第99話 激烈する激情
「そこの馬鹿三人! 今いる所から、一歩でもこっちに来てみなさい。その両足が吹っ飛ぶわよ」
「は、はぁぁ!?!? アンタみたいな腕っぷし以外取り柄の無い端くれ者が、このアタシに意見出来るわけないでしょうが!?」
「そうよ! 口を慎みなさい!」
女子二人は、父親を名乗る男性から視線を外して鋭い声音を飛ばして来たキュレネさんに抗議の声を上げる。
「――貴方達、仮にも頼み事に来たのよねぇ……? 最初から引き受ける気なんて欠片もないから、どうでもいいけど……。まあ、私か言える事は二つだけ――。」
ギャーギャーと騒ぎ立てるアホ二人とは対照的に、前髪が目にかかっているキュレネさんの表情は窺い知れないものがある。
だが、その心中を察するのは、容易だった。
「その薄汚れた手で、この子達に触れないで! さっさと、この場から失せなさい!」
荒れ狂う激情が親子を射抜く。
「ひっ!?」
灼熱を思わせる激しい殺気をぶつけられ、親子の顔が恐怖に歪む。さっきまでの大口は、どこかに飛んで行ってしまったようだ。
「し、しかしだな! これは非常に大切な……」
そんな中、父親らしき男性は、震える身体を押さえつけながら弱々しい声音で突っ掛かって来る。向こう側にも、引くに引けない状況にあるようだったが――。
「――はい、そこまで」
「な、何だね、君は!?」
俺は話の流れをぶった切るように口を挟んだ。周囲から向けられるのは、敵意塗れの視線――。
だが、ずぶの素人に凄まれた所で、何の感情も湧いてこない。
それこそ、普段から戦場の殺気に触れている身からすれば、そよ風やさざ波と称するのですら躊躇われる。というか、大陸屈指の実力者であるお姉様二人に揉みくちゃにされている状況の方がよっぽど物騒だ。
「一応、冒険者ギルド総本部兼、帝都騎士団所属の者ですが、何か?」
「――ッ!?」
そして、俺が身分を明かせば、睨みつけて来る連中の表情が思い切り引き攣った。
「そちらにも込み入った事情があるというのは、何となく伝わってきました。我々としても、家庭の事情に首を突っ込むつもりはありません」
「なら、黙っ――」
「積極的に首を突っ込むつもりはありませんが、巻き込まれるつもりもありません。それにここは街中……。これ以上、騒ぎを大きくされるようなら詳しいお話を訊かなければなりませんが、どうしますか?」
「ぐ……っ!?」
どうにもならないと悟ったのか、男性の歯軋りが大きくなる。
「ましてや、現状この二人も正規の騎士団員であると共に、ギルド総本部所属の冒険者です。そんな相手――しかも、片方は初対面の人間に対して、貴方達は一方的に罵詈雑言を浴びせた。事態に関係ない人間が迷惑を被っている以上、既に家族喧嘩の域を超えています。今すぐしょっ引いてもいいんですけど?」
「ぐ、ぎっ! ぎぃぃ――ッ!?!?」
冒険者個人に逮捕権限はないが、騎士団員を呼べば同様の事は出来るし、連中は無関係のルインさんに対して、犯罪認定していいレベルの最低発言をしていた。
だからこそ、俺の発言は基本的に間違っていない。
まあ、キュレネさんが先に攻撃してしまったのは事実なわけだが、この状況で向こうから仕掛けてくることはないという算段あっての発言だ。
「この二人に誠意ある謝罪を頂いて、今後一切、関わり合いにならないと誓って下さるのなら、穏便に済ませる事を考えて上げてもいいですけど?」
「こ、この! っ、ぉぉ……!」
そして、彼らに最終通告を叩きつけた。多分、彼らからすれば、上から押さえつけれるよりも屈辱的な言い回しで――。
「そんなに唸っても現実は変わりません。今ここで頭を下げて消え失せるか、犯罪者として吊し上げられるか――二者択一です」
「ぐぎぃぃ!!!!」
名家にしろ、騎士団にしろ、何よりも面子と名誉を重んじる生き物だ。故に、相手より下に見られることは我慢ならない。それこそ、自分の命と天秤にかける程に――。
曲がりなりにもグラディウスの屋敷で十年以上過ごして来ただけあって、俺にも彼らのそういう心理は理解できる。
そして、彼らに突き付けた選択肢は、どっちを取っても見下していた相手に屈服させられるも同じ。これ以上ないくらいに屈辱的なんだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
「貴方たちは、言葉という剣を俺たちに刺し向けてきた。当然、自分たちのした事に落とし前はつけてもらう。それが出来ないのなら――」
「は、ひィっ!?」
熱せられた心と、凍てついた殺気。
俺にとって譲れない境界線を犯す行為をした連中に対し、自分でも語気が強まるのを感じていた。
「ぐ、ぐぅぅ!!」
「ま、まってアナタ! ほ、ほら! アンタたちも行くわよ!!」
「は、はいぃ!!」
顔を真っ青にした親子は、父、母、子供たちの順で、向こう側の通りの人混みに向かって一目散に駆けて行く。
自分のやったことに責任も取れない馬鹿共に呆れながらも、これ以上深入りする必要があるかどうかを問う意味を込め、キュレネさんを一瞥する。
「追い詰められた馬鹿は何を仕出かすか分からないわ。深追いは止めましょう」
対する回答は、否。
仮にも名家の人間が、こんな人口密集地帯で武器や魔法を行使するとは考えたくはないが、余裕を失ったあの連中に関しては、その限りではないという事なのだろう。
一般人が巻き込まれる可能性を考えれば、納得のいく判断だ。
同時に、この件の中心人物であるキュレネさんが動かない以上、俺たちも動く理由はない。
「あんな連中、追う価値もないわ」
そして、彼女らしからぬ口調で言葉を吐き捨てる。
再び、俺達の間を静寂が包み、周囲に響くのは、大通りの人々が発する営みの声だけとなった。
パーティーメンバー
アーク・グラディウス
職業:処刑者
武器:虚無裂ク断罪ノ刃(処刑鎌)
防具:黒ノ鎧
ルイン・アストリアス
職業:武帝
武器:逆巻ク終焉ノ大刀(青龍偃月刀)
防具:金剛の武鎧
キュレネ・カスタリア
職業:槍術師
武器:シックザールクリスタロス(長槍)
防具:スプレシオンドレス
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