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幸せ求人広告  作者: 河東鶚
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幸せ求人広告・上

耐えきれない夕暮れがあります。

沈みゆく日を見て、その日何をしたのか思い出せない日があります。

透き通るような空に絶望するときがあります。

何かを思うことが許せない昼があります。

言葉を失って震える夜があります。

開ける空に終わりを願うことがあります。

何かをしなければならないのに、何をしたいのかわからないまま朝が来ます。

何かを成し遂げた後で、そこに意味を見出せない時があります。

何かをしたと、どうしようもなく泣き叫ぶ自分がいます。

自分はここにしかいられないと、どこにいるのかも答えられないのに口にする夜があります。

何もかもなくなってしまえばいいのに、そう思いながら月を見上げます。

まどろみながら飲むコーヒーが何よりの助けになります。

息が詰まるような夕暮れを、ただ詩を頼みにしてわたっていきます。

自分のあさましさに押しつぶされそうです。

ぼくはだあれと声がします。

想いとは裏腹に道を踏みしめる足があります。

自分の健康を恨むときがあります。

何かが損なわれることに酔う自分がいます。

誰かを傷つけることでしか自分を愛せない夢を見ます。

誰かにただ居てほしいのです。いつか自分の隣に。

自分がいてもいい場所を探しています。

誰かにここにいてもいいと言ってほしいのです。

君は君にしかできないことがあると、伝えてほしいのです。それを決して信じられないでしょうが。

物語の中にいきたいのです。涼やかに流れるように、幕が落ちるその瞬間まで。

終わってほしいと願います。でも終わらせる勇気はありません。

何かをしたいと望んでも、それを一番信じていないのは私です。

冷たい水に指を浸す瞬間が好きです。刺すような痛みが、確かに私がそこにいると私の代わりに叫んでくれます。

雪の降る街が好きです。誰かの足跡を踏むのが好きです。

よく晴れた日は海を見に行きます。何をしたいのかは知りません。一日中海にいます。

郵便受けを覗き込むのが好きです。そこに何も入っていないと分かることが好きです。

空っぽでいたいのです。

細く流れる水が好きです。紡ぎたての糸のようなせせらぎが好きです。まっさらな雪解け水は何よりも心を洗います。

すべて洗い流して真っ白にしてほしいと思います。

顔をつけて息を止める瞬間神に願います。しかし苦しさに顔を上げてしまう時がひたひたと迫ってくるのです。

指先を針でつくのが好きです。澄み切った赤い血が好きです。それが丸く盛り上がって、いつか雨だれの様に流れるのが好きです。

針の先に残った痕跡を日に翳すのが好きです。

万年筆のインクが好きです、ペンを握るのが好きです。何かを書くのが好きです。でも文章は出てこないのです。

手になじむ文庫本を探しています。古紙で折ったカバーが捨てられません。

いつか読んだ詩を探しています。そんな詩があったことしか覚えていないのです。

古書のざらざらとした紙が好きです。そのあまいページですっと首を切ることにおびえています。

人の顔が嫌いです。道をあるく人を許せないと思う日があります。何かに耐えきれなくなって逃げ回る日があります。

ただ眠っていたいと願っています。

何かきれいなものだけを見ていたいのです。そして溶けるように消えていきたいのです。

絶望しているのではありません。悲しいのでもありません。不安なんてあるはずもありません。

ただ願っているのです。祈っているのです。そうあってほしいと思わざるにはいられないのです。

冷たい湯船で震えているのが好きです。

雪の降る街をはだしで歩くのが好きです。

ちくたくという時計の音に耳を澄ませるのが好きです。

ただそこにあることだけを願っています。他には何もいりません。

幸せを知りませんか。マッチを擦れば見つかりますか。どこにあるか知りませんか。

救いを求めているわけではありません。ただ幸せでありたいと思うのです。

私は私です。そう言える日とそういえない日があります。

涙を流しながら、何を叫びたいのかわからない夜があります。

自分が今まで何をしてきたのか、わからない時があります。何もしていないと笑みを浮かべられる日もあります。

幸せを知りませんか。ぼくは幸せになりたいんです。

助けてほしいんじゃありません。すくってほしいんじゃありません。

痛いのは好きです。

幸せでありたいんです。

幸せを知りませんか。

見つけたらどうか教えてください。

そんな日が来ることを願っています。


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