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地域の中でも一番の高層マンション。エントランスはオートロックで、警備員も駐在している。防犯対策は万全。
外装はタイル張りで屋上には、ヘリポートがあるらしい。物件探しの顔にもなるロビーは石畳が採用されていて、壁は開放感あふれるガラス窓が一面に広がっていた。
そのガラス窓から眺望できるよう寛ぎスペースにソファーも用意されている。
あまり利用する機会もないらしいが、テナント施設もあるらしかった。
委員長の住まいまでを階段でなく、エレベーターで昇る。廊下も音が静かで、間接照明がより高級感を演出していた。
「わたし以外誰もいないから、かしこまらなくてもいいよ。上がって、わたしの部屋で待っててもらってもいい? 準備、してくるから……」
カードキーで開けられた玄関は整然としていて、まじめさが窺えた。クツを脱ぎ、来客用のスリッパに履き替える。
待ってて、と通された委員長の部屋は、これまたメルヘンチックな世界観をモチーフにしていそうな部屋だった。
『あんまりジロジロ見ないでね』と釘を刺されたが学習机やベッド、ロ―チェストやドレッサーの上にと所狭しに並べられた様々なぬいぐるみ。
「羽花とは大違いだな」
敷かれた水玉模様のカーペットに乗った円形のミニテーブル。対面で律儀に置かれたクッションにおれは腰を落とす。
さっきから驚きっぱなしだ。おんなじ女の子でも、ここまで違うとは。ズボラな幼なじみの汚部屋ばかり見てきたから、尚更だった。
しかし、言ってみるものだ。二言目には、いいよ、と返事をもらった。言いだすタイミングを計っていたおれがバカみたいだ。
「ん、あれって……」
ふと、机の上に飾られた見覚えのあるひとつのファンシーなぬいぐるみが目についた。
「おれがクレーンゲームで取ったやつか。セカヒにああ言われていたが、大事にしてくれてそうでなんか嬉しいな」
このぬいぐるみを見るとパンツ……じゃなくて、ギュッと顔をうずめた委員長を思いだす。
もう一度、立ち上がって委員長のぬいぐるみたちを見渡した。すると所々に、おれがプレゼントしたアクセサリーや文房具、委員長といえばと髪飾り。それだけでなく、過去に誕生日やホワイトデーに渡したハンカチーフやメイク道具もぬいぐるみたちが持っていた。
なんだか委員長が微笑ましくなるだけの結果だった。
「お、おまたせしてごめんね。準備に手こずっちゃって。たいしたおもてなしもできないけど、ど、どうかな?」
「べつにいいよ、おもてなしとか大袈裟に。急に来たおれが悪いんだ――って、委員長、その格好は……」
しばらくし、入ってきた委員長のほうに振り返ると、おれは言葉を失った。
「変……かな……頑張って着てみたんだけど…………」
「全然変じゃない! めっちゃ似合ってる! ほんと可愛い! 見違えてて、びっくりした」
普段見せない太ももが露わになったミニスカート姿に、目を一瞬で奪われる。
制服は膝上が限界らしくて最近の土日デートを含め、休日も告白をする操作を受けているように巡り会っていたが、大人しめのスカートかショートパンツまでが委員長のファッションラインだった。
肉付きも少ない。おっぱいだって小さい。見た目だけなら、好みと真逆の女の子だ。だけど、おれは自覚できるくらい、心が惹かれている気がした。
「ほ、褒めすぎだよ。でも、よかった……ありがとう、わたしも嬉しい」
トレーで運んできたお茶菓子をテーブルに置いて対面したのち、委員長ははにかむ。もうどんな動作にもドキっとしてしまう自信がある。
スカートばかりに気を取られていたが、上も肩に穴が開いていて首回りに余裕があるトップスを着ていた。着慣れていないせいか、ブラのヒモが……。
「なにか、遊ぶ? わたしこれでも、たくさんゲーム持ってるんだよ、どう、かな?」
格好の恥ずかしさで間が持てないと判断した委員長が、ベッド下の収納スペースからテレビとファミリーゲーム機を取りだそうとする。
いかん。委員長のミニスカート姿についエモーショナルになってしまった。お家デートを決行した目的を成さねば。
「ゲームは、あとでしよう。その前に、『男性恐怖症診断』をやってほしい」
「診断? どんなのなの?」
「あー、そんな緊張しなくていい。おれも専門ってわけじゃないし、スマホで調べて見つけたやつだから。ほら、デートを毎日ただするより、おれも男だからさ、どこまで委員長と距離を縮めていいか迷ってるんだ」
先日のシャワールームの一件以降、おれの脳裏には震える委員長がよぎって二の足を踏みがちになりやすくなった。
デートをしても、一人分の距離を保って歩くし、話題も下ネタは絶対言わないようにしている。強引なお誘いもしない、時間は厳守。終始笑顔で。
細心の注意を払って、委員長にストレスを与えないようにしてきた。すべては委員長に嫌われたくない一身でもあり、やはりいいカッコしたかったのだ。
しかし無理をしすぎた。二週間デートすると、もうリターンを求めたくて仕方なくなる。
この状況だって、おれの気分次第で素振りしまくった聖剣で実戦まで持ちこめてしまう。
「そっか。晰くんだって、色々考えてくれてるんだもんね。わたしが逃げちゃ、進むものも進まない、もんね。うん、晰くんの言うとおりにするよ、わたし」
戸惑いながらもテーブルの外に移動し、ぺったんこ座りでおれに向き直った。おれもクッションから降りて、委員長に手の届く範囲でスマホ画面の文章を読み上げる。
「じゃあ、まず……『ジッと見られる』からいくぞ。もし負担に感じたら、迷わず小指を立ててほしい。これは、診断であって、治療じゃないから」
「うん、でも――できるだけがんばってみる」
そう意気込んだ委員長の目線は忙しない。おれはまだジッと見ているわけでもないのに、肩肘が張っていて、膝に置いた手にもキュッと力が入っている。
こんなの、始める前から結果なんて見え見えだ。
やる必要も、受ける意味もまったくない。委員長と目が合うのは、いつも告白のときだけで。それ以外で目が合うことは皆無だ。
これだって、ただの……おれの自己満足に過ぎない。
悪いとは思う。だけど、今日のこの瞬間だけ、委員長にちょっと〝牙〟を向けてみる。
8日経ってしまいました。そこまで展開も進まず、むず痒い区切りになってしまい、申し訳ないです。
普段穿かないミニスカを主人公だけに見せるヒロイン最高です。
さて、晰くんはどう委員長に牙を向けるのか。乞うご期待!




