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地球破壊バクダンちゃんとは青春しない  作者: 友城にい
第一話 この日を「最後の晩餐」って言うのやめてくれ
6/38

1-5

「シロムク、サンキューな」

「いえ、どういたしまして」


 クールに、冷静沈着に。シロムクは必要以上にお喋りはしない。喋りは姉にまかせているからだ。自己主張もおっぱいとは相反し、目立とうとせずいつもセカヒの一歩引いて、慎ましくしている。


 別段バカってわけでもない。成績は中学に通いだしてからずっと学年十位以内だし、要領の良さなら随一だ。


 だが前述したようにシロムクは冗談を言わない。同時に感情的な論理ロジックも述べない。臨機応変を体現し、無駄を削ぎ落としている印象を持っていた。


 それこそ、さっきのような必要かどうか疑わしい場面に答えの先延ばしを提案するなど、おれの記憶で知らないシロムクだった。


 じゃあどこで感嘆したのだろう。言葉の貴重さに? 理に適っていたから? ……違うか。シンプルにシロムクからのアドバイスが嬉しかっただけなんだろうな、きっと――。


「近年は告白なしのなあなあで恋人関係に発展するカップルもいます。晰さまの所持日数の十年も明日で四週間前となり、まだまだ予断を許さない状況にあるのを忘れずに」


「相変わらずセカヒは大袈裟だな。大丈夫だって。ここまでなんだかんだ乗り越えれてるし、なにかあれば助けてくれるんだろ」


「仰ってる意味がよくわかりませんが、仮に『慢心』とやらを抱いているのであれば、捨てていただきたい所存です。わたくしどもも神の使いに懸けて、尽力は致しますが何故制限の多い身分。どこまで許されるか」


 セカヒとシロムクにも護衛に当たっての『禁断』が存在する。


 人間に危害を加えない。人間に恋愛感情を抱かない。金銭を授受しない。神なるチカラを人間に使用しない。そして、おれ以外に正体を明かさない。の五つだ。


 禁断を犯した罰までは教えてくれなかったけど。


「それから小一時間ほど前に情報開示の通達がありました。最終年ということもあり、通達も早かったようです」

「お。いよいよラストの情報になるってわけか」


 毎年、ボタンを所持した日に新たな情報もとい制限の内容が解禁される。


「ええ。これに伴い、晰さまの慢心を改めてもらう意味を含め、復唱でも行いましょうか。それでは晰さま、一から順にお願いします」

「手厳しいな。一はボタンが爆弾ってことと報酬を得る秘密の厳守。これはボタンの所持者になった直後に言われたからな」


 まずおれが露出度の高い女の人を二人連れ帰ってきたところで怪しさ全開ではあるのだが、両親含め、羽花も当然知らない。両親には、『超高性能のお世話ロボット』と説明しているが、現在進行形で信じていないと思われる。


「二は交際と意図的な性的接触の禁止。意図的の判断基準はいまだに悩ましいが、自ら触りに行ったりしなければいいと解釈してる」


 どうして恋愛でなく交際禁止と使うかの理由は少し前にセカヒが説明してくれた。恋愛のニュアンスには、『恋心』を抱く抱かれる心情や、セカヒが先ほど言及したなあなあでの恋人関係への発展の示唆さえも禁止になるからでは、と言っていた。


 厳密なアウトは告白の肯定と自分からの告白。


 一番気になるのが、これを小三に開示したことだったが。


「あら、晰さまは明確な判断基準をご存知なかったのですね。差し支えなければ、わたくしめが説明致しますわ。よろしくて?」


「後ろめたい気持ちぐらい低く来るな。そうまでへりくだるんなら、逆にさぞかし自信のある表れなんだろうな」


「もちろんでございます。わたくしはここで護衛の手立てを講じる身。ましてや性的な類の分析など怠るどころか精を――性を出して、徹底的に線引きを探し当てましたので」


 ずいぶん活き活きした言いようだ。学校での態度とまるで違う。


 セカヒはおれ以外の前で絶対下ネタは吐かないし、他人行儀で口数も少なく、教室に咲く一輪の白百合のようにお淑やかにしている。


 どちらが本性かは知らんが、おれからすれば猫を被っているわけだ。


「まずは性的接触の定義における大前提に、『異性同性は問わない』とあるのですが、時に晰さまは同性のお●●ちんに興奮しませんよね?」


「なんの躊躇もなく、急に俗語を口にするな。しない、しないから。してたまるか!」


「どう転がってもホモではないんですね?」


 包容力抜群の大きいおっぱいが好きなのに? 筋肉パイは憧れるが、揉みたくはない。一言物申すと同性愛はなるもんじゃなくて、当人からすれば当たり前の感情だろうよ。


「では確認を取った事実を踏まえて、続いて参りましょう。お次は具体例を用いて、話を進めます」

「具体例?」

「まずはこれです」

「なっ!? セカヒいきなりなにして!?」


 思わず見開いた瞳孔。


 紺スカートの前方だけを小さじを摘まむようにたくし上げて、はしたない姿を晒す。


 ほかの通行人がいないのを見計らって具体例を演じたのはいいとして、澄ました顔で続けるのはやめてくれ。すぐさま視線を外したおれのほうが恥ずかしくなる。


「これは視覚的欲求に値します。当然、性的接触に該当する行為に含まれるひとつです」

「言われんでもわかってるから、いつまでもパンツ見せんな! スカート戻せ!」


「失礼しました。しかし、禁止行為にもかかわらず晰さまに不利益が生じることは起こりませんでした。なぜだか、おわかりですか?」

「セカヒ――つまり相手が勝手に見せてきたからとかか?」

「惜しいですが、もっと詳しく説明致しましょうか」


 次なる具体例はなんだろうか、そんな予想をしながらセカヒは一歩下がってシロムクの背後に移動する。


 十年ともにしているとはいえ、下着を見せた男相手になんとも淡白な調子だ。


 セカヒはシロムクに比べ、喜怒哀楽は表現してくれる。しかし、おれが護衛対象だからか、はたまた恋愛感情の禁断が災いしてか、除草剤をかけられた花の蕾のごとく枯れはしないが、一向に咲かせる気配がない。


「シロムク、ちょっと晰さまを見なさい」

「晰さまをですか? かしこまりました」


 シロムクが首を傾げた直後、おれの顔に目がけて倒れてきた。いや、倒れたのではなく、セカヒが押し倒したのだ。


「たとえばこのようにわたくしがシロムクを押して、晰さまに抱きつくよう手助けを行ったとしても、これは『晰さまの意思ではない』と判断されるわけです」


「…………」

「晰さま?」


 生唾を飲みこんだ。柔らかい。形容しがたい柔らかい感触が、決して厚くもない胸板にダイレクトに当たる。


 柔らかい。語彙力を失ったサルみたいにそれ以外、感想が浮かばなくなった。鮮明に蘇るぽっちの感触が徐々に制服越しに時間をかけて、意識させる。ノーブラ……ノーブラかよ!


「晰さまの心音がうるさいぐらい伝わります。ドキドキなさってますか?」

「しょうがねぇだろうが。女の子と密着したことなんてねぇんだから……」


 どう言葉を取り繕っても動揺が隠せない。それなのに姉妹で揃いも揃って、顔色ひとつ変えずに無感情な眼差しを向けてきやがる。


 離れても、運動のあとのように心拍数が戻らない。


 おれだけ意識し、背を向ける。抱きしめたいと肌で思った。恋愛感情じゃなく、長年蓄積された青い春のヤラシイ感情だ。

 我慢したおれを誰でもいいから褒めてほしくもなった。


 なのに、こちらには目もくれず、おれとシロムクのハプニングをプロセスの一環にして、セカヒは力説していた。


「意図しない視覚的欲求や肌の密接は除外対象に該当している。つまり、不可抗力、別称で〝ラッキースケベ〟は許容されていると推定できるのです」


 制限の内容の五番目に『一~四の項目を破った場合、最高で所持者の権利を剥奪し時間のリセットとなる』とある(三は学業の怠慢。四は犯罪行為の抵触)。

 たしかに罰等が起きない。セーフ判定が下りたとわかる。


「しかし、これはあくまで一時的な不可抗力に対する目を瞑った免罪符になります。接吻は調査中ですが、ハグは主観で二十秒が限度でした」


 どこの参考だろう、とか考えていたがセカヒの行動に思い当たる節はあった。あれはハグじゃない。


「無論、長期的な行為になれば超音波が流れるなどの対応が働くはずです。ですが、晰さまの意思を無視し、身体の自由を奪って長期的な行為に無理強いで発展させられる可能性をわたくしは考慮しております」


 一%にも満たない可能性にも目を通し、視野に入れている。やはり大袈裟に感じるのはおれだけだろうか。

 そして、目線を意味ありげにシロムクに移すセカヒ。


「なにかおわかりですね、シロムク」

「シロムクがお答えするのですか?」


 突然の投げかけに驚いたようにうわずった声が出る。おれは背筋に変な興奮が迸った。シロムクの感情が露わになる瞬間だ。


 何事にも動じないシロムクがわかりやすく頬を赤らめた。姉ちゃんのどんな要求にもノーを示さないシロムクが、これに関してはノーこそしないものの、嫌々な仕草をするのだ。


 Sの気はおれにはない、と思っているがこの瞬間ばかりは認めるほかならない。耳を研ぎ澄まして、蚊の鳴くような声で答えるシロムクの言葉を待った。


「せ、せいこうい……などです」

「そこはセックスと言いなさい」


「恥ずかしげもなくよくも公で堂々と……」

「恥ずかし毛なら生えてますよ? わたくしの身体は第二次性徴くらいなので」


 自慢げに誇られても反応に困る。


 シロムクは発言したのち、口を噤んでしまった。シロムクは極度に性的なネタを拒んでいる。悪いことをした。ちゃんと止めるべきだった。


「いらない情報サンキューな。えっと、結局最初に確認してきたのはなんだったんだよ」


「簡単な解釈です。要は晰さまの性的対象が完全なる異性であると事実確認が取れたため、許容される範囲に差別が生まれているのです」


「なるほど。抱擁や肌に触れるなどの時間制限も異性ならアウトでも、同性なら大きく気にする必要はない。もっと言えば、意識するかしないかってことでOKか?」


「意識しないんですか? 男に」


「まったくしない」


 説明を終え、復唱を再開した。


 六はボタンを押したくなる衝動は所持者の年齢の前後五歳に影響する。七は禁断を犯した罪は所持者の無効ともなる。八はボタンの自主譲渡はできない、ボタンは壊れない。


 九は所持者の死亡は権利の移動が発生する。そして十、報酬は日本円で行われ、また時間も日本時間を準ずる。


「よくできました。では、十一個目を発表しましょうか」


 通達は手紙とかではなく、セカヒの脳内に直接届くようになっている。ここらへんも、よくわからんから深くツッコまない。


「二以外適当に流しやがって。早く頼むわ」


「十一個目。ラストは、『六の影響を受けない人間が実存する』です」

説明回ですが、きちんと説明になっていない気がかなりします。

まだこれ以外のボタンの設定が少しありますのでそれはまた次回に。

次回こそ間隔を短く。鋭意執筆中です。


友城にい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボタンの謎がようやく明らかになってきた事とセカヒ・シロムクの感情の表現と表情が見えた事ですね。 [気になる点] 1-5でボタン所持から10年までのリミットの表現が29日になっていたけれど、…
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