4-4
「――わ、わたしのし、した……ぎを、買いにきたんですか!?」
お出かけに選んだのは、普段おれも多用する駅近くのショッピングモールの二階。休日で客足もそこそこな昼過ぎのランジェリー専門店の前で、委員長が耳を赤くする。
軽装(英語のロゴTにサブリナパンツと運動靴)スッピンの身なりの委員長に対し、
なぜか違う学校服(セーラーに丈の短いチェックスカートとローファー)でナチュラルメイクの羽花。コスプレ用……か?
「うん。琲色ちゃんの下着、前々から『ダサいなー』って思ってて」
「だ、ださ……い……」
容赦ない羽花のにこやかな言葉に、グサっと胸に刺さり項垂れる。体育の着替えとかで見たことはあるのだろう。
「晰くんも、わたしの下着がダサいと思ってた……感じですか……?」
ショックによる動揺から逃れたいと助け舟を出す委員長。誠に残念なんだが、元々おれの代わりに羽花に下着を買う趣旨を言わせたのだ。
おれが言うと、どうやってもデリカシーに欠ける。なによりも、羽花が言ったほうが物事へのきっかけになりやすい。
今日の目的はあくまで羽花の気分転換と、委員長のイメチェン。おれも、最終指令のことはオフにしておくとしよう。
「ダサいと思わない。そのままの委員長も、十分魅力的だ。けどさ――もしかしたら、知らなかった新しい自分がここにいるかもしれないじゃん?」
おれになにができるわけではないが、委員長の成長できる背中は押していきたい。
ポッケに手を突っこみ、酔いしれた澄まし顔。映像で見返したら、もれなく穴に入りたくなるセリフ。
「あーくん! 堂々と口説かないで! ホント見境ないよね。ハーレム王目指す気なの!」
案の定、羽花の決まり文句が飛んできて、おれの否定とワンセットの下りのはずが、「新しいわたし……」と考えこんだ委員長の呟きが遮る。
「……晰くんがそう言うなら、新しいわたしを見つけてこよう、かな」
両手でギュッとグーを作って、おれにはにかんだ。小動物チックな身長差の上目遣いが、なんともいじらしい。
思わず、照れてそっぽを向く。狙っていたとしても可愛かった。
「お、おう、うまく言えねぇけど、応援してるぞ」
委員長はうん! と健気にお下げを揺らした。妹がいればこんな感じなんかな。違うか。
「羽花さん、よろしくお願いします!」
「……? よくわかんなかったけど、まかせて! 琲色ちゃんに合ったセクシィなパンツを選んであげる!」
小首を傾げつつ、爆発しそうなデカイ胸を張った。いつ見ても立派である。
「お手柔らかにお願いします……」と、セクシィという言葉に顔から火が出ていた。
羽花のようなプロポーションの女の子を間近に置いておけば、必然と競争心に似た感情が委員長を変えてくれるだろう。
「というわけで。羽花、委員長を頼ん……だ――えっと、ほかになにか……?」
役目を終え、退散を図るおれの腕がミニマムな谷に沈んだ。
「晰くんも、いてください……」
「あー! あーくん逃がさないもんねー。おりゃー、つーかまえたっ!」
それを見ていた羽花もなぜか便乗し、片方の腕をマキシマムな沼に落としこんだ。
「羽花まで……。いや、男のおれがいちゃ迷惑じゃないか? 白い目で見られそうだしさ」
まずい、聖剣が戦闘モードに入る。意識するな、平常心だ……って、できるか! なんだ、この高温多湿は。なんだ、このセロトニンの秘境は。未踏の地は。なんなんだ、この脅威の存在感は!
モテ期か? モテ期の到来か? 両腕に女の子から抱きつかれるハグ期がおれに?
「晰くんにも、選んでほしい。あとでがっかりさせたくないし……」
「そんなこと言っても誤魔化されないからね! あーくん、観念しろ!」
委員長が大胆すぎる。羽花がバカじゃなかったら、あからさまな発言だぞ。面倒事は極力回避せねば。冷や汗で、おれの妄想に水をかけられる。
二十秒を超えてもボタンは鳴っていない。
夢心地な現状は、もがくだけ自分の首を絞めるとわかった。
「わ、わかったから、そんなにくっつくなって! 周りの視線が痛いから!」
生温かい買い物客の過ぎ行くクツ音が妙に響いた。それでも羽花は楽しんでいるように悪戯な笑みで「やだ!」と一層、抱きつく手に力が入る。
当然そうなると委員長も解放してくれなく、キャバの姉ちゃんを連れた成金ジジイみたいに入店するしかなかった。
こんにちはお客さま、と控えていた女店員さんも挨拶しながら、一瞬目を丸くした。男性客の珍しさ以上におれたちの状況に驚いている反応だった。逆でも同じ反応するわ。
「こっちの子に似合いそうな下着を探しにきました」
慣れている感じの羽花が、委員長を指差して店員さんに目的を伝える。
「か、かしこまりました。では、ご要望とサイズのほうを伺ってもいいでしょうか?」
「え? あ、えっと…………わかりません……」
見渡すかぎりの多種多様の大人な女性用下着に囲まれて、委縮してしまった委員長。場違い感やふさわしくないとか思っているのだろうか。
身の丈に合った、ありのままのわたし、と言いわけじみた耳触りのいい言葉で自分を偽っているように聞こえて仕方なかった。
そんなもの、自分で決めた物差しでしかない。でも、
「――とびっきりセクシィなのを。サイズは測ってもらえますかー?」
「う、羽花さん!? え、えっとえっと……大人っぽいものをお願いします……」
もう心配いらないか。
羽花の勝手な注文に困惑しつつ、顔を伏せてしまった。店員さんは苦笑いで対応を続け、採寸のため、奥の試着スペースを案内される。
またまた遅くなりました。
今回はランジェリー店に行く話ということで。ベタベタといえばベタですね(笑)
余談ですが、近頃の店員さんはあんまし「いらっしゃいませ」と使わないらしいです。確かにとなりました。
以上!
次回こそ、こそ!早めに。
友城にい




