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おれ以外がメガネをかけている状況から、三十分。――一時間。――また三十分、一時間と経過していった。
窓から射しこんでいた太陽の光が生んだ日向が、数センチ歩いている。
「なあ、いい加減ゲームやめないか。勉強の時間なくなるぞ。いいのか」
「んー、あとちょっとでキリいいから待ってって」
コントローラーをホールドし、縦横無尽に動かす指ども。こっちを一瞥もすることなく、空返事の羽花。協力プレイみたいで、委員長もやり続けていた。
漏れる嘆息。おれがこれを言うのは、かれこれ十七回目。
かなり白熱して、ゲームにのめりこんでいる。元々、羽花がゲームを嗜んでいるのは知る人ぞ知る腕前だ(ゲームの番組出演の経験有り)。委員長のゲーム好きの認識も、先日の一件で帰りまでやった程度だったが、羽花の集中力の高さから鑑みるに相当のやり手だろう。
おれは、ずっと漫画読んだり、二人の背中を眺めていた。
「それより、お腹減ったなー。シロムクちゃんなにか作ってくんない」
「シロムクの手料理でよろしければ。どんなものが食べたいですか?」
「うーん、サクッと食べられて、ヘルシーなのがいいかな」
「かしこまりました。台所お借りしますね」
「じゃあ、おれが手伝うよ。どうせ暇だし」
最後に「冷蔵庫の好きに使っていいよー」と見送られて、キッチンに向かった。羽花は、ほとんど自炊しない。加えて母親も仕事の忙しさから、家事の一切を放棄している。
と、なると、導かれるキッチンの有り様は……
「――最初は、片づけからやっていきましょうか」
「いい、おれがやろう。シロムクは作っててくれ」
シンクが家中の食器を全部注ぎこんだレベルで、あふれ返っている。コバエも集っていて、うざったい。原因は鼻が曲がりそうなほどの悪臭の山を築いた三角コーナー。
絵に描いた不衛生さに、苦虫を噛み潰したような顔が崩れない。だからって文句ばかり垂らしていても仕方ないわけで、引き受けた以上、洗って清潔にしてやる気概を持つ。
「晰さまツラくありませんか? 無理なさらず、やはりシロムクが」
「いいって。羽花に、少しでも勉強する時間をあげたいだけなんだ」
「うーんと、なるほど?」
「なぜ疑問形になった?」
普段一人でキッチンをまかせているせいで、共同での作業が考えにないらしい。家庭内あるあるのお母さんの自己スペースがキッチンみたいなのが、シロムクに当てはまっていた。
食材探しをするシロムクにそんな些細な会話を挟む。シロムクとこうして、料理に参加できてよかった気がする。
もうあんまし時間はない。思い返してみても、シロムクには世話になりっぱなしだ。別段、お世話係だったわけでもないのに、身の周りのことをなにからなにまで。
いなくなったあとのことを考えると寂しくなるが、今は恩を返したい気持ちでいっぱいだ。
「そういえば、今日の格好も似合ってるな。可愛いぞ」
「急にどうされましたか? ありがとうございます?」
頭をペコッと下げる。シロムクを見てるとつい褒めたくなってしまう。格好は割烹着? 違うな。これは、メイドさんのエプロンだ。またイロモノなチョイスを。セカヒの差し金か?
食材は結局、全滅だった。料理する習慣がない家。当然か。シロムクは、まな板の上で人差し指を振り、おれの家から食材を転送していた。
「どうもしないよ。えーっと、レタスにトマトに、卵と……鶏肉?」
「はい。BLTサンドを作ります。それと、お吸い物に卵スープを」
食パンや生活必需品の調味料などは羽花の家のを使うらしい。
「でも、BLTサンドなら普通は、ベーコンじゃないのか?」
「鶏の胸肉を代用します。ヘルシーかつバストのBですから」
「「…………」」
あまりの突拍子のなさに反応できなかった。当人のシロムクは顔色ひとつ変えずに、コンロに火を点け、淡々と調理を始める。
シロムク? と問いかけようとするが、包丁の捌く音で遮られてしまった。追及はしてほしくないようだ。
まぁ、まさかシロムクがシャレを言うとは夢にも思わなかった。親でもなんでもないけど、無性に嬉しさがこみ上げてくる。これもまた、一縷の変化だろうか。
と、勝手に和んだところで数分後。まずはサンドイッチが完成する。
「晰さま申しわけありませんが、サンドイッチを持っていって頂けませんか? 鍋から目が離せませんので」
さっき「時間をあげたい」とおれが言ったからか、気を遣ってくれるシロムク。まったく可愛くて、頼りになって、おっぱい大きいし、等身大の女の子ときたか。
幸せ者だな、おれは。とサンドイッチ皿と調味料を手に持っていこうとすると、
「それと晰さま。メガネは、いつまでかけていれば?」
「え? そうだな。せっかくだし、今日一日中とか?」
急な質問に、個人的な視的欲求を満たすためだけの理由を宛てがう。シロムクは納得したのか定かでないが、それ以上なにも言わず新たな品を作り始めた。
食器洗いの続きはあとでしよう、そう考えつつ、ゲームまだやってるんかな、なんて予想もしながら
「できたぞ」とノックを怠って入った件。おれが悪いんだろうか。
「あ、晰くん……!?」
入ってきたのがおれとわかり、泡を食った委員長。瞬時の気まずさで、まごまごするおれ。
広がっていたのは男子禁制の桃色の園。要はなぜか羽花と委員長が着替えていたのだ。整頓されていたはずの服が散乱している。
「服着替えるついでに琲色ちゃんコーディネートしてたの。とりあえず早く出たら?」
覗きたくて覗いたわけでは断じてないが、やけにトーンの落ち着いた同じく下着姿の羽花に諭されるや否や、急いで廊下に足を戻す。
「す、すまない! 出直してくるから!」
閉めたドアの前でサンドイッチを壊さないように背中をつけた。失策だ。しかし、こんな展開が待っていようとは頭の片隅にもなかった。
不可抗力……だよな。と若干の心配の念を覚えた手前、傍観者のごとく鎮座していたセカヒの顔がニヤついていたのを、おれは見逃さなかった。
下ネタが言えないからって、どこで鬱憤晴らしてんだか。と、辟易の感情が溜まるがお説教ももういいだろう。
そこからまた数分ほど待機して、シロムクも卓で囲んでから昼食に有りついた。
なんとも中途半端になってしまいました。予定より文量が多くなったのと、自分の怠け(考えすぎ)が原因であります。
返す言葉もありませぬ...
展開は次回から動きそうです。では、できるだけ早めの更新を目指して。
友城にい




