君の言葉
疲れているのだろうか。諦めたいのだろうか。もうすべてがどうでもいいという気持ち。答えが見つからないこの気持ちは、己の甘え。だけど、そんなときに支えてくれる人がいるからこそ、今日も立ち上がれる気がする。
人生ってのは未知数。先がわからないからこそ先を考え、自分が何者かわからないから人生を歩む。最終的に答えが出るかどうかはわからないけど、人たるもの生きるか死ぬかの二つしかない。すべてをひっくるめて宣言しようじゃないか。
「人生ってよくわからん。」
大学からの下校中にそんなことをボソッと言ったもんだから、一緒に帰っている天野 雪がびっくりしてしまった。何も考えないで発した言葉で混乱させてしまったならば申し訳ないな。
俺は言い訳をすべく「あ、いや、最近俺は将来どうしたらいいんだろうかということを考えていて。将来のことなんて全く考えられないというかさ。」と苦し紛れに言ってみたり。焦りながら言ったもんだから天野は笑ってしまった。
天野はクスクス笑って「君は、いつまでたっても君のまま。いつ成長するんだろうね。」と言ってそれの肩をポンポンとたたいた。罵られているのだろうか。馬鹿にされているのだろうか。かわいがられているのだろうか。どれにせよ俺は愉快ではない。これだけは断言できる。
「でも、哀昏君、君はずっと変わらないでいてほしいな。」
天野の言葉によって俺の不快な気持ちは吹き飛んだ。ハハハ・・・変わらないでほしいか。でもそうだな。それは願わなくても大丈夫な問題だな。
変わらないでなく、変われない。
しかし、誰かが俺が変わらないことをいいことと思ってくれているならば、俺は笑顔でずっとこの姿でいようと思った次第であった。
天野の言葉に俺は少し照れてしまったので「天野は変わりたいと思っていたりするのか?」と質問してみた。
天野は真剣な目で俺を見て「哀昏君が変わらない限り、変わらないよ。」と答えてくれた。とてもうれしくなったが、それと同時に恥ずかしくなってきた。俺はいつまでたっても、優しくされてばかりな気がする。
「あと、」
天野が俺の顔を両手の手のひらで挟んで言ってきた。
「もう天野じゃなくて、哀昏だから・・・ね。」
・・・そうか
その理論だと・・・
「じゃあなんで俺のことを「哀昏くん」と呼んだ?」
場が一瞬にして凍り付いてしまった。俺はどうやら言葉の選択をミスってしまったようだ。
「・・・」
どちらもしゃべれなくなってしまったこの空気。打開策を必死で考えるが俺のIQではどうやら思いつかないみたいだ。
「そんなの、」
天野が切り出した。
「急には難しいに決まってるじゃん。明・・・くん。」
難しいという言葉に少しだけ引っ掛かりつつも、俺は笑顔で返事をした。
「そうだな。雪。」
この時決して言葉には出さなかったが、届を出してから24時間以上は経過しているので、この時点でお互いの名前を呼ぶのを躊躇しているのはとてもまずいことだと考えながら家にかえった。
慰めではない。応援である。まだ、折れていない。まだ立ち上がれるのだから、力を振り絞って努力をするべきである。諦めが肝心ということをあきらめないでやったとき、無駄以外の何かが生じる。どんなことだって背中を押してくれる者の存在を見失ってはいけない。たとえその存在が、自分だったとしても、自分でなかったとしても。