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最終指令『七』――此処風羽花に中間テスト全科目六十点以上を取らせよ。
当該の指令が届いたのは、三日前のあの夜だった。委員長対象の指令は打ち止めらしい。
足踏みしていた『四』の達成報告も、『七』と同時に聞いた。結局、基準もなにもわからなかったが、神の裁量など考えるだけ無駄だ。
本日は土曜日。
「ここが、羽花さんの家……」
錆びた玄関の前で歴史的建造物でも目の当たりしたように嘆声を漏らした。トートバッグを提げ、ショートのサロペットに青いカットソー。
お下げを結ぶ緋色の髪飾りが似合う少女――野々河琲色は手を揉み合わせている。落ちつきがなく、いつにも増していじらしい。
前述したテストの勉強会を羽花の家でやることになったのだ。正直、すげぇ不安。言ってのとおり、羽花の部屋は汚部屋だからだ。どうするつもりなのか。
「じゃあ、鳴らすぞ」
「う、うん、お願いします……」
カギは一応持っているが、チャイムを鳴らしてほしいと頼まれている。
かなり緊張した面持ちの委員長。はじめて友だちの家に行くのって、変にテンションが昂って余計な心配までして、普段気にしないことまで気にしだすらしい。
現に電車で事あるごとに「格好おかしくないかな?」とか「菓子折りぐらいは」と、克服の練習も忘れているぐらい三人を順に聞いていた。まあ、三日前おれの家に来た時点ではじめての友だちの家では、ないよな。……ってこれは野暮か。
チャイムを鳴らし、しばし待機していると家の中から「待って待ってー」とバタバタしている声が。
「いらっしゃい! さあ上がって上がって。なーんもないけどねー」
手厚く歓迎する羽花。だが、朝一のわりに少し疲れた表情をにじませていた。着ている服もなんというか……薄汚くなっている。
あれだけ大切にしている清純な黒髪も一本に括っているのみ。明らかに様子がおかしいのは置いておき、とりあえず上がった。
「――なっ」
玄関からすぐある自室に羽花がドアを開け、誘導されたわけだが、おれは固まって右往左往する。
「うわぁー……すごい、いろんな物がある」
前の状態を知らない委員長は普通に見入っていた。
モデルの衣装からコスメ、羽花の趣味である漫画やゲームやらすべて――整理整頓されている。床が見えたのなんて何年ぶりだろう。
驚きを通り越して感動すら覚えてくる。劇的どころの騒ぎじゃない。突然の羽花の変化について行けてないおれの脳。
同じように前の状態を知っているセカヒが羽花に話しかける。
「見違えるほどキレイにされましたね」
「あはは、琲色ちゃんが来るから張り切っちゃってー」
あっけらかんと「頑張った」と言う羽花。いやいや、頑張ったで片づけられる惨状ではなかったぞ。少なく見積もっても、約束した日の木曜と、昨日と費やしているはず――。
なんなら今の今まで掃除していたんじゃないか、そう推測を巡らせる。
誰かのために動かない、あの羽花が。誰かの――委員長をもてなすために部屋を片づけたのだ。TV局の収録オファーでも片づけなかったのに(お蔵入りしたらしい)。
「あ、これ、先月発売したゲームだよね?」
考えこむおれを横目に、しゃがんでゲーム棚からソフトを一本持って羽花に見せる委員長。
隅に置かれたハンガーラック。収まり切らなかったらしく、カーテンレールにまでかけられた近年トレンドを飾ったデザインの服が部屋を彩るように並んでいる。
それだけじゃなくて、メイク道具もテーブルや収納棚の上にズラリと揃えていた。年頃の子なら、まず興味を惹くアイテムなのは間違いない。
羽花も想定外でびっくりした顔を作った。
「…………。いがーい、琲色ちゃんってゲームやるんだー」
「うん、けっこうやるよ。家時間のほとんどゲームしてて、お母さんに怒られるぐらい」
面食らっただろう羽花。しかし、好きなことを話す委員長のはにかみは、無邪気で、悪意のような類いは持ち合わせていないと羽花もわかって、横に座った。
委員長はオシャレに無頓着だ。今日の格好もオシャレとは程遠い。素材がいいだけに、宝の持ち腐れとはこのことだ。
「ねぇねぇ、あーくん。ちょっと琲色ちゃんとゲームしていい?」
「いきなり脱線するな。まだスタートすらしてないんだが」
「敷かれたレールの上の人生は嫌いなんで。列車だけに……!」
羽花のいつものくだらないギャグに委員長がクスリと可愛く笑う。レールの上の人生なんて歩んでないだろ、とツッコミは放棄していたら――
「わ、わたしも、羽花さんとゲームしてみたい。すぐやめるからダメ、ですか?」
「委員長まで……」
「よろしいんじゃないですか。ゲームをして、リラックスタイムを取ってから勉強も」
セカヒまでも羽花側に賛同する。頼りの綱のシロムクもおれの視線に気づいて、首を横に振った。あれ? アウェーおれだけか……。
ちなみにセカヒシロムクは双子コーデだ。セカヒが黒のニットセーターに、白のガウチョパンツ。シロムクがその逆。ニットの背中には片翼があり、並んでひとつの翼になる。
「……わかった。じゃあメガネをしてゲームをするなら、大目に見る」
「? なんでメガネ? あーくんメガネに目がねぇ! タイプ?」
「ダジャレはいいから。委員長は持って来てる?」
「一応あるけど、メガネかければいいの?」
持参しているトートバッグから、前に一度かけていたブルーライトカットメガネを取り出して、そのまま装着する。好きを意識してから見るメガネの委員長やばい。バカになりそう。
「うわ、なんだか委員長感が増すね。すごい似合ってる。可愛いよ、琲色ちゃん」
「ありがとう。羽花さんのも、可愛い……。お仕事とかで使ったの?」
いつの間にやら、羽花も星やハートの装飾が入ったメガネをかけていた。もっとまともなのはなかったのか、と文句は言えず、条件をクリアした二人は即座に肩を寄せ合ってゲームを始めたのだった。
「……で、なんでセカヒとシロムクもメガネしてんだ?」
「なんとなくかけてみました」
「シロムクも右に同じくです」
神々しい金髪と同色の双眸のマッチは悪くないし、コメントは控えたい。うん……お前らがメガネをすると、委員長と羽花が霞むんだよな……。無敵すぎて。
お待たせしました、羽花パートです。
まだまだ未熟な文と構成ですが、どうにか楽しめてもらえたら、と孤軍奮闘してます。
説明不足な点も存分にあると思います。その際は感想欄にて指摘してもらえたら嬉しい……ですね。
追伸
実はもう少し進める予定でした。後日、可能でしたら追加しようと思いますが混乱する方が出そうですね。どうしましょうか。
友城にい




