第10話 憤怒の狂化
「さあ、次で最後だよー!」
「あはは……元気ですね」
つい一時間ほど前、俺を胸で圧殺しかけた天然お姉さんは、端から見てもご機嫌だった。
「“処刑鎌”を使うのは初めてだから、ちょっとぎこちない所はあったけど、それでも凄かったよ! ホントなら最初の一匹以外は、私が相手をするつもりだったんだけど、ここまで全部一人で倒しちゃうなんてね」
あの三十体を倒しきった後、ダンジョンの奥であるこの位置に来るまでの間モンスターの相手は、全部俺が務めていた。試運転にしては数が多すぎると思ってたけど、いつの間にか修行になってたわけか。
「予想以上の成果だったから、嬉しくなっちゃってね」
まあ、失望されるよりは全然いいし、こんな綺麗な笑顔を向けてくれるなら闘いっぱなしだった疲れも吹き飛ぶってもんだ。
「そろそろ出て来るよ。このダンジョンで一番強いモンスターがね」
「っ! はい!」
そうこうしている間にダンジョンの最奥の空洞――この洞窟の主が居る区画に辿り着いた。遠目からでも威圧感が伝わって来る。
強面に頭部に生えた二本の角。緑の皮膚をした筋骨隆々な身体。肩に担がれた巨大な斧。
「来たよ! アレがオーガ。Eランク最強クラスのモンスター!」
目の前に佇む憤怒の鬼はけたたましい雄叫びを上げ、巨体を揺らしながら迫って来る。顔がゴツイ事もあってかなりの迫力だ。
「殴られるのはいいけど、斧の一撃には気を付けてね。顔は勿論、腕や脚も斬り飛ばされたりすると治せないから」
「了解です」
入り口付近で立ち止まるルインさんを尻目に、俺はオーガに向けて駆け出していく。
「さて、行くぞ――ッ!!」
俺は“処刑鎌”の刀身を起こして戦闘形態に移行させると、突進してくるオーガをギリギリまで引き付けて、既の所で左に飛ぶ。
「ついて来い。デカブツ!」
中途半端に方向転換しようとして見事にずっこけたオーガは、悪態をついた俺におちょくられているとでも思ったのか、雄叫びを上げながら俺を追いかけて来る。
「さてと、俺一人であの筋肉ダルマをどう仕留めるか……」
凄まじい形相で向かって来るオーガを見ながら、暴れ回るアレへの対処法を頭の中で模索し始めた。
まず大前提として、この戦闘にルインさんは参加しない。心配してくれたルインさんを押し切る形で、俺がそう願い出たからだ。
「――ッ!」
斧が豪快に振るわれる。
「見てくれ通りの腕力だけど……」
迫力は凄いが、滅茶苦茶に振り回される斧を回避する事はそんなに難しくはない。
「それに魔法を使った特殊攻撃もない」
モンスターの中には、ブレスだったり魔法攻撃を放ってきたりする種族も居るみたいだが、Eランク帯には出現しないと聞いている。とりわけオーガは、腕力で押してくる典型的な種族だとも――。
「そんな大振り……俺でも見切れるッ!!」
真横に薙がれた斧を体勢低くして回避し、その腕目掛けて処刑鎌を振り抜いた。
「このまま、斬り裂くッ!!」
斧ごと腕を吹き飛ばされて悶絶するオーガ相手に返しの刃を奔らせ、一気に両足を叩き斬る。これで行動不能。
右腕、両足の欠損――魔法を使えないオーガに再生などの手段はなく、反撃されることもない。
決めにかかるべく処刑鎌を振り上げ、首元に狙いを定めるが――。
「■■――■■■■――!!!!」
突如としてオーガの絶叫が轟いた。
「な――ッ!?」
左腕以外を喪失し、地面でのたうち回っていたはずのオーガの豹変に何かがおかしいと思わず距離を取る。
「これは……何……!?」
遠くでルインさんの驚愕の声が聞こえて来たが、俺には反応する余裕はなかった。
「腕と足が再生した!? それに……体が一回り大きく……!」
斬り飛ばしたはずの腕や足が再生し、身体を一回り肥大化させたオーガが目の前で立ち上がったのだから――。
「■■■――■■■■■――!!!!!!」
目の前のオーガは血走った眼で絶叫し、筋肉が膨れ上がった拳を振り上げた。さっきまでとは明らかに異なる凄まじい威圧感。どこか悲鳴染みた絶叫。
浅黒くなった肌色も含めて、それは別の生物の様であった。
パーティーメンバー
アーク・グラディウス
職業:処刑者
武器:虚無裂ク断罪ノ刃(処刑鎌)
防具:黒ノ鎧
ルイン・アストリアス
職業:武帝
武器:逆巻ク終焉ノ大刀(青龍偃月刀)
防具:金剛の武鎧
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