入っている?」
「はい、結成直後に入隊しました!」
杏はあきれた。
「あんたさぁ、ちょっと節操がないんじゃない? 女ならなんでもいいの?」
「そんなことないです。みなさん、たいへんに魅力的ですから」
「ひとりにしなよ」
「無理っす。物理の四年、院生、半数くらいは親衛隊、ファンクラブどちらも入っていますよ。なんなら先生も」
「ちょっと待て、いまのは聞かなかったことにする」
親衛隊を公認したのは間違いだったかもしれない。
ともかく、話を本筋に戻すことにする。
「カサドン、何か真美ちゃんと共通の話題ないの?」
「うーん、正直女性と何話していいか、わかんないっす」
「女二人を前にして言うか」
重症である。杏は諦める方向に話を持っていこうとした。
「カサドンさ、うまく行ったとしても、真美ちゃん卒業したら、千葉に帰っちゃうかもよ」
「え、真美先輩、千葉なんすか? 俺も千葉っす」
「それだ!」
のぞみが反応した。
のぞみのアイデアはこうである。カサドンが千葉県出身者の会を作ろうと考え、それを真美に相談する。千葉県人会はどうでもいい。そのたちあげを通じて、カサドンと真美が仲良くなろうと言うのである。杏に異論はなかった。
「のぞみん先輩、ありがとうございます! それで行きます!」
「じゃ、私から直々に、真美ちゃんに連絡してやろう!」
「ちょっと待って、のぞみ、あんたとカサドンは接点が無いじゃない。連絡は私するわ」
「さすが聖女様っす」
「うるさい」
カサドンの口調がなんか変わってっきたのが気になってきたが、オムハンバーグがやってきた。オムライスにハンバーグが添えられ、デミグラスソースがしっかりかかっている。小皿のサラダにミニトマトがのっていて、なんだかかわいい。
どこから食べるか迷うところだが、杏はとりあえずハンバーグにスプーンを入れてみた。肉汁がじわっと滲み出てくる。挽肉の粒はおおきめだ。口に含む。
「このハンバーグ、おいしいね」
「聖女様、ハンバーグ好きっすよね」
「だまれ」
今は食事に集中したい。
オムハンバーグを食べ終え、食後のケーキとコーヒーを待つ。その間に、カサドンをいかに真美に紹介するか、考える。
「ふつうにぱっと紹介しちゃえばいいんじゃない」
のぞみは簡単に言う。杏もそうは思うがカサドンは納得しない。
「やっぱりシチュエーションとか大事じゃないですかね」
「シチュエーションって、例えば?」
「やっぱりおしゃれなカフェでとか」
「わかんなくはないな。やっぱりおしゃれは大事か」
のぞみは納得しそうになっている。
「でものぞみ、私達札幌でどこがおしゃれとか知らないよ。カサドン大丈夫?」
「はい、リサーチします」
「その程度じゃ、真美ちゃん既に知ってるんじゃない?」
「そうすかね、聖女様とか見てると大丈夫な気がするんですが」
「コラッ、聖女様と真美ちゃん一緒にするな」
「のぞみ、ひどくない?」
「そう?」
「私がそういうの無関心なのはわかるけどさ、後輩の前で言わなくても」
「ごめーん」
楽しく話していると、全然話が前に進まない。デザートが来たので食べながら落ち着いて考える。
「シチュエーションとか凝るとさ、かえって警戒されないかな。自然に学食でとかのほうが、とりあえず千葉県出身者の会とか相談しやすくない?」
「そうか、聖女様、その通りだわ。明日の昼、学食でいいんじゃない?」
「マジすか、早くないすか」
「いいんだよ、善は急げだ!」
真美が押し切った。
翌日昼、杏はカサドンを伴い、学食に行く。真美にはSNSで話があると振ってあるので大丈夫だろう。今日は日替わりランチにした。魚のフライである。トレーを持って真美を探すと、幸いすぐに見つかった。
トレーを真美の隣の席において、カサドンを紹介する。
「真美ちゃん、こちら池田研の四年生で、笠井くん。カサドンと呼んであげて」
「あ、笠井です。よろしくおねがいします」
「まあ、座んなよ」
座ったところで、簡潔に用件を話す。
「あのさ、カサドン、千葉出身なんだよ」
「えー、知らなかった、私も千葉」
「でね、カサドン千葉県出身者の会とかやりたいらしい。なので千葉出身の真美ちゃんを紹介したわけ」
「ほほう、面白いこと言うね」
昼食を食べながら、二人に話してもらう。すぐに決定できることではないので、夕食時にもう一度話し合うらしい。本当の目的はカサドンと真美の出会いであるので、夕方の話し合いは二人で話してもらうことにした。
更に翌日。居室で勉強していると、カサドンがやってきた。表情は明るいので、うまくいったのだろう。
「昨日はありがとうございました」
そう言いながら、カサドンはスマホの画面を見せてきた。
「SKD千葉県人会まみちゃんず」
入会資格は、千葉や千葉にあるものに関心がある人ならなんでもいいらしい。
「まみちゃんずって、何?」
「絶対まみちゃんずにしろって、押し切られました。真美先輩、親衛隊とかファンクラブとか、うらやましかったっぽいんですよ。まあ僕としては問題ないんすけど」




