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珈琲を愛する人  作者: コーヒーヴァンパイア
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Coffee Vampire

わたしはヴァンパイアであるが、すこしばかり特殊なタイプだと思う。

世間で畏れられているヴァンパイアとは起源も種も違うようだ。

なので、闇に姿を隠して生きている彼らとの交流もないし、仲間という意識もない。

生者の精気を理不尽に奪い取り、ときには死に至らしめたり、質の悪い眷属を生み出したりもしない。


ホモ・サピエンスやヒューマンと自称しているものをおのれの糧にするつもりもない。

また、彼らのように無節操に万物を餌にする必要もない。


純粋で、無垢で、無抵抗な果実の木を、その生気の一部を、彼らが枯れ果ててしまわない程度に、分けてもらっているに過ぎない。

それは、わたしたちの起源、すなわち人類がコーヒーを食するようになるよりもかなり古くから、そうであった。

種としての規模は小さく、野生の樹木に依存してはいたが、彼らを絶滅に至らせるほどの摂取量ではない。


人間がその樹木の実を食物として、そして大地の生業に変化をもたらす程に大量に、その果実を(わたしたちから)奪い去るまでは、調和と平和がそこにはあったと、わたしは考えている。


それがゆえに、一部の仲間たちは、人が営む農園からの略奪を目論み、ヴァンパイアとしての誇りに生きる者たち、これはわたしも含めてなのだが、彼らは略奪よりも衰退と空腹を選んだ。


たとえヴァンパイアといえどもなのだが、衰退と飢えの果てには、死が訪れる。

その苦しみは人の寿命の五千倍ほど長く続く。

長過ぎる苦しみに生命を諦めて、わが種族にだけ伝えられている秘伝の毒を飲み、自ら命を断つものもいるが、私たちから見て極東、日本という国で、市民に紛れて生き延びた者たちにだけに、奇跡が訪れた。

これにもわたしは含まれているのだが、彼ら日本人が信仰する神とやらには、計り知れない慈悲が溢れているのだろうか。

独自の焙煎と抽出の文化を育てることに成功した日本では、いや日本で手に入るコーヒーという飲み物には、かつてわたしたちが糧を得ていた野生の樹木からの栄養に劣らないほどの生気が宿されている。


あるいは、その素晴らしい環境で、種族としてのヴァンパイア、もとからわたしたちは人の血を吸うことはしなかったのだから、呼ぶ名を違えるべきなのだが、わたしたちは、彼らの神の恩惠で進化したのかもしれない。


毎朝のモーニングコーヒー。

昼食後のアフターのカフェ。

一日に何度も、わたしたちはコーヒーを摂取している。

人間であることを擬装するための食事はするのだが、目的は唯一、コーヒーだけなのだ。

それさえあれば、わたくしたちは数千年を生きられる。

自然を荒らし、天然の植生を破壊した人間が、歴史上からいなくなるまで、わたしたちは生きられる。


まさに日本は楽園なのだと、わたしは「喫茶店」を営む仲間とともに、密かに笑う。


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