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パッと浮かんだのは、二人の顔。ひとえに断定できないが、一人とは言わなかった。複数いると思っていいのか。
「心当たりはありそうですね。見当はつきますが。わたくしも異論はございません」
「確信したわけじゃないが、なにより安心してるんだ。例外があったんだ、って。不安だった部分が大きかったからな」
「現段階では、不確定要素が多量に含まれていることを念頭に置いていてください。十一個目につきましては、わたくしが調査致しますので」
「助かる。頼りにしてる」
「身にあまるお言葉です。わたくしはただ晰さまにできる最高のサポートを果たそうと躍起になっているだけのことです」
とてもそうは見えなかった。不気味に微笑みかけてくるセカヒに、猜疑心は拭い切れない。だからと、疑心暗鬼になっても仕方がないのもまたジレンマであった。
「本日は、これからどちらに向かわれる予定ですか?」
「ん? とりあえず、食料調達にショッピングモールにでも行こうと思う。時間潰しもできるしさ」
「承知しました。では、今夜はお肉料理などいかがでしょうか」
セカヒがリクエストしてくるとは珍しい。槍が降る前兆か? と、冗談はさておいて、セカヒとシロムクはそもそも食事を摂らない。人間じゃないから。
人間を模倣して外では食べるフリをしたりしているが、関連性こそシロムクはおれが食べたいものをリクエストで作ってもらっていて触れる機会がある。しかし、セカヒにとっての食事とは無縁の類だ。
そのセカヒが突拍子なく、リクエストをしてきた。裏があるんじゃないか、と勘繰っても許してほしいぐらいだ。
「うーん、まあべつにいいけど。シロムクお願いできるか?」
「問題ありません。材料さえあれば、シロムクにおまかせを」
噤んでいた口を解いて、言葉のみで返事をする。まだご機嫌が斜めに見えなくもない。姉ちゃんに対し、謝罪の要求はしないと思うが、あとでフォローでもしておこう。
あたりが暗くなり、歳の違わない学生らが帰路に就くのを横目におれたちは駅近くのショッピングモールに立ち寄った。
一階に食品売り場やフードコートがあり、様々な専門店なども並んでいる。二階に上がれば、アパレルショップが大量展開されているのを筆頭に、ワンフロアに仕切りなしで歩けてしまうアミューズメント施設と雑貨、書店、玩具コーナーもろもろ。
利用者の過半数が女性なので、経済的需要にも衣料品に割り振るのは正解であろう。
「どのくらい滞在なさいますか?」
セカヒが聞いてくる。
ボタンの影響を受けそうな層はちらほら見かけるが、いつも通りの客足具合。なにかあっても用意してある対処法で済ませられるだろう。
目的の食品売り場を最後に回し、アミューズメント施設を暇潰しに選ぶ。
「電車の時間を考えると二時間ちょいかな。家出たの八時だったと思うし」
今日おれが家に帰れるのは、夜の八時以降だ。それ以前に帰れないこともないが、後々面倒になる。
一日十二時間の外出拘束――。
十一の情報項目にも載っていないボタンによる制限。おれはこれを初日以外(夕方に受け取ったから免除された?)、ずっとこなしてきている。
はじめて知った二日目は、家の中で突然超音波が鳴り響いて囲いの外に放り出された。敷地内もアウト判定らしく、日が変わるのを両親とセカヒ、シロムクとひたすら待った。
自家用車もダメらしく(密閉空間だからだろう)、翌日から家を出るのを早くした。あと特筆すべき点といえば、常にボタンを露出しておかなければならないことくらいだ(押せなくする作為と見なされるらしい)。
おかげさまで心身ともに丈夫で、雨風くらいじゃ体調を崩されることはなくなった。
「ほら、晰さま。お見えになられましたよ」
セカヒがエスカレーターで二階に到着するなり、浮き立っているように先を行く。まるでテーマパークにやってきた子どもとでも喩えておきたい。
アミューズメント施設なんて響きは、テーマパークで言うところのメリーゴーラウンドの立ち位置だ。遊び前からキラキラが広がって、心が躍る豪華な定番であるのだが……。
案内図を確認しないと存在さえ認識してもらえない。こじんまりとあるだけある、影が薄い同級生くらいの存在感。
お客さんは少ないし、店員一人で回してるワンオペの労働環境だし。土日祝日は二人いるが、節電で呼びに行かないと遊べない機械があるほどだ。これが娯楽の多様化ってやつだろうか。
「先週も暇潰しに来ただろ。そこまで代わり映えもしないのに、楽しそうだな」
「楽しいですよ、すっごく」
シンプルな言葉で括る。
セカヒにしては簡潔で肩透かしを食らった気分だ。期待していたわけじゃないが。
「晰さま、ちょっといいですか」
「うん? シロムクどうした?」
「あちらに琲色さんが」
「委員長が? 本当だ」
遠目に通路沿いに並ぶクレーンゲームと睨めっこをする、お下げの少女。学校服を着てなければ、小が……高校生には見えない。
「なにやら景品が取れないみたいで苦戦していますね。琲色さんの今日のパンツと同じくファンシーなぬいぐるみのようです」
よく見えるな。おれは遠すぎて委員長とわかるまでに時間がかかったわ。神のチカラか。
……って。
「委員長のスカートめくったのセカヒか! はあ……認識阻害を無闇に使うな、とあれほど」
「問題ありませんよ。ちなみにわたくしのパンツは白です」
うん、知ってる。自分で見せてきたじゃん。と、注意はまた家に帰ってからにして、委員長のそばに寄って声をかけた。無視や素通りするのも気が引けたのだ。
「委員長、これ欲しいの?」
「あ、晰くん! 奇遇……だね。こ、これ? い、いいよ、べつに。取れないからそろそろ諦めようと思ってたところで……」
顔だけ向けて言葉を交わすが、筐体の中のぬいぐるみが気になってしょうがないらしく、目線が忙しない。
男気を発揮するってわけじゃないが、惚れられている女の子が欲しいものくらいプレゼントしたくなるのが性ってものだ。
「委員長代わってくれ。取ってやるから」
「晰くん……あ、ありがとう。で、でもっ! 無理しないでね」
反応がいちいち可愛い。あたふたして、なにもしないのに怯えているように身体を縮ませて、小動物チックだ、とかぶりっ子だ、とかなんとなくわかりもした。
だからなんだ、って話だが。実際問題、野々河琲色は可愛い女の子だ。臆病で、内気で、なのにまじめってだけで委員長は毎年押しつけられているだけで。
それでもサボらず、一生懸命やっている。たしかに、おれの好みのおっぱいは小さいが、そこを差し引いたって委員長は可愛いだろ!
取ってやるさ。是が非でも委員長のために、ぜってぇ取ってやらぁ! そう意気込んで百円玉を投入した。
今回で1話終了の予定だったのですが、予想より文量が多くなりましたので分けることにしました。
後日、2日以内に残りの部分(1話終わり)を更新します。
長らくお待たせさせておきながら、分割であることをお詫びします。
引き続き「地球破壊バクダンちゃんとは青春しない」をよろしくお願いします。
友城にい