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過去に行ってもうれしくない!!!   作者: わんちゃん110番
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扇を開くとそこは・・・

 きっかけは「何、これ?」だったのだ。魔がさしたのだ。いつも、ついうっかり、で失敗していることを忘れたわけでもないのに、ちょっと手に取り広げてしまったのだ、古い屋敷、京都の重要文化財になっている家の片隅に落ちていた扇と思しき物を。


 母の

「ちょっと!」

という声と共に、広げた扇から平安絵巻がこぼれてくる。

(えっ!? 何?? 飛び出す絵本?? 壊した!!)


とりあえず壊してしまったことへの後悔の気持ちが一瞬芽生えたが、

「うわっ!!!」

平安絵巻に続き、目を開けていられない程の光が弾けた。


 光がおさまると、女の人が目の前に立っていた。早速、何がしかの文化財を破損したことに対する苦情か、と思ったが様子が何だか、本当に何だか、何かがおかしい。

そう、目の前に立っている人は、いわゆるアレだ、皇族の方の結婚式でお目にかかる、「おすべらかし」に「十二単衣」に見える格好をしている。


 「お待ちしておりました」

と、こちらが唖然としてる間に言われる。

 

 そうか、やっぱりドッキリか。危うく、新聞沙汰→就職戦線離脱→就職浪人→実家パラサイト→親の介護(仮)→実家の破綻→段ボール生活、という図式になるところだった、と胸を撫で下ろす。

 

 「・・・あおい、様ですね?」

(なぜ私の名前を知っている!?)

とは思ったものの、ドッキリならあるか、とも思い返事をする。

 

 「・・・はい」

返事をした途端、今度は小声で

「ちょっと!! プライバシー!!!」

と母親からの叱責。


 私の名前を確認した皇族(風?)女性は、

「私は、葵の上様にお仕えする女房の、紅葉、と申します。本来でしたら、あおい様のみがいらっしゃるところを、申し訳ないことに、あおい様のお母上様までお呼びしてしまったようです。

今後のことをお話しさせていただきますので、こちらへどうぞ。」


と言うと、先に立って歩き出した。

何の話? めんどくさい、とは思ったが、万が一ドッキリでなかった場合、『弁償』しなければならないかも、と頭の中でささやく声がするので、母親と顔を見合わせ、お互いにため息を一つついて後に続いた。


 案内された場所は、庭園がよく見える部屋だった。と言うか、どこまでこの部屋? と言うくらい広い部屋だった。隣の部屋との境がよくわからない。


「どうぞ」

と言われて、畳の上に二人分用意されているペラッペラの座布団もどきの上に座る。とりあえず正座。殊勝なところを見せておかねば。


 「では」

彼女は私たち親子の前に座ると、所謂『土下座』の体勢になり、

「大変申し訳ございません。お二人は現在、お二人のいらっしゃるところで『平安時代』と呼んでいる・・・過去におります。

できるだけご希望に沿うようにいたしますが、しばらくはこちらで生活をしていただくことになります。」

と戯けたことを宣った。


「・・・」

「・・・」

母はもちろん、私も無言だ。というか、ドッキリか弁償かの二択だったのだ、私の頭の中では。


 立ち直りは、さすがは年の功というか、母の方が早かった。

「実は、先程、娘が床に落ちていた扇を手に取って・・・大変申し上げにくいのですが、その扇を手に取ったら、こう、何ていうか・・・バラバラと・・・。

娘が壊してしまったかもしれません。大変申し訳ございません。」

と言い、手をついて頭を下げた。私も一拍遅れて頭を下げる。


「いえいえ、頭をお上げくださいませ。あの扇でお待ちしていたのです。あおい様を。」


「・・・どういうことでしょうか?」

母のその問いに答えて、彼女は信じがたい話を始めたのだ。


 「先程も申しましたが、私共がお二人を、と言いますか、あおい様をこちらに呼び寄せる目的を持って、あの扇を、あの場に置きました。

あの場でお手に取っていただけなければ、また別の場所に置いて機会を伺うつもりでおりました。

あの扇はお手にされたらこちらの世にきていただける、そのような物なのです。


 どうしてもあおい様にいらしていただきたかったのです。

 あおい様が必要なのです。

 

 そう申しますのも・・・私のお仕えしております葵の上様が昨晩、身罷られました。

葵の上様は、まもなく女御様となり宮中にお上がりになるはずでした。女御様になられましたら、弟の彬様が元服され家督を継ぐまでの後ろ盾に、主上がなってくださるはずでこざいました。

また、このお屋敷を維持するためや、荘園運営に充分な報酬を得ることもできるはずでございました。

 それなのに・・・。


 この上は、葵の上様に代わり女御様になっていただける方を・・・。

そのため、違う世界からあおい様をお呼びいたしました。


 彬様がお力をつけるまで、どうかお力をお貸しくださいませ。その後は、元の世界の、扇を拾われる前にお戻りいただけます。

 どうか、どうか、お力をお貸しくださいませ。」


 正直、

「はっ???」

としか言いようがない。


何を言っているんだろう? 頭がおかしい? 


すかさず、母が言う。

「すいません。何だか上手く理解できなくて・・・。

もう一度説明していただけますか?」


母もドッキリを疑って再説明を求めたのだろう。だって、同じ内容を2回も説明したら、もうドッキリの効果ないしね。

すると彼女はまたしても同じ説明を始めた。

 ・・・何言ってんだろう???

 

 そして、2回説明を聞いた後で、今度は彼女の頭の中を疑うことにした母と私は、多分、悪くないと思う。

信じられない。

だから二人揃って、ものすごく胡乱げな顔をしていたんだと思う。


 「申し訳ございません。私の話がお分かりいただけないのであれば、まず、このお屋敷をご覧いただいて。

お屋敷の外もご覧いただいて。


 そのためには、まずは今お召しになっているお着物を着替えて頂かなければなりませんね。

そのお姿で外においでになられましたら、奇異なものに見られてしまいますから。」


 とりあえず、現状を把握しよう。

まず、スマホ。母と思考が似ているのか、二人揃ってバッグの中に手を入れてスマホを取り出す。

母は迷わず「119」を押していた。「頭のおかしい人」認定をしたらしい。


でも、

「あれ? 発信音がならない?! えっ???」

と言うので、私は母を真似て「110」を押してみる。

やっぱりうんともすんとも鳴らない。


よく見ると電波の表示が・・・あれ? 文字化け? 

母は充電が切れたとでも思ったのか、充電器につないでいるが、何度試しても、他に掛けようとしても繋がらない。


 私も同じ状況になっていたため、次に出口に向かうことにした。

怖すぎるわ、頭の壊れている人と同じ空間。

この際、「器物損壊かもしれない」の件は忘れることにする。

割と早歩き、走る勢いで出口と思しき方に向かい外に出る。


 母と先を争うようにして、門から出る。と、そこには・・・


 「え・・・ここどこ???」


 広い通りを、着物の知識のない私から見ても粗末な着物の人達が歩いている。

さっきまでは車が、バスが、自転車が走っていた道路を。

ビルは全く見当たらない。

観光客らしき人も勿論いない。


 ああ、本当に『平安時代』に来てしまったらしい・・・

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