心頭滅却すれば腰痛もまた立ち眩み
俺、哀昏 明は誰にも負けない覚悟を持ってると自負している。昔は誰にも負けない闘志を持っていたが、俺も年を取ったということだろうか。闘志を燃やす気にならなくなってしまっている。
家のリビングでうつ伏せになりながら内職を進め、意識をギリギリ仕事ができるぐらいまで保たせ、パソコンのキーボードを無新でたたく。目はもちろん死んでいる。
そんなことをしていると後ろから「そろそろ休んだらどう?」という天野 雪の声が聞こえてきた。ああ・・・もう哀昏 雪か。最近意識がもうろうとしているせいか、わけがわからなくなってきている。
取りあえず雪に「後でゆっくり休む。休む暇があったら・・・。」と答え、無心でキーボード入力する。
「そんなんじゃ、」
俺の左腰をグイっと上げて、俺を仰向けにして
「君じゃなくなってしまう。」
そんなこと言われながら腹の上に乗っかられた。
雪の目は真剣な目。俺を叱るときの目だ。俺はいつだって世話になりっぱなしだ。
しかし、仕事をしなければ大学通えないし生活だってできない。とりあえず説得をしなければ
「雪、気持ちはうれしいがこればっかりはやらねばならぬのだ。雪がバイトしているのと同じ感覚だ。」
「でも!」
雪は俺の両肩をつかんでグイッと顔を近づけながら言った。
「8時間はやりすぎだと思うの。」
・・・8時間!?
時計を見てみると確かに8時間経過していた。仕事は結構進み・・・というか、1週間分は終わらせていた。やはや、集中というのは怖いものだと実感できる。
「すまなかった。こんなに自分が集中しているとは思わなかったもんで。あとお腹すいてたよな。今用意を・・・。」
そんなことを言って急に立ち上がろうとしたのが間違いだった。腰からメシメシ・・・グキ!という音がし、音と共に俺は後ろに倒れていく。あいたたた・・・体制を考えねばならないな。次から気をつけねば。
「哀昏君!?」
メキ!
倒れていくときに、雪が支えてくれた。俺はかなりの汗が出た。いや、支えてくれたことについてはとてもありがたい。しかし・・・そこで腰を支えるのはちょっと選択ミスな気が・・・。
「よかった。哀昏・・・明君、怪我してない?」
たった今しましたとは、口が裂けても言えない。
俺は「ありがとう。大丈夫みたい。助かったよ。」と言って悪化を覚悟しめっちゃ元気にふるまった。汗が止まらない。こればっかりは隠しようがないが、俺の覚悟は相当なものなので、痛みを隠すぐらいは造作もない。腰が反り返ったことに関しては、後で湿布でも貼るさ。
「哀昏君、嘘つかないで。痛いんでしょ。」
あれま、ばれちゃったか。
「あんなにパソコンやってたら血行も悪くなって立ち眩みも起こるよ。今度から休憩をはさむように!」
違う。そうじゃないんだ。いやまあ休憩するということに関しては間違いではないのだが痛みの原因がちょっとお門違いと言いますか・・・いや、何も考えないことにしよう。
腰痛を覚悟によってなかったこととし、俺と雪は近くのファミリーレストランに向かった。