③
「78区画、ですね…」
「というと……先日、新しくデザインされたCH型が植えられた花壇の辺り、だよね。」
モニターに表示された波形を確認すると、通りかかった10代女性のメンタルグラフが一瞬だけ、平穏を失いマイナス域に侵入してしまっている。
「デザインミス?」
誰に伝えるためでなく自分の頭を整理するためだけの発信。
そんなはずがないのだ。
AIは、ドーム内の全ての人々を把握した上で、趣味・嗜好の中央値を外れないよう、そして飽きがきてしまわないよう、定期的にDNAデザインを行い、新種の植物を産み出すのだ。
では、彼女の側に何かがあったことが原因?
もちろんAIの不調という可能性がないとは言わない。
だがそれこそ先ほどのデザインミス以上に考えづらい。
複数AIが互いに監視しあい、補完、発展を繰り返すシステムの中で、個人のモニタリングなどというシンプルなタスクをしくじるはずがないのだ。
「やっぱり変です、これ…」
まとまらない考えを巡らせている間に二度、三度とアラームが続く。
「全て78区画かい?」
小さく頷き、モニターを指差す同僚。
そこにあったのは年齢も性別も異なる人々が作った、複数の特徴的なメンタルグラフ。
一瞬だけマイナス域に触れる、今までは見たことのない波形のグラフ。
疑いようがない。78区画で何かがあったのだ。
「監視カメラを78に切り替えてもらえるかな?」
同僚はテキパキと指を動かし問題の区画をモニターに写し出す。
ゆっくりと画角を動かし確認する。
異常なし…異常なし…異常なし…………異じょ……!!
恐らく今、私のメンタルグラフも同じように揺れたに違いない。
目を丸くしたまま固まる同僚の肩に手を置く。
同僚は小さく
「枯死……」
そう呟いた。