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なにか言いかけるセカヒを遮るように委員長が突然、現れた。メガネは外している。
「え、えっと……い、委員長こそ、どうした? パソコン終わった?」
まるで浮気現場に鉢合わせた感じになってしまった。委員長は「ううん、もう少しだから晰くんの様子を見たくて」とメガネをかけたセカヒシロムクをジーっと見つめる。
物珍しいのだろうか。セカヒシロムクの存在について前に「――妖しいって感じることがあるの。なんだろ、プレッシャーかな。人間離れした不動のオーラを立たせているイメージ」
委員長はセカヒシロムクに対し、苦手意識を最初から持っている。今日も、二人がどこかに(閲覧室に先回りした)行ってから声をかけてきたほどだ。
セカヒは許容しているようで、わざと席を外しておれと委員長との会話を設けてくれることも少なくないが……。
「――あ、あの、三年の野々河です。なにかお困りでしたら、わたしがお手伝いします」
どういうわけか委員長は低姿勢になり、自己紹介を始めた。まさか、気づいていない?
いやいや、バレバレだぞ? 姿顔そのままで、ワンアイテムでメガネをつけただけ。もしやおれが知らんだけで神のチカラでも使っているのか?
が、すかさずシロムクが明かそうと一歩進み、口を開けるがセカヒが制止する。同じようにおれにも自分の口に人差し指を当てて、静粛を促す。
「もう大丈夫ですよ。本の場所を尋ねていただけですので。ありがとうございます」
会釈をし、シロムクの手を引いて本棚の陰に消えて行った。
帰ってはいないはずだが、セカヒが気を利かせて委員長に合わせたのだ。シロムクは首を傾げたままだったが、説明は受けるだろう。
「セカヒさん、シロムクさん、ごめんね……」
委員長はセカヒシロムクが行った本棚を見て、呟く。
「やっぱり気づいてたのか。でも、なんで気づかないフリを」
「だ、だって、わたしが気づいたら晰くん、二人と帰りそうだったから……」
もじもじと縮こまり、手で口元を隠す。過ごしやすい室温だが、委員長の頬がどんどん紅潮していく。小さな身体がますます小さく感じた。
まあおれも、正直言いますと、鼻血モノです。
「心配しなくても今日も……『なんちゃってデート』に誘う。約束だしな」
デートという言葉にためらって、なんちゃってをつけている。なんちゃってをつけているおかげで、デートのハードルを下げているのかもしれない。
おれらは友達以上、恋人未満の関係だ。差し出された手を握れば届く距離の彼女に、おれはそっぽを向き続けている。九百二十四日間に渡り、ずっと。
たとえ九百二十三回の告白を断っているとしても、おれは『本物』を欲しがった。本物が欲しいから、セカヒに指摘された甘く、傷つかない配慮を取ってしまった。
おれは怯えていた。カウントダウンが始まった四週間前から。委員長との時間が増えてからは、もっと意識するようになった。
いまおれが抱いている気持ちが『恋』だとするならば、おれは否定する。これはただの『支配欲』だ。『自惚れ』だ。
ボタンの影響かもしれない中で、委員長――野々河琲色の恋心を弄びたくない。おれは自問自答する。もっとも委員長を傷つけない「ゴールイン」の方法を見つけるために。
だから、おれはもう――逃げないと心に決めた。
「――そろそろ下校時間も近いから、晰くんもそこまででいいよ」
委員長に言われて数分ぶりに見やった窓の景色は、驚くスピードで太陽が傾いていて、十七時のわりに薄暗くなっていた。
かれこれコピー作業を一時間やっている。中間の全教科の指定ページを開いてはコピー&ペースト。地味だが、終わるはずがない。まだ残っている。
「もー、晰くんマジメ過ぎ。わたしよりマジメになっちゃダメだよ!」
そこまででいいと、止められたが、あくまでこれは委員長に頼まれた雑務。おれが面目を潰すわけにはいかないと手を動かしていたのだが、教科書を取り上げられる。
「おれはべつにマジメじゃ……。いいのか、終わってなくて」
「いいの、いいの、先生も終わらせられるとは思ってないから。それよりも……今日は、どこに連れてってくれるの?」
何事もきっちりやっているイメージを勝手に持っていたが、案外そうじゃないのか。委員長を伊達に三年間務めているが所以の「いい加減」なやり方があるのだろうか。
「怒られないか?」
再三の問い詰め。
委員長は手を後ろで結ぶ。いつもの雰囲気とちょっと違って、見えた。
「晰くんは心配性だね。大丈夫だよ。頼み事で怒るようなら、怒って済む用事なんだから。晰くんが心配することじゃないよ」
目から鱗だった。
目線はすれ違うけど、おれは委員長のこと、なにも知らなかったんだな、と実感した。思わず笑みが零れる。
「ど、どうしたの!? わたし変なこと言ったっけ!?」
「いや、委員長のせいじゃない。手伝ってよかったな、って考えてたんだ。それじゃあ、行こうか。『なんちゃってデート』に」
ここでおれが意地を通して、コピー作業を続行する理由は消えた。委員長より、まじめに雑務をこなすのはルール違反だからだ。
とりあえず、コピーした分を委員長が先生に提出しに行き、そのまま学校の外を並んで歩く。一人分の距離がもどかしい。
「あ、そうだ。晰くん、結局どこに連れてってくれるの?」
委員長に尋ねられる。部活生も暗闇でランニングするわけにもいかず、グラウンドに移動していた。
最終下校時間になり、帰宅部の生徒たちがぞろぞろと明るい駅のほうに寄り道していく。これでは駅の方角に近づけない。絶好の好機が訪れる。ここは勝負に出よう。
「今日は――委員長の家でデートがしたい」
前回より文字数が少なくなりましたが、キリがよかったのでここで切りました。
次回もペースを早めても遅くならないよう頑張ります!
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友城にい




