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聖女様は北海道でも輪講する

 院試二日目。面接だけである。午前九時に集合がかかり、教室で待機。説明によれば、一人ずつ別室に呼ばれ面接をするが、全員終わるまで解散にはならないとのこと。一部、再面接をする場合があるそうだ。午前いっぱいの長期戦なので、杏は輪講の予習にとりかかる。まだ少しだけど、不安な部分が残っている。


 待機の教室で四十分ほど待ったであろうか、杏の番が来た。呼ばれて会場に入ると普通の教室である。普段と違うのは教官たち三十人近く長机に座っており、受験者が黒板の前に立つ。

「昨日のテストはどうでしたか」

 最前列の教官が尋ねてきた。もちろんそれが面接のスタートである。

 大学院でやってみたいこと、普段の学習のこと、色々聞かれたが杏は淀みなくこたえることができた。

 

 面接が終わり、待機教室で再び勉強。院試の最中とあって、さすがに他の受験者たちも無言でおり、勉強がはかどる。集中していたら、係の人に呼び出された。再面接である。

 

 ふつう、再面接となれば不安に思うかもしれない。しかし杏は全く不安に感じていなかった。テストの出来は自信があるし先刻の面接も失敗点を思い出せない。よって、いくつかの研究室で自分の取り合いになっているに違いない。ならば希望の池田研究室になるよう、どう振る舞うかがポイントだ。

 

 ノックして会場に入る。面接二回目だからか、長机に座る教官たちの顔も、さきほどより一人ひとりよく見える気がする。口火を切ったのは、真ん中左側に座る教官だった。

「プラズマについてどう思いますか」

 杏は直感的にプラズマの研究室で自分を欲しがっていると感じた。

 

 プラズマは超高温のガスで、温度が高すぎるせいで原子が電子と陽イオンに別れてしまっている状態である。夢のエネルギー源といわれる核融合は、プラズマ状態でおこる。だから研究者もたくさん必要だし、お金も出る。しかし研究者は残念ながら不足している。なお、理論的研究はとんでもなく難しい。プラズマ内の粒子と粒子の間の力が強く、人類の持っている数学と相性が悪いからである。


 杏はプラズマに興味がなかった。学問的困難性が、杏の生きている間に解決できそうになく感じられたからである。杏は生きている間に、高温超伝導を解明したい。だからプラズマの研究室からのお誘いを上手にかわさなければならない。

「ええ、面白いとは思うんですよね……」

 適当にはぐらかすしかなかった。

 

 その他二人ほどから質問を浴びたが、質問内容も杏の答えもプラズマと同様の展開となり、再面接も終了した。

 ほどなく全面接終了、解散となった。自然、修二と明に合流し、学食へ向かった。

 

 昨日とは別の定食を頼み、席に着く。食べ始めると、昨日より美味しく感じられる。今日は修二がうるさい。

「俺さ、面接でテストの出来を聞かれて焦ったよー」

「で、なんと答えたんだい?」

「いや、いまいちでしたね、って言ったら笑われたよ」

 こいつ、院試の面接で受けを取るとは大物である。杏は修二を見直した。

 

「神崎さん、すぐに東京に帰るの?」

 修二が聞いてきた。

「今夜は輪講だけど、明日明後日は観光するつもり」

「偶然だね、俺たちもだよ。明日どうするの」

 本当に偶然だろうか。一昨日のカフェといい、こちらの行動予定を知られている気がする。しかしそうも言えず、

「明日は小樽へいってみようと思ってる」

「いいなぁ、僕たちも行っていい?」

 杏は一人気楽な観光を考えていたが、知らない人間でもないし、男子一人でなく二人ならばと、気楽にOKした。

 

 夕方まで余裕があるので帝大勢二人とのんきに学食で話を続けていたら、杏は声をかけられた。

「神崎杏さんだね。赤澤です」

 面接会場で見た顔ではあるが、名前までは知らなかった。

「澤田先生にはお世話になっています」

 やばい、慌てて立ち上がって挨拶する。

「今日、輪講でしょ? うちの研究室でやりなよ」

「そんなご迷惑はかけられません、遠慮させて……」

「澤田先生に頼まれているんだよ。ホテルよりもうちの回線のほうが安定しているよ。勉強もうちを使うといい」

 そこまで言われては、杏には断るすべがない。

「ありがとうございます」

 一旦ホテルに戻り、道具を取ってくることになった。

 

「じゃあ、また明日」

と、修二と明に挨拶しかけたら、明が得意の図々しさを発揮した。

「赤澤先生、ぼくたちもお邪魔しちゃだめですか」

 杏は明を睨むが、赤澤教授は気さくだった。

「ああ、おいでよ、君は岩田くん、そちらは唐沢くんね、本当にテストできなかったの?」

 赤澤教授は専門に近い明のことは覚えていて当然だが、専門が異なる修二は面接でやらかしてくれたので覚えていたのだろう。

 

 というわけで、明と修二は赤澤研へ、杏はホテルへ戻ることになった。

 

 ホテルからパソコンやら資料やら持って赤澤研に行くと、ゼミ室なる部屋に案内された。なんでも赤澤研専用ゼミのためだけの部屋で、日頃はお茶飲み場として利用されているらしい。狭苦しい扶桑女子大の部屋と比べ、杏はとても驚いた。帝大勢は平然としている。これが私立と国立のちがいか。

 そのゼミ室はすでにホワイトボード、プロジェクタ、スクリーンがセットされ、杏のパソコンを繋ぐばかりになっている。恐縮である。修二と明はこき使われたのか自主的に申し出たのか不明だが、しっかり働いていたようで、額が汗ばんでいる。ざまあみろ。

 

 その後、ゼミ室で勉強し、夕食は学食、すでに札幌のメンバーになっているようだ。

 ゼミはいつもどおり。シゴキにしごかれた。

 

「いやあ、充実したゼミだったね」

 赤澤教授がそういう。

「聖女様、いつもこんなにやってるんだ」

 余計なことを言うなと、明を睨んだがすでに手遅れ。そのまま宴会に突入し、色々と聞かれてしまった。

 

 午後九時になった頃、修二と明にエスコートされ、強制的にホテルに届けられた。細かいことは覚えていない。

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