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「『少女はおれに気づき、こちらに歩いてくる。身長は一三〇センチぐらいか。かなり細身で、想像上の女の子みたいだ。腰丈の星色の髪がその印象を深くさせる。』」
「え? なに、自分で自分を紹介して悲しくないか。おれはべつに。君は一体」
「『格好は言い得て表すと、ラフで可愛らしい。英語を散りばめたピンクのシャツに、シフォンフリルのスカート。見た目相応の格好だ。少女はおれが見下ろす位置まで歩いて止まる。』ぼくの名は、ソウカ。きみに爆弾を託した正真正銘の神。『見た目とは裏腹な落ち着いた口調で、ソウカ、と名乗った少女におれは耳を疑う。神を自称した少女。なぜか状況説明をする。信憑性をこじつける宇宙や無重力。あまりにもおふざけが過ぎている。ここは、大人げないが語気を強めて注意してやる。』」
「どうやってるのかは知らねぇが、神を簡単に名乗るものじゃない。ソウカちゃんだったか。学校はどうした? 黙っててやるから、早く家に帰っ――」
「『ソウカちゃんが突然、指でおれの顔に輪ゴムを飛ばすように虚空で弾くと、おれは仰向けに倒れていた。』偏見を慎みたまえ。ここではぼくが主導権。ぼくを信じるかは自殺行為だけど、きみはぼくの話を聞くことだけに専念するといい」
「ぐっ、ぐぐぐっ……どうなってる!? 頭だけ鉛みたいに動かねぇ。なにをした……」
「きみの頭だけ重力に戻した。素直っているなら、解いてあげなくもない。少々、きみが傲慢気質なのは周知の事実るところだからだ。さあ、どうする?」
「おれはべつに誰も見下してなんかいない。君のような小さい子の話だから聞かないわけでもない。ただ、言うことがハチャメチャだから、信じようがないだけ――がっ!」
「『途端、おれの腹部に痛みが走る。ソウカがミゾオチを踏みつけたのだ。怒りより、ゲロが出るのを止めるのが精いっぱいだった。』ぼくには心理描写せないよ。すべてお見通し。この際だ。新しい開拓として、小さいおなごに踏まれて興奮する変態にならない?」
「誰がなるか! そ、そうだ。セカヒとシロムクはどこだ」
「その道具ならエネルギー切れで、きみの死角だよ。よっぽど無茶させたんだね。『おれは頭を転がして目を上にやり、来たドアの横を見る。いた。ビクとも動かず、仲良く寄り添って立っていた。生気が感じられない……は、元々か。』」
「……すまない、おれが弱っちいばっかりに、二人に負担かけて……」
「『涙が固体にあり、宙を泳ぐ。感情を具現化された気分だ。気持ち悪い。さっさと消えてしまえよ。情けない、涙が止まらない。……なんでこんなことになった。なんでおれは屋上に来て、少女の前で仰向けに倒れている。朝からずっと走らされて、学校に着いたと思ったら、囲まれて追いこまれて。屋上に来れば、なにか変わると思っていたのに、いたのは女の子一人で。マジでなにこれ。』謝罪った? そろそろ本題に入ろう。里仲晰」
「おれの心を読むんじゃねぇ! 人の心で弄ぶな! こんなことしてなにが楽しい!」
「『目の前の女の子が普通じゃないのは、最初からわかっている。だが、噛ませの可能性を捨てるための行動が斜めに進みすぎてしまった。』ぼくがきみを屋上に呼びつけたのは、ほかでもない。《最終指令》についてなんだが」
「おい、話を聞け! 対等に話せ! 相手を制限するのは卑怯者がやることだ! お前は神なんかじゃない! 神を騙る、有象無象のかまってちゃんだ!」
「……生意気。このぼくをここまで冒涜にする愚者ははじめてだ。『必死に踠き、糾弾するおれに背を向け歩くソウカが一瞥した瞳の色は、よく見知った金色の上位互換だった。』――死に曝せ」
「――――」
「『ソウカの言葉終わりのコンマ数秒の息。おれの顔から下の感覚が全身麻酔を打ったように、機能が断線した。飛び乗ってきた感触の悪い赤紫色の液体。なにが顔にかかった? おれは瞬時に理解できなかった。自分の胴体が目の前で斬殺されるまでは。』人間は神経を切らずに首チョンパすると三十秒弱意識があるらしいけど、真実らしい」
「う、がっ、がっ、ぁ……うぅ、ぁ、あぁぁぁぁぁ、ぐゅがぁぁぁぁ……」
「『宇宙空間で紅い血が踊る。呼吸ができない。視界が歪む。瞳孔を侵した血で固まり、瞬きができない。直視を余儀なくされた現実。徐々に沈んでいく覚醒が煩わしい。痛い、めっちゃ痛い……嫌だ。嫌だ嫌だ……死にたくない。助けてくれ、セカヒ、シロムク……。』はい、やりすぎました、かな。はは」
「――――」
「『軽快に笑う。おれの首、腕、足を斬った血まみれの剣を携えて、ソウカはおれの髪を掴み持ち上げた。もうダメだ、死の淵が見える……。』ぼくはきみを殺せない。爆弾の所持者であるから。ぼくに所有権を侵害する権限はない。しかし、このぼくを試した挑戦。高揚だ。よって――」
「…………」
「ぼくは正義しいから大目に見るとしよう。だが、一部きみの主張はもっともだ。いいよ。対等に話そう。しかし、聞け。『ソウカが指でまじないを唱えると、おれは何事もなかったかのようにイスに腰かけていた。』」
「はい……」
「『どうにか声を発せるが、身体が麻痺している。痛みが脳に残ったままだ。殺されるとは思わなかった。なんだこいつ……神ってこんなんなん。違うだろ……。』時間を使いすぎた手短に話そう。まず《最終指令》は全部で十一回発令される。本当なら内容かすはずだったんだけど、省略で『三』――『一』『二』の指令を取り消しし、最終期日までに二人の少女のトラウマを克服させよ」
「二人とは、羽花と委員長――琲色のことか?」
「『おれと対面し、玉座にふんぞり返るソウカ。』明言はできない。ぼくは代弁者だからね。理解ってくれ。だが、すべての元凶は爆弾ってことだけは覚えておくように。だからこそ、莫大な報酬を設けている」
「じゃあ、おれがソウカに怒りの矛先を向けるのはお門違いだったのか……?」
「『それでもワガママな態度や、殺されたのは事実だが。』ぼくに同情けはいらない。言ったはずだ。信じるかは、きみ自殺行為だと。剣を振るった詫びだ。このままでは混乱も良くない。時間軸を変え、本来の世界線にしてあげよう」
「……待ってくれ。それって、今朝からの記憶が全部なかったことにするってことか。たしかに都合の悪い部分も多いが、おれにとっては貴重な経験もあった。羽花の一回きりの優しさや、委員長との距離感とか進展もあったんだ……」
「『焦りからおれは掴みかかりそうになる。が、脱力した身体と、逆らえなくなった本能でイスからビクともしていない。それでも、言葉だけは叫んだ。』ずいぶんと思い出とやらを大切にするのだな。いいよ。それもまたきみの好感度ってやつか。ぼくは神だ。きみの大事な人の記憶は、擬似体験に置き替えておこう。また会おう、人間。ボクハココニイルカラ――」
ソウカの金色の瞳が凶暴なケモノのように変貌し、おれは無意識に凝らしていた。
次の瞬間には――
「――晰さま?」
騒がしい授業を行う先生の声、残暑のキツい教室の温度。いつもの風景。そして、横から心配そうにしている神の使いの二人を交互に見て、おれは言った。
「怖かった……」
と、同時におれをいつもみたいに「晰さま」と呼んでくれたことに涙を堪え切れなかった。怖かった。なにもかもを失うのが。怖かった。神と対話するのが。
だから、授業中だろうと感情を抑えられなかった。
「大丈夫ですよ、晰さま。わたくしは晰さまを置いて、いなくなったりはしません」
「シロムクも同じです。泣かないでください。晰さまの頑張りを忘れたりしません」
その言葉を聞いて、おれは声を殺して、ひとしきり泣き続けたのだった。
これにて2話終わり。
次回より、3話です。お楽しみに!
ソウカの由来は、広く知られているある団体から取りました(笑)
地の文をすべて神が喋る。読みづらくなるデメリットはありますが、すべてお見通しのキャラ設定のメリットを重視しました。読みづらく申し訳ないです。
神はロリっ娘で。僕のモットーです!
次回もなる早で頑張ります!
友城にい




