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続け様に依然、腕を組んでいた委員長に、「ご所望のお客さまのみのご案内となります」とやんわりおれの立ち入りは断られた。
理由を問いただしても、苦虫を噛み潰されるだけで。店の判断を甘んじて呑み、どうしていいか迷っている委員長を店員さんにまかせた。
「じゃ、じゃあ……一回いってきます……」
不安感をまとった表情を浮かべる委員長がカーテンの仕切りに消える。
そして絶えず、多くはいないお客さんの異物に向けられる視線と訝しみ。逃げたい……。
「時間空いたね。私もおニュー買いたいなー。そうだ、あーくん選んでよ」
「なんでだよ。いやだよ。委員長の選ぶのも、恥ずいのに」
「いいからいいから」
しかし逃げるわけにいかず、言われるがまま羽花のサイズのあるコーナーに連行される。なるべく羽花だけ見ていよう。
「うわぁー、たくさんあるー。ほらほら、あーくん、私のランジェリー選んじぇりー。なんつって!」
いったいどこにテンション爆上げ要素が。ダジャレは通常通りだけど。
「だってだってー、私って胸大きいじゃん? なかなか売ってなくって。そんじゃまあ、あーくんの好きにしていいよ? うふん」
「とてつもない誤解を招くからよせ。うふんってなんだよ、うふんって。色仕掛け下手か」
加えて、自分で言うな、とツッコミを入れたところで再び温度を意識してしまった。
このまま至福スポットに腕を挟んでいては、おれが持たない。
生唾が喉を鳴らす。まったく、このバカはおれの気も知らないで。と、目がチカチカする下着らを一望し、たしかに羽花ぐらい立派なおっぱいだと可愛いのは少ないと言われていたが、そうでもない感じだ。
時代のニーズってやつか。可愛らしくデザインされたのも充実している。せっかく羽花直々に選んで、言われた機会。適当に選ぶには忍びない。
最低限、最小限の羽花に似つかわしくない下着を、と目についたのを取った。
「これなんていいと思うぞ。ダメか? 細かいサイズとかは知らんし、そこは自分で」
「あーくんのエッチ! たらしヘタレ主人公のくせにー!」
突拍子のないディス(?)りが飛んできた。謎すぎるがあまり、呆気に取られているとおれの選んだ下着を奪い取り、元の場所にかけられてしまった。
センスが足りなかったようだ。
羽花は背伸びしているイメージが強いから、薄い青色で〝年相応〟を演出し、リボンやフリルがふんだんに施されたブラが〝可愛い〟を意識しつつ、レース柄で〝ぽさ〟を調和できるんじゃないか、とか思ったが配慮も足りなかったらしい。
それの証拠に羽花は腕組みを解いて、おれの前を歩いた。
「そういえば。琲色ちゃんって男性恐怖症なんだよね? どうして、あーくんにはどうもないの?」
「藪から棒だな。んー、前に信頼してるとは言われた」
「それって、あーくんと琲色ちゃんが彼氏彼女ってこと?」
「極論だな。いや、付き合ってないが。付き合ってたら、羽花に怒るだろうし、おれも怒られる。なんだ、気になるのか?」
「いんや、ちょっとね。私の知ってた琲色ちゃんとだいぶイメージ違うなーって、思っただけ。下着も選んでもらったし、向こう行こ」
「え? まだ……」
すると、羽花はどうしてか戻したはずの下着を、もう一度手に取る。こちらに振り返り、靡かせた黒髪が整うまでのあいだに。
「あ、パンツのほうヒモだ。さすがあーくん」
「なにがさすがだ。相変わらず行動読めねぇし。下がヒモとは知らずに選んだだけで――」
おれの言葉を遮って改めて、行こ、と腕を掴まれる。まるで部活棟を羽花と逃げたときみたいに、店の奥に進みだした。
どっちがロマンチストなんだか、とやれやれ嘆息も束の間に、引っ張られる先が試着スペースにつながるカーテンだと気づいて止めるには、やや遅かった。
「う、羽花さん、と――晰くん!?」
中は試着室が三箇所あり、その内の一箇所から委員長が顔を出していた。幸いお客さんはほかにいない。助かった……のか?
どうやら店員さんの質問攻めに遭っていたらしく、困ったように笑っていた。
「ちょうど良かったです。お連れの方は、どちらがお似合いになられると思いますか?」
突然の入室を謝るおれの傍らで、はっきりしない委員長に代わって羽花に尋ねる。この店員そろそろムカついてきたな。
生憎の羽花がキョトンとする。選ぶ気はさらさらないようで、セーラーの乱れを直しながら、
「ほーらあーくん、出番出番。琲色ちゃんにとっておきの下着を選んであげるんでしょ」
羽花がそう言うと店員さんの目が一瞬、不祥事を働いた芸能人の謝罪会見を見ているように映った。
失礼にも限度がある。居心地の悪さを感じているのは男なのに、どうして悪者になった気分まで味わわせなければならない。
理解に苦しむ。しかし、唱えたところで水かけ論。くちびるを噛んで感情を抑える。
選択を迫っていた二種類の下着。ひとつは上下純白で、清楚の王道って感じだ。ふたつは要望した〝大人っぽさ〟全開のベージュで、リボンとレースが編みこまれている。
オーダー通りと個人的なチョイス。委員長の性格を捉えた百点のチョイスと言えよう。対応は酷いが、センスはピカイチだと認めたい。だけど、おれは。
「すんません、店員さん。そっちの壁にかかっている赤をください」
べつにも何種類か試行錯誤の跡を語る中で、一番似合わないチャイナドレスぐらいセクシーで、ハイビスカスのような赤い下着が目に止まった。
サイズは合っているだろう。
「ふぅー、あーくんドスケベぇ~」
からかう羽花に選んだデザインとは真逆の、〝背伸び〟しまくった下着にしたかった。この先、着てくれなくたっていい。持っているだけで、委員長を変えてくれると信じる。
当の委員長は黙りこくって、カーテンに隠れた。
結局、わだかまりが残ったまま。納得のいっていない様子の店員さんに、お会計をお願いする。リピートはできない、な。
「二着とも一緒で。おれが払います」
「お買い上げ、ありがとうございます!」
今日一の営業スマイルが、最後を締め括った。はっきりわかるな、金が正義だと。
物語が大きく動く話ではありませんでしたが、ランジェリー店=エッチなハプニング
のような明らかに(ラッキースケベが)起きそうな雰囲気では、控えておきました(あからさまなのは好きじゃないだけ笑。正直、考えはした)
あと下着めっちゃ調べました。絵は描けないので、2人の下着姿を想像で。机上の変態ですね。
次回はどうなるのか。そろそろ羽花のトラウマの片鱗を出していくと思います。
友城にい




