聖女様は小樽へ旅する
院試も無事かは不明だが、まあおわり、今日は小樽観光である。昨日と変わらずビジネスホテルの朝食であるがあまり食欲がない。飲みすぎたのであろう。院試終了の開放感のためではない。帝大勢二名のせいで、聖女情報が札幌でも公開されてしまった。飲むしかなかった。
札幌駅八時集合なので七時四十分ホテルを出る。ホテルの玄関には、またもあの二人が居た。
「札幌駅集合じゃないの」
「昨日ホテルわかっちゃったから、迎えに来た」
明に言われると、なんかムカつく。
「あんたら、ストーカーか」
「かんべんしてよ、昨日も送ってあげたんだし」
修二に言われると、なぜかあまり悪い気はしない。それでも
「たのんでない」
と、悪態をついてみた。
ホテルから札幌駅までは徒歩、電車に乗る。
電車が出発し、しばらくすると青空の下、景色が広がる。家、建物もまあまああるが、やはり北海道、景色が広い。
やがて電車は海に出る。
神奈川県民の杏にとって、海は暖かいものである。真冬であっても湘南の海に行けば海は南に広がり、晴れていればけっこう暖かい。しかし車窓に広がる日本海は北向きに広がるだけあって、どこか寒々しく感じる。杏はすでに景色の広さで北海道に来たことを実感していたが、海をみて北国にやってきたことをも実感した。男子二名も、その海をみて同じことを感じたか、静かにしていた。
小樽である。札幌の中心部は大きなビルが立ち並び、都会感が強かったが、小樽は一つ一つの建物の小さめである。地方都市にやってきたことが実感される。
「よし、運河いこう、運河」
杏は二人を引き連れて、運河に向かう。
「ぼくらの意見は聞かないんだね」
修二は嬉しそうにそう言う。
「だって、あんたらがついてきたんでしょう」
「文句ありません」
明も笑顔である。
運河沿いの遊歩道をゆっくり歩く。杏は観光地を多く回る派ではなく、一箇所一箇所に時間をかけたい派である。
運河沿いの低い壁によりかかり、海をのぞく。運河対岸の倉庫群をながめる。ぼーっとしていたい。
しばらくぼーっとしていたら、修二に言われた。
「日焼け大丈夫?」
やばい、日焼け止めどころかすっぴんである。
「ちょっとまってて」
杏は二人にそう言って、コンビニに急ぐ。
コンビニで日焼け止めを買い、トイレを借りて顔から首、腕とでているところすべてに塗りまくる。杏は色白で、すぐ赤く日焼けしてしまうのだ。
あぶないところだった。
川崎から持ってきていた帽子をかぶり、二人のもとに戻った。
「ありがとう、助かったわ。ずいぶんまたせたでしょう」
修二に礼を言う。
「大して待ってないよ、じっくり景色を眺めているのも、いいもんだね」
「三十分くらいかな、しっかり満喫した」
明、おまえはうるさい。
運河クルーズというのにも乗ってみた。海面付近から見る小樽もまた良い。船は少し揺れるが、それもまた楽しい。男子二名の顔もイケメン度が三十%ほど上昇している気がする。クルーズを終えると空腹を感じた。
「小樽と言ったら、海鮮でしょう」
明は行きたい店があるようで強く言う。修二もその腹らしい。しかし杏は言った。
「あんたらは海鮮へどうぞ、私昼食は別でいい」
実は杏は生魚がダメなのである。どうしても食べなければ行けない場合飲んじゃうし、魚卵に至っては完全にアウト。焼いてあっても積極的に食べる気はあまりおきず、上高地の岩魚定食は例外中の例外である。海鮮丼など、杏にとっては拷問である。
そんなわけで杏の希望は肉だったのだが、海鮮を満喫したい男子の気持ちは理解できる。だから杏は悪気なく、別行動を提案したのだ。
ここで男子は困った。海鮮は食べたい。しかし杏ともともに過ごしたい。
苦悶する男子の顔を見て、杏は海鮮を更に勧めた。
「私はよくわからないけど、小樽の魚は素晴らしいんでしょ。ここで食べておかないと当分食べられないんじゃない?」
二分ほど男子二名は悩みに悩んだあと、
「うん、俺たち海鮮に行く」
との結論に至った。大変残念そうにしてはいたが、若い食欲には勝てず、一時間後に再集合となった。食欲に勝てずに残念そうに遠ざかる二人がなんだかかわいい。
男子二名はお目当ての店へ、杏は駅で駅弁を買って、運河を見ながら食べることにした。食べる場所の選定に若干こまり、結局立ったまま食べることができた。
海鮮の店が混んでいたのか、男子は集合に遅刻。あらかじめそのようにSNSで連絡があったから、杏は不満はない。観光地だからしかたない。そう言っても明も修二も恐縮仕切っている。
それならばと、午後も杏のわがままを聞いてもらおう。ガラスのお店をのぞき、オルゴールの音色にうっとりする。心が安らぐ。
すっかり観光客気分を堪能したところで、杏の病気が出てしまった。昨日の輪講の復習がしたくなってきた。小樽の街をプラプラと歩いていると、悪いと思いながらも気になってしまう。がまんできずに、口を開いた。
「ごめん、私昨日の復習したい」
修二も明もちょっと驚いた顔をしたが、ちょっとであった。予期していたのだろう、あっさりと同意し、札幌に戻ることにした。
帰りの車中、明は勉強に付き合うといってくれたが、さすがに遠慮した。勉強に適した場所がないのである。昨日のようにまだ入学してもいないのに、研究室にお邪魔するわけにも行かない。ホテルの部屋に入れるわけにもいかない。
三人で色々相談して、杏はホテルの自室で勉強、男子二人はすすきので社会勉強ということになった。男子には程々にしておいてほしいと思う。




