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未来童話  作者: 志風梢洋
9/9

「やはり同じです。ダメです…」


「ダメですじゃない!どんな状況かは皆も分かってるだろ!」


『メンタルグラフの低下を検知しました。危険領域に到達する恐れがあります。ただちに……』


彼は忠告を無視するようにモニターを睨み付けている。


事件発生から一週間。

状況は終焉に向かって日々加速していった。


原因も全く特定できないまま止まらない枯死。

異常事態を隠蔽し、人々のメンタルグラフの維持を試みたが、最終的には、それが通じるスピードではなくなってしまった。


ドーム内には様々な噂が飛び交い、デマがデマを呼び、不安が蔓延する。


声明を求められるが、明確な答えなど誰にも分からず、


原因は不明です。

事態の収拾に全力で取り組む所存です。


と、具体的なことを何も伝えないまま、言葉を濁すことしかできなかった。


そして事態は、いよいよ最悪を迎える。

バイオテクノロジーの推移を集めたプラント、通常であればどんな植物でも2日で培養可能なプラントが全く用をなさなくなってしまったのだ。


DNAのサンプルから、培養したい品種を選び、必要数を指定すれば、あとはオートメーション化された工場から植物が出荷されるはずの施設が、だ。


ある段階まで育った植物が、同様に枯死してしまう。


ならば新たに植物をデザインするしかない、と開発された品種も同じ結果にしかならない。

育ちきらない。


それはまるで、植物自身が世界を否定しているかのようだった。

こんな世界に生まれるのはイヤだ、価値はない、と無言のまま叫んでいるようだった。


確かに植物に頼るものなど今やないのかもしれない。


ドーム内の空気は、植物の力を借りてコントロールしていたわけではないし、穀物や野菜についても人工的に合成された素材で代替可能だ。

人々に癒しを与えるためだけに存在していた、と言っても過言ではない。


だが、寂しさを感じずにはいられない。まるでそこまで親しくはない隣人が旅立ってしまう時のような言い知れぬ寂しさ。


今、このドーム内の人々は同じ寂しさを感じているにはちがいない。


何かないか?

どうすればいい?


彼が自問自答を繰り返す間にも状況は進み続けていた。


「31区画の植物……全滅…です。」


同僚の声を聞き、彼はデスクから立ち上がった。


無言のまま事務室を立ち去る。


同僚達は顔を見合せ、彼に続いた。


目的地は一つ。


第0区画のシンボルツリー。


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