第6話 特異職業《ユニークジョブ》
俺が目覚めてから一週間後、ジェノア王国の隣国――シルヴァ王国の外れにある大きめの家屋の前にて――。
「ダイダロスの武器屋?」
その矢面に掲げられている看板に記された文字を読み上げる。
この状況にあって、どうしてこんな所に連れてこられたのだろうという俺の戸惑いは強まるばかりだった。
ダンジョンで置き去りにされ、色々な偶然が重なって生き延びてしまったわけだが、俺は全身ズタボロの無一文で放り出されたわけなので、当然治療費どころか宿代すら払えない状況だった。それを肩代わりしてくれたばかりか、これまでの旅費を出してくれて、ボディーガード兼、仮パーティーを組んだのが――。
「アーク君! 何をボーっと立ってるの? 中に入るよー!」
日の光で輝く金色の髪を揺らしながら、俺に手を振って来るルインさんだった。
「は、はい!」
俺はここに居ていいのかだとか、どうしてこんなに良くしてくれるのかだとか、どうやって恩を返すかなど考える事は沢山あるが、とにかく今はルインさんの指示に従うしかないと彼女の後を追ってダイダロスの武器屋の扉を潜った。
「いらっしゃぁい! ルイン、その子が例の?」
「うん、そうだよ。セルケさん」
そこに居たのは、一言でいえば薄着で露出の激しい緑髪の女性。良く通る声で出迎えてくれたその女性とルインさんはどうやら知り合いの様で、店頭のカウンターで和やかに話している。
「じゃあ、用意しておいてくれた?」
「ああ、好きなだけ見ていきな!」
二人は事前に連絡を取っていたようだけど、俺にはさっぱり話の流れが掴めない。でも、何やら俺の事を知ってくれているようなので、とりあえず場違いって事はなさそうだ。
歩いていく二人を追う様に店の奥へ向けて足を進める
「そういやそこの可愛い顔したボウヤ、名前は?」
「アーク・グラディウスです」
「じゃあ、アー坊ってとこかね。――アタシはセルケ・ダイダロス。見ての通り――」
「――っ!?」
セルケ・ダイダロスと名乗った女性は満足そうに頷くと、店の最奥の扉を開け放つ。
「このダイダロスの武器屋の店主さ!」
そこに在ったのは、武器、武器、武器――。
「これ……は……」
無数の武器が押し込められていた。それも、殆どが全く見た事も聞いたこともない様な物ばかりだ。
これには開いた口が塞がらない。
「どうだい、アー坊?」
「す、凄いと思いますけど……俺には……使えな……」
思わず部屋中を物色してしまうが、セルケさんはそんな俺に対して豪快な笑みを浮かべながら背中をバシバシと叩いて来る。
「ん? ルインから訊いてないのかい?」
「え、ええ……」
俺はセルケさんの言い様に首を傾げる。
「うん。言ってないよ。実際に体験してもらう方が良いと思ったし、ここに有る武器に適性があるかどうかも分からない。あんまり期待させ過ぎちゃうと、ダメだった時にかえって辛いと思うし……」
「それって……どういう……」
でも、そんな疑問もルインさんの言葉に全て打ち消されてしまう。
宿屋でも聞いた時もそうだったけど、そんな言い方だと俺に使える武器があるみたいに――。
「前にも言ったけど、アーク君は無職なんかじゃない。選定の剣が反応した以上、君は何かしらの職業を持っているはずなんだ」
「でも、俺には適性がないって……神官団の前で何回も確認したんですよ!?」
そもそも俺に職業があれば、こんな事にはなってない。それは誰より俺が分かってる。
剣、槍、弓、手甲、杖――目につく限りの中で職業に該当しそうな武器を全て試してみても駄目だったんだから――。
いくら恩人とはいえ、会って少ししか経っていない人の言葉を信じられる程、俺は暢気な頭をしていない。
「アーク君、私の武器……何だと思う?」
戸惑う俺の前でルインさんは、あの武器を呼び出した。剣の様であり槍の様でもある長物へ解答を返すことが出来ない。
「分からなくて当然だよ。これはね――“青龍偃月刀”って言うんだって。私も始めは分からなかったし……」
「――っ!」
見るからに重そうな刃長槍――“青龍偃月刀”を肩に担ぐルインさんは、どこか寂しそうに笑う。その姿には凛々しさを感じる反面、どこか儚気でもあった。
――私と同じ……。
俺は、ルインさんの過去が少し分かったような気がした。
「……アー坊……この偃月刀に対応する職業は何だと思う?」
「えっと、槍術師系のだと思ってたんですけど……違いますか?」
俺達の雰囲気が重たくなったのを見計らってか、セルケさんは明るい様子で声をかけてきてくれた。
「残念、ハズレさね。……偃月刀は剣士にも、槍術師にも使えない。他の職業でもね」
「言っている意味が分からないんですけど……」
ルインさんの強さは、素人の俺にも分かるくらい凄かった。それに魔法だって使っていたのに……。
「ルインの職業は、“武帝”。アタシがそう名付けた。それに、さっきルインが言った通り、選定の剣が反応したのならアンタは無職じゃない」
セルケさんは、そう言って俺の肩に手を置いた。
「冒険者がダンジョンで拾って来た武器の中には、時々誰にも使えないモンが紛れ込んでる事がある。後は大陸の外から来る人間が持ち込んだヤツとかもね。そう言ったモンは持ってても邪魔だから、アタシらみたいな業者にガラクタ同然で流れて来るもんさ。じゃあ、何で使えないのか……拾った冒険者たちに、その武器への適性がないからだ。おかしな話だと思わないかい?」
初めて聞く事ばかりだったけど、二人の言おうとしていることが少しずつ分かってきた気がする。
そんなに珍しい武器なら値が付くはずだし、例えそのパーティーに適性のある人間が居なくても、誰かしらが買って使ったりして市場に流通するはずだ。なのにそんな話は聞いたことがない。
なら――。
「俺みたいな無職は使える武器がないんじゃなくて、この大陸で一般的な武器に適性がないだけ……ってことですか?」
「そう……つまり、自分に合う武器さえ見つければ私みたいに普通の冒険者としてやっていけるって事。自分だけの特異職業でね!」
優しい微笑を浮かべるルインさんの言葉は、俺の心の内を照らしてくれた。
見た事の無い武器が詰め込まれている武器庫。
自分だけの特異職業。
全てが終わった天啓の儀。
あの日から凍り付いてしまった俺の時間が、ようやく動き始めたような気がした。
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