収まれ!感情!!
幼馴染で隣の席の彼が、現在、先生に呼ばれてお披露目された転校生の女の子を見て、一目惚れしてるのを視界に捉えた瞬間、心臓がドッ、ドッ、ドッ、と激しく脈打って……あっ…駄目だ、と思った。
ガタッと、思わず盛大に音を立てて、私は席を立つと、周りの視線が注目してるのを視界に入れつつも、これ以上みっともないだろう顔を誰かに…幼馴染のアイツには特に見られたくなくて、教室を飛び出した。
「っ………なん、で…」
現在、1時間目が始めてる頃だろう。だから、階段に座ってる私以外、その付近は人気無し。
「やだ…」
彼を落とす一つの方法が浮かんでくるが、正攻法なやり方じゃなくて、泣きたくなる。
それから、転校生の彼女にだけ理解る様な、精神的な危害を加えて、それで発狂したあのコに、彼は興醒め…というやり方も脳裏を過り、駄目だ! とかぶりを振った。
女の子の発狂一つで、理由も調べずに直ぐに興醒めする男なら、私は最初っから彼の事を好きになんかならない。
………皮肉だ。
だって、多分彼女は、そーゆう彼の良い部分を知ったら、きっと……
「ダメっ!!! ……好きに…好きに、ならないで…ッ」
口にして、サーっと血の気が引くのを感じた。
現実になりそうで、怖いから…。
「あっ…、あっ……」
彼の事が大好きだと自覚してから、彼の想い人になりそうな女の子達を見つけては、胸がギュウウゥッと締め付けられては、苦しい気持ちに襲われていたケド、どのコもお眼鏡に適わないのか、彼が誰かに惚れた様子はなかった。
それで、ウザがりながらも、帰り道が一緒な私と、いつも帰ってくれてて…。
「…ッ」
もう、一緒に帰ってくれないかもしれない。
だって、あのコに私との関係性を勘違いされたら、困る筈だから…。
2時間目が始まる前。
漸く気持ちが落ち着いてきて、教室に戻ってきた私に、彼はーー私の存在に気付いた様子がなく、あのコの事を見つめていた。
ーー今日から、一緒に帰れなくなるのか…
また溢れそうになる、醜い感情と泣きたくなるのをグッと抑え、なんとか今日を乗り切る。
そして放課後。
彼に声を掛ける事なく、私は教室を後にした。
「…オイ」
「!」
校門を出てから、どれぐらい経っただろう?
今は一番聴きたくない声が聞こえてきた直後、肩を掴まれる。
これでも一応女の子なんだからもう少し優しく肩を掴んでよ、と文句の一つも言おうと肩越しに振り返り、
「あれ? 一人? 」
と思わず出た疑問が口を衝いて言葉になる。それに彼はムッとしたみたいで、
「……は? お前も一人だろ」
と憎々しく言い返してきた。
なんだ。あのコになんとか声を掛けて、一緒に帰ってくれないか? と誘わなかったんだ。
ホッと胸を撫で下ろすと同時に、ニヤけそうになる口元を、咄嗟に手で隠す。
「…ったく。置いてくんじゃねぇよ」
危うく教室で一夜を過ごす処だったぜ、と反応に困る微妙な冗談か本気か判らない発言には目を瞑るとしても、今コイツ、とんでもない事を言わなかったか?
「わっ…私と一緒に帰れなくて、寂しかった? 」
まさか、一緒に帰る事が前提みたいな事を言うわけがない、私の都合の良い幻聴だ、と思いながら、私が居なきゃ寂しいんだ? と冗談めかして尋ねれば、目の前の男は「馬っ鹿じゃねえのっ!? 」と言い返してくる。
…が、その頬は真っ赤で、図星を突いたのだと気付く。
ーーだっ…、だめ……
身体がカーッと熱くなる感覚。
息が乱れて、ハッ、ハッと、犬が散歩で嬉しい時に出す声が、漏れ出す。
ーーやばい…落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着けッ! 落ち着けええぇーーっっ!!!!!
「…あれ? お前、なんか顔、赤くね? 」
「!? っ……きっ…気のせいじゃない? 」
言った直後、ふっと影が落ちる。え? と思っていると、コツンと額が軽くぶつかって、男と目が合った。
こんなに間近で惚れてから見る事のなかったコイツの顔に……うん? 間近??
「ほら、やっぱり熱い……あれ? なんか、段々熱上がってねぇか? 心なしか、結構息も荒く…! オイッ!? 」
その後、倒れた私を彼が、家まで運んでくれたらしいが、その時の事を全然覚えてない。というか、意識を手放していたので、知らない。
「っっ………期待…させないで、よ…」
これ以上、期待させないで…。
そうしないと、貴方への好きが、いつか暴走しそうで、怖いよ、私…っ。
了
後書き
べっ…別に、、
とある作品の妄想が爆発して、それをオリジナル用に作って昇華しようとしたとかじゃ、ないんだからね!?
(↑……はい、はい('ω')