聖女様は上高地を満喫する
一同身支度を終え、杏は一行の先頭を切って歩き始めた。宮崎准教授のすすめで買ったトレッキングポールを持てば、ちょっとした登山気分である。河童橋の向こうに穂高連峰が見える。岩の塊だ。雪も方々についている。正面の奥穂高岳は日本三位の高峰らしい。学校でやった登山しか経験のない杏であったが、登ってみたいと思った。
「この道だと、キャリーケースは厳しいね」
「宮崎先生に聞いといてよかった」
後ろを歩く明やのぞみはちゃんと仕事しているようだ。よしよし。
「あ、サルだサル!」
「うぉー、サル!」
優花が騒いだ。子猿が木に登っている。健太と優花はいちゃつき気味である。仕事しろよ。杏はぬいぐるみを買い、おやきを食べたが、すべてリサーチなのである。
気がつけば杏の両サイドに明と修二が並んでいた。とくに何か話しかけてくるわけではない。
河童橋たもとの階段を上る。早くも橋の上は人が多く、杏達は一列になって橋を渡った。
「吊り橋だけど、あんまり揺れないね」
つぶやいたのはすぐ後ろを歩く修二であろうか。
河童橋を渡り、梓川沿いを下るようにホテルに向かう。穂高を背にすることになったが、こんどは焼岳がちらほら見える。
「焼岳って火山なんでしょう」
のぞみが尋ねる。
「そうだよ、大正池は、焼岳の噴火でできた堰き止め湖だよ」
杏は河原をひょこひょこ歩く、尻尾の長い鳥を見つけた。リュックを素早く降ろし、新調した双眼鏡を取り出した。
見ると、セキレイである。川崎で見るセキレイと違い、腹が黄色い。
「キセキレイだ、キセキレイだ!」
杏は初めて見る小鳥に声を上げた。
優花とのぞみの視線が冷たい。
「リサーチだよ、リサーチ」
男子の目は生温かかった。




