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第七話「メガ中華街での調査活動」

 ティアラとの面会から二日後の夜。

 マサコは福岡県京都郡にあるメガ中華街の中、中華風の飲食店の立ち並ぶ通りを歩いていた。

 メガ中華街には様々な商店があるが、どれも夜を通して営業しており、中華系独特の金銀と派手な原色のネオンやホログラムの看板が見渡す限りの空を覆い、歩道には大勢の人が常に行き交っている。

 道路はメガ中華街を取り囲む外周こそ8車線となっているが、区画内は歩行者優先の1車線の一方通行道路が碁盤の目状に張り巡らされている。

 この時代の有名な観光地でもあるので、外国から来た観光客がVR撮影用のカメラを手に歩き回る姿もよく見られる。

 マサコはそこらのオフィスビルによく居る様なスーツにタイトスカートといったOLの服装で、町の様子や行き交う人々をそれとなく眺めながら歩いていた。

 勿論目的は、この先発生するであろうこの町の占拠と虐殺行為を止める為、さらに言えば事前にテロリストの動きを探り、可能であれば未然に阻止する為である。

 もちろん大都市である以上、この町が完全にクリーンとは言えない。


「誰か! 誰か助けてぇぇ!」


 路地裏の方から女性の悲鳴が上がる。

 普通であればこういった悲鳴は無視するのが無難ではあるが、マサコにとっては別である。

 マサコは悲鳴の上がった場所に走り、あっという間にパンク風の恰好の男の胸倉を掴み上げて、腹に膝蹴りを入れていた。

 傍では半分破れた衣服を手で押さえつつ、若い女性が震えながら立っている。


 ドゴッ


「うげっ」


 ズルズル……ドサッ


「あ、有難うございます」

「不用心が過ぎるぞ。

 自分の身を守る自信が無いなら、一人で人気のない場所を出歩くな」


「すいません。注意します。

 ここの治安に対して認識が甘すぎました。

 最近は人さらいも増えてるというのに……」

「そうなのか?」


「はい。私の周囲でも姿を消して音信不通の人が二人も居ます」


 話を遮るようにマサコが付けているサングラス型のバイザーのコール音がなった。


 ピピッ


 マサコは女性の背を突き飛ばす。


「早く行けっ」

「は、はい。有難うございました」


 女性が立ち去ったのを確認し、マサコはバイザーの前に手をかざして受信操作を行う。


「米原か。何か見つけたか?」

「いえ、全然見つからないと言いますか……そもそも何を探せって言うんです?

 民衆解放軍の工作員が制服や階級章を付けて歩き回ってる訳ないでしょうに」


 さらに内藤からの通信もそこに加わる。


「今の所不審な動きは見られません。

 まぁ、怪しい薬物やポルノホロビデオでも売ってそうな奴はチラホラいますがね」


 マサコは二人に答える。


「初めから目標を決めてを探してるんじゃなく、想像も予想もしなかったものをしっかり嗅ぎつけるんだ。

 それが現地を自分の足で歩いて調べる私達の利点だ。

 もっとも、お前達にそれはあまり期待してないがな」

「えぇぇ、なんすかそれ」

「……」


「いずれ戦場になり得る町だ。自分の目で見て自分の肌で感じ、町の構造や人々の動きを目に焼き付けろ。

 デジタルデータのマップに頼っていれば、それは時に大きな嘘を付く。

 この町をテロリストが占拠したならば、人質をどこに集めるか、どこを守り、どこに立てこもるか、想像しながら見回るんだ。

 それが只の警察には出来ない、我々火車の嗅覚という物だ」

「なるほど、了解です。その嗅覚を辿れば、怪しい者や情報に辿り着けるかも知れませんね」

「ラジャー」


「内藤、一応潜入任務の一環だ。

 ラジャーという言葉遣いは止めろ。聞かれたらあからさまに怪しいだろう?」

「はっはっは、堅物が」

「かしこまりました」


 米原と内藤は通信を切った。

 だがすぐに次のコールが鳴る。


 ピピッ


 送信者は非通知である。


「何者だ?」

「お久しぶり。

 今日は朝からメガ中華街の南区を中心に歩き回っておられたようですけど、何も成果が得られなかったのでは無いかなと思いまして……。

 手助けをさせて頂こうかと思い、お掛け致しました。

 お邪魔でした?」


 バイザーの端に発言者の映像が映る。

 情報屋のティアラである。


「邪魔だ」

「そうおっしゃらずに。

 そもそも人相照合ソフトも使わずに見回り調査しようなんて、時代遅れも甚だしいと思いますわ。

 途中で2名ほど民衆解放軍の士官と出会っている事に気付いていらっしゃるかしら?」


「天竜門ですれ違った黒い山高帽の60代くらいの男。

 あとは桃楽園前で待ち合わせをしていた赤いフードの若い男か?」

「!

 意外だわ……どうして分かったの?」


「何度か立ち止まったり歩いたりを繰り返していたが、常に無意識に左足から踏み出していたし、歩幅がきっちり等間隔で動きも早かった。

 そして頭に物を被っていないと落ち着かないからこの蒸し暑い中被り物を付ける。

 軍人の癖だな。

 それに二人共、お揃いのバイザーを付けていた。

 マイナーな中国製の機種のをな」

「……すっご」


「同類から見ればそれくらいの洞察はそんな凄い事じゃない。

 で、何の用だ?」

「メガ中華街の長老、李泰然(リー・タイラン)と会談の場を設けてあげたわ」


「あぁん? おい勝手な事されてもこっちも困るんだが」

「彼は半世紀以上にわたってメガ中華街の発展を支えてきた重鎮であり、誰よりもこの町を愛しているし、中国よりも日本に対して好意的な人物よ。

 必ず助けになってくれるはず。

 情報を提供したのは私だけど、協力を申し出たのは彼よ」


「信頼……出来る相手なのか?」

「私が自ら選んで情報提供を行う程度にはね。

 時間は今から1時間後の23時00分。

 場所はメガ中華街中央区にある黄龍楼。

 地上100メートルにまでそびえ立つ、金閣寺をジェンガのように積み上げたような金色のタワーよ。

 夜の間も眩いくらいにライトアップされて町のシンボルにもなっている。

 貴方も見たでしょう?」


「あそこか……」

「貴方一人で行く事。入り口の受付でティアラの紹介を受けたマサコだと名乗れば案内してくれるわ」


「おいおい……機密という物が」

「日本に今何万人マサコが居ると思ってるのよ。

 さぁ、行った行った」

 

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