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★10 幼なじみ。

よろしくお願いします。


金曜日、母の母、つまり婆ちゃんが亡くなったと連絡が入った。

90歳。大往生だ。すぐに実家に帰った。


近くの葬祭場で土曜にお通夜、日曜にお葬式を行ったのだが、

その時、幼なじみの青柳冬美あおやぎふゆみのお爺さんが参列してくれた。


俺と冬美の家は自転車で5分ほどの距離にあった。


だけどお互いの母親が親友だったので、小さい頃は毎日のように遊んでいた。

小学校、中学校に入っても俺たちの仲は変わらずメチャクチャ良かった。


周りの連中も俺たちの仲を知っていて、生暖かく見守られていた。


高校に入って、同級生がガラッと入れ替わると、冬美は知らないヤツらから

告白されるようになった。


冬美は長い黒髪が輝いていて、切れ長の目、すっとした鼻、

薄い唇が神の手によって美しく配置されていた。


俺はようやく焦ってきて、いつ告白しようかと毎日考えていた。


9月の終わり、冬美のお母さんから電話があった。


いつもは19時には帰って来ているのに、20時になっても帰って来ないって。


俺は家を飛び出し、学校への道を走った。


イヤな気配を感じ、公園の中へそろそろと入って行くと、いた!冬美だ!


冬美は自分の体を抱いて、へたりこんでしくしく泣いていた。


その髪と制服は乱れに乱れていた。

「・・・冬美。」


俺の声が聞こえた冬美は大きな声で泣き始めた。


俺は駆け寄り、冬美を優しく抱いた。

冬美はビクッとした後、俺にしがみついた・・・

・・・

冬美は同じ高校の2年桑畑正樹にレイプされた。


入学当初に告白されて断っていたけれど、さらに2度、

こりずに告白してきたのですっぱりと断っていた。


眩暈がした。後悔が押し寄せた。


毎日、一緒に下校していればレイプなんてされなかったのに!

冬美を守ることが出来たのに!


関係が壊れるかもって恐れた結果、冬美が酷い目にあって、泣いている!


俺はそいつに復讐したかった。


だけど、冬美は私的な復讐よりも警察に訴えることを選んだ。


何にも役に立たない俺は自分の無力さに腹がたった。


警察の取り調べで、何度もレイプの状況を尋ねられ、

そのたび冬美は泣いていた。


だけど、ヤツを刑務所にぶち込むんだと頑張っていた。


俺は冬美の背中を撫でて励ましていたが、

何度目かには我慢できず告白してしまった。


「冬美、好きだ。俺は冬美が好きなんだ。」

「ゴメン、優真!私も優真のことが好き!だけど、ダメなの!」


なんどもこのやりとりを繰り返した。


学校や周辺からは被害者なのに、好奇の目に晒され、

お前が誘ったんだろって言われ、そもそもでっち上げだと言うヤツまでいた。


冬美は泣きながら頑張っていて、ヤツはついに逮捕された。


なのに、事件から5ヶ月後、冬美とその両親は突然、いなくなってしまった。


一人残された冬美のお爺さんに何度も尋ねたが「知らん!」の一点張りだった。


俺の母親も手を尽くしてくれたけど、冬美たちの行方は分からなかった。


レイプ犯の桑畑正樹の祖父は地元の大企業の社長で、

隠然たる力を持っていた。


そして、冬美の父親の勤め先の主要取引先が桑畑の会社だったから、

ひどく嫌がらせされ、無理やり退職に追い込まれていたそうだ。


2週間後、冬美から1通の手紙が届いた。


「大竹優真様。

突然いなくなってごめんなさい。今まで本当にありがとう。

もう、私のことは忘れて、幸せになってね。」


忘れられるワケがなかった。

ずっと運命の人だと思っていた。


俺がもっと頼りになれば、一緒に戦えれば、冬美は消えたりしなかった。


俺がもっと前に告白して付き合っていれば、毎日、

一緒に下校してレイプなんてされなかった!


俺は自分の無力さを呪い、必死で体を鍛え、キックボクシングを練習した。


その内、俺の父親は浮気がバレて、母親に追い出された。


父母の離婚が成立して、俺は母親の方について、

名字が大竹から守屋に変わった。


色々ありすぎて成績が急降下したが、なんとか現役で3流大学に合格して、

神戸で一人暮らしを始めた。


大学でも体を鍛え、キックボクシングを練習した。


2度、女の子から告白されたけれど、そんな気にはなれなかった。


運良く、(株)池麺に入社出来て、周りの人たちに恵まれた。

百里や奏みたいに、大人になってから親友と呼べる人まで出来た。


あれから17年、俺はまだ、冬美のことを忘れられない・・・

我ながら、しつこすぎる・・・

・・・

冬美がいなくなった時、冬美のお爺さんは60歳で定年を迎えた

ばかりだった。


中学生や高校生にだって注意することが出来る怖い爺さんだったのに、

17年ぶりに会ったお爺さんは見る影もなくヨボヨボになっていた。


俺を見た冬美のお爺さんは俺を弱弱しい力で捕まえると

涙をこぼし、唇を震わせた。


「優真くん。冬美は?冬美がどこにいるか知らんか?

儂は、儂は一目でいい。冬美に会いたいんだ。

会って謝りたいんだ。頼む!冬美を探してくれ・・・」


探偵でも雇えば見つかるのだろうか?

見つかったら俺はどうするんだ?


冬美が結婚して幸せそうだったら、祝福出来るだろうか。

だけど、幸せならお爺さんに連絡くらいするんじゃないか・・・

読んでくれてありがとうございました。


面白ければ評価をお願いします。


また明日更新します。

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