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聖女様は閉じ込められる

 荷物をいったんホテルに置かせてもらい、午後二時までは予定通りの行動ができた。


 まずは大正池往復。田代湿原から見る穂高、大正池に移る穂高、どちらも美しい。それなりに人多いので、往復3時間。


 つづいてホテルからビジターセンター経由で小梨平のキャンプ場へと向かう。キャンプ場内にも食堂があり、バスターミナルに比べれば人も少ないので、落ち着いて食事がとれそうである。真夏ならば、キャンプも楽しいだろう。


 昼食はバスターミナル二階で岩魚定食を食べる。味も待ち時間も、実際に体験してのリサーチが重要である。


 ホテル指定の午後二時にはまだ余裕があるので、小梨平に戻り、川縁でのんびりすることにした。


 大きめの石に腰掛けると、穂高がよく見える。右隣に修二がすわった。

「上高地はどう?」

「いい、すごくいい」

「そう言ってもらえると、話をもちこんだ僕もほっとしたよ。あとはホテルだね」

「ホームページを見る限り、問題ないと思う」

「それにしても神崎さん、楽しそうだね」

 杏の左側に座りながら、明が言ってきた。

「うん、楽しい。もう私、二十時間くらい勉強も計算もしてないけど、物理以外にこんなに楽しいことってあるのね」

 両サイドの男子からは、特に意見はなかった。


 小梨平から移動し、ホテルに戻ってきたのは二時少し前である。完璧である。宮崎准教授は二時ちょうどに到着した。

「屏風岩を見てきたよ。やっぱりでかいねぇ」

 ちなみに宮崎准教授のスタート地点大正池から屏風岩の見える横尾まで普通に歩いて約四時間、横尾からホテルまで三時間半ほどである。スタートは午前五時、今午後二時であるから、山屋の宮崎准教授にすれば楽勝なのであろう。ただし、やっぱり宮崎准教授に出張経費は出す必要がないと思う。


 午後二時のチェックイン以降も、予定通りの行動ができた。


 部屋割りは、宮崎准教授プラス男子四人で一部屋、女子三人で一部屋である。


 ホテル側との顔合わせ、館内見学。入浴、夕食。夕食後に作業があるため、夕食時の飲酒はやめておく。


 作業は食堂を借りた。男子部屋女子部屋どちらも七人にはせまいし、宴会場も使用中である。時間割作成も、事前の案に比べ大きな変更箇所もないので、八時過ぎには作業が終了した。


 作業が終了したところで、杏はテーブルに輪講と宮崎研究室のゼミの資料とノートと計算用紙を出した。ほかの学生達がなにか言いたそうであるが、気にする杏ではない。

「先生、ここのところがよくわからないんですけど」

「どれどれ」

 優しい宮崎准教授は、計算用紙にちょこちょこと式を書いていく。上高地行きの間、勉強が制限される杏は、あらかじめ質問箇所をしぼってきたのだ。


「ちょっと見せてよ」

 明がプリントを覗き込む。明もペンを手に取って、別の用紙に計算を始めた。宮崎先生が言う。

「岩田くんは、宇宙論でしたね。ならばこのへんは、僕よりよっぽどくわしいだろう」

 ならばと杏は、別の箇所をを宮崎准教授に見せる。

「うーんこれはね……」

 杏は満足した。これなら二倍速で質問を解決できる。呆れ返った優花、のぞみ、健太、修二は、自販機からビールとおつまみを買ってきた。杏は自販機にバナナオーレがないことを確認済みである。一泊あたり五本ほど用意すればだいじょうぶか。


 三十分ほど質問に応え続けた宮崎准教授は、ついに音をあげた。

「もう飲もう、明日も早いし、きみたちも飲め!」

 杏はまだ聞きたいことがあったが、明日のバスは夜行ではないので、バス内でも聞けると無理やり納得して、ビールの缶を開けた。


 翌朝目を覚ますと、外は大雨である。この雨の中バス停まで行くのかと二日酔いの頭で考えながら食堂に降りる。食堂にではテレビを前に、みんなが青い顔をしていた。


「昨夜からの雨のため、県道上高地線で土砂崩れが発生しました。復旧のめどはたっておりません……」

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