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聖女様はつきあわされる

 翌金曜日、杏は昼から三人の買い出しに付き合った。

 のぞみは杏のところに泊まったから、一緒に車でショッピングセンターに行く。フードコートで待ち合わせだ。


 着けば男子二名はすでに待っていた。聞けば女子同様、修二のマンションに雑魚寝だったそうだ。


 フードコートで早めの昼食を取りながら、作戦を話し合う。その結果、

 今日金曜日は、とにかく買い出し。買い出しきれないものは通販にたよる。

 明日土曜日は、小樽に遊びに行くことにする。

 明後日日曜日は、各自身の回りの整理をし、月曜からの通学に備える。


 というわけで、買い物である。

 杏は昨日、車で三人を千歳から札幌まで送る道すがら、ここ何日かの買い物の様子を語りに語った。杏は一人暮らしは初めてであったので、発見もあり、失敗もあった。口にしていると、ついつい熱く語ってしまったのである。

 その結果、やはり一人暮らしが初めての三人は杏の経験を有効利用することにしたのだ。

 

 はじめに、茶碗、皿、コップなどの食器類を買う。

 のぞみはやはり女の子らしく、花、猫といった柄の入ったものに見入っている。

 明は質実剛健らしく、落ち着いた色合いの和食器を中心に選んでいるようだ。

 

 修二はと見れば、モノトーンの皿、ボールなどのセットを選んでいる。

 驚いた。

 実は先日杏も、そのセットを買っていたからである。修二は自分と感覚が近いのかもしれない。

 

 ホームセンターに向かう。可愛いものは少ないが、安いからである。

 テーブル、棚、調理器具など、選ぶべきものは多い。

 のぞみは杏の影響を受けて、ダイニングテーブルを勉強机にするそうだ。杏は濃い茶色のものを選んでいたが、のぞみは明るめの色のものを選んだ。

 男子二名は折りたたみ式のちゃぶ台を選んでいる。

 

 家具は配送を頼んだが、鍋などは直ぐに必要だ。見れば修二が計量カップを選んでいる。杏は買っていなかったので自分も買うことにする。修二と並んで色々見てみるが、結局同じものを選んでしまった。すこし恥ずかしい。

 

 その夜は、のぞみは自分のマンションに帰ると言う。自立した生活を始めたいとのことだ。スーパーでの食材購入までは付き合った。


 一夜明けて、今日は小樽。


 小樽行きはのぞみの強い希望による。のぞみを除く三人は院試の後小樽に遊んでおり、その話を聞いたのぞみによると「ずるい」とのことである。

「だって私は、一人で院試に行って、一人で帰ってきたのよ。あんたたちだけずるいじゃん」

 まあ小樽経験のある三人にしても特に異論はなかった。


 札幌駅に集合し、電車で小樽に向かう。電車内で明が空を見て、

「これは怪しい、というより危ないね」

と言う。のぞみは

「雪はいやだな、まだ慣れてない」

 杏は先月雪の小樽を訪れていたので

「雪の小樽も綺麗だったよ」

と慰めてみた。ついでに

「その靴なら問題ないと思うよ」

とも言ってみる。実際、のぞみはワークブーツであり、他三人はスニーカーで、のぞみが一番安全なくらいだ。

 やがて日本海が見えてきた。

 小雪がちらつき始めた日本海は、視程も短い。

「なんか寂しい景色だね」

 杏は呟いた。

「これが、日本海なんだな」

 修二も言う。

「あっちは春だったけど、こっちは冬にもどった感じだね」

「やっぱり北国だね」

 四人はそんな会話をしながら、しばらくまだ春が来たと思えない海を見ていた。


 小樽についた。車中の会話で、今日はなるべくのぞみの希望で動こうと合意していた。

「運河でしょ」

 やっぱりそうなった。

「私三度目」

「俺たち二度目だな」

 足元に気をつけながら、会話を続ける。


 運河は相変わらずきれいだ。

「2月に来たときより、雪が多いかも」

 杏はつい小走りになってしまう。

 はしゃぎすぎたのか、運河沿いの歩道にお降りたところで、杏は尻もちをついてしまった。

「聖女様は一番多く来てるんでしょ?」

 のぞみにあきれられてしまった。

「聖女様って、けっこうはしゃぐよね」

 明も言う。

 修二はだまって手を差し出してくれた。

「あ、ありがとう」

 杏は引き起こしてもらいながら、手袋越しに修二の力強い手をしっかりと感じた。

「おーやさしいな」

 明が冷やかす。

「うるさい」


 杏は夏に修二、明と観光したときも、はしゃぐほど楽しかった。今回も同じくらい楽しい。

 尻もちをついても、やっぱり小走りになってしまう杏であった。

「今日はさ、私を楽しませてくれるんじゃなかったの? 聖女様が一番楽しそうだよ」

 のぞみはちょっと不貞腐れ気味である。

「まあ、まあ、じゃあのぞみお嬢様は、この私めが」

と言って、明がのぞみに手を差し出した。のぞみはのぞみで、

「うむ、よきにはからえ」

などとふざけているが、手はしっかり繋いでいた。


 ちょっとうらやましくて杏も、

「唐沢くん」

と、手を伸ばしてみる。修二は嬉しそうに手を繋いでくれた。すなおに応じてくれたのが嬉しくて、嬉しすぎて、かえって杏はひねくれてしまう。

「今日だけだからね」

「はいはい」

 修二はどこまでもやさしい。杏はつないだ手をブンブンと振りながら歩いてしまった。


 つづいてステンドグラスの美術館に行ってみる。暗い室内に彩色された光が美しく、静かな時をすごせた。


 昼食でちょっともめた。

「私は海鮮を食べたい」

 今日の主役のぞみの、もっともな意見である。これに男子二名が難色を示した。

「神崎さんだいじょうぶ?」

「聖女様にがてなんだよね」

 いつも聖女様呼びしないでくれる修二はともかく、明まで心配してくれた。

「そうだったんだ、付き合い長くてもしらかった。ごめん」

 のぞみがちょっとしゅんとしている。これはいけないと杏は、

「だいじょうぶ、だいじょうぶ、いざとなったら飲む」

とは言ってみた。空元気をだすのだ。

「ありがとう、でもね」

 のぞみはまだ気を使っている。明が気づいた。

「夏言った店は焼き魚ならあったぞ」

「そういえば神崎さん、岩魚を焼いたのは食べていたよね」

 修二の記憶力に助けられた。

「焼き魚食べたい、焼き魚食べたい」

 杏はこの大波に乗ることにした。


 店に入る。店内は強烈に魚の匂いが充満している。生魚が苦手な杏は少しだけ辛かったが、残る三人は食欲全開な顔をしている。それを見て杏も笑顔にどうしてもなってしまう。席についても結局、杏は焼き魚定食、のぞみはウニ丼、男子はイクラ丼だ。

 「ごはんが見えない」

などと言って、喜んでいた。


 午後も日銀小樽支店を見たりしてぶらついているうちに、あっという間に暗くなってきてしまった。

 名残惜しいが電車で札幌へ帰る。

 札幌駅からは、明は地下鉄である。ほかの三人も歩いて帰れない距離ではないのだが、正直言って遊び疲れた。なのでみな地下鉄で家の近くまで行くことにした。

 つかれたついでに、杏は夕食用に駅弁を買っていくことにした。ほか三人もまねをする。こんなことも楽しかった。

 地下鉄ののりばで、杏だけが東豊線、ほか三人は南北線で、ちょっと杏は悔しい。

「みんないっしょでいいな」

とすねたら、のぞみは

「すぐ大学でいっしょでしょ。SNSもおくるよ」

となぐさめてくれた。


 家についてお茶をいれ、駅弁をひらいた。杏は、この寂しさにもなれないとな、と考えていると、スマホがなった。見ればSNSで修二である。

「もう家ついた?」

「ついた」

 それだけではいけない気がして、続けて

「今日はありがとう」

と、送ってみた。すぐに

「こちらこそ、ありがとう」

と返ってくる。

 ここで杏はグループになっていることに気づいてしまった。あわてて

「また大学でね、お休み」

と送ったら、

「おやすみなさい」

と、これまた即返ってくる。


 やってしまった。


 大学に行くのは明後日、これでは明日、修二とSNSできない。

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