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聖女さんは癒されたい ~アホ勇者たちが邪神の封印を解いてしまったようです~

作者: 積木夕景

 拝啓、故郷のお父さん、お母さん、お元気でしょうか。


 聖女として選ばれて、勇者様のパーティーに同行するようになってから早半年が経過しました。最初の頃は緊張や重責もありましたが、今では随分と聖女として行動する事にも慣れました。


 そんな私の所属する勇者パーティーは今、ダンジョンの奥深くに足を運んでいるのですが……


「だから! 何で邪神の封印を解こうとしてるんですか!」


「だってそこにボタンがあったら押すだろ?」


「押しますね」


「押すな」


「……zzz」


 目の前にあるのは、封印された邪神とその封印装置。その解除ボタンを目の前にしてこのセリフです。


 そう、私が参加しているこの勇者パーティ、残念なことにアホばっかりなのです。一人に関しては寝てるし。


 お父さん、お母さん。多分私には荷が重過ぎると思います。早く故郷に帰りたいです。






 私のパーティーメンバーは全部で四人。


 まずは勇者様。どうやら異世界から召喚された方らしいのですが、とにかく面白さ重視で行動を起こすためトラブルが絶えません。ありていに言ってアホです。


 次に魔法使いさん。この方は一見理知的なイケメンなのですが、その頭の中は空っぽです。この間も魔導書と騙されて変な日記を買わされてきました。アホです。


 そしてパーティでは私と二人しかいない女性である女戦士さん。いわゆる脳筋というやつでしょうか。前線で戦う姿は非常に頼りがいがあるんですけどね。


 最後は寝てる人。戦士さんです。この人は戦っているとき以外はだいたい寝ています。今も直立不動で爆睡中です。アホです。


 私も聖女として、ヒーラーとして同行していますが、いつもこの人たちに振り回されてばかりです。


「だ・か・ら! ここに封印されてるのは邪神だから、封印を解いちゃいけないって……」


「ぽちっとなー」


「人の話を聞けぇ!」


 私の話なんて柳に風。全く聞いてくれない勇者さんが、目の前のボタンを押してしまいました。何が面白いのか、手を叩いて盛り上がる女戦士さんと魔法使いさん。


 大盛り上がりの三人を前に、目の前の巨大な水晶が光輝き霧散していきます。


 ……ああ、短い人生でした。次はもっと、まともな人生を送れますように。







 水晶が姿を消し、中から現れたのは一人の少女でした。


 美しい黒髪に、整った顔立ち。いえ、そんな事を考えている場合じゃありませんね。この方は邪神なのですから。


 その邪神さんの口が、ゆっくりと開きます。


「そなた等が、妾の封印を解いたのか……。大儀なのじゃ」


「おい魔法使い! 妾だってよ!」


「それにのじゃロリですよ! のじゃロリ!」


 勇者さん、魔法使いさん。もうちょっと緊張感を持って下さい。


「ふん。緊張感の無い奴らじゃ」


 ほら、邪神さんにも言われてしまっているじゃないですか。


 私達を睥睨する邪神さん。残念ながら小柄な方なので、一段高い所に立っていてもレオンさんとほとんど目線の高さは変わっていませんが。


「い、意外と胸があるじゃねーか」


 自分の胸と比較しながら戦慄している女戦士さん。まあ確かに女戦士さんは貧乳ですからね。というか注目するところがそこですか。


 ちなみに私はそこそこのものだと自負しています。ちなみに。


「まあよい。貴様らには感謝している。礼と言ってはなんだが、貴様らを最初の信者にしてやろう。邪なる魔眼(イービルアイ)


 邪神さんの可愛らしい眼が怪しく光輝き、その紫の光が私達に向かって広がります。


 噂に聞くと、この光を浴びたものは精神を蝕まれ、邪神の信者になってしまうようです。


 しかし、しばらく待ってみても私の身体にも、思考にも何も変化はありません。どういうことでしょうか?


「……なぜじゃ! そこの娘はよい、どうやら女神の加護を受けているようじゃからな。他の四人は何故妾の信者にならんのじゃ」


 どうやら私には効かなかったようですね。女神の加護ですか、今まで意識した事もありませんでしたが、どうやらそのようなものがあるのですね。


 他の四人にも効かなかったようですが……一体どういうことでしょうか?


「なあ魔法使い、シンジャって何だ?」


「さあ、新種のモンスターでしょうか?」


「食べ物じゃねーか?」


「……zzz」


 あー、これはアレですね。アホ過ぎて効かなかったのでしょう。そういえば、この人たちが精神系の状態異常にかかったのは見たことありませんでした。普段から混乱の状態異常を持っているようなものですからね。


 というか戦士さん、よくこの状況で寝てられますね。


「……なんという強固な精神力なのじゃ。妾の魔眼を無効化するとは」


 ああ、邪神さんが勘違いしています。いや、あながち勘違いではないのかも知れませんね。


 と、そんな時でした。何かを破壊するような大きな音が響き渡り、この部屋の壁が崩れ落ちました。


「ふむ、レッドドラゴンか。丁度よい、妾の力を見せ、貴様らの心を屈服させてやろうかの」


 壁の置くから姿を現したのは、赤い表皮の大きなドラゴン。俗に言うレッドドラゴンというやつです。


 邪神さんはそう呟くと、レッドドラゴンめがけて指を掲げると、一言小さく呟きました。


暗黒の紫電(ダークライトニング)


 パチっという電気の弾けるような音と共に、邪神さんの指から放たれた小さな稲妻が、レッドドラゴンの鼻先に直撃します。しかし威力は全然ありません、調整を間違えたのでしょうか?


 と、その瞬間でした。部屋中に響く轟音と共に、無数の雷がレッドドラゴンに降り注ぎその身を焼いていきます。


「ふん、たわいない」


 目の前で、丸焦げになったレッドドラゴンが地面に倒れ付し、動かなくなります。あまりの熱に白濁したその眼差しからは、もはや生気を感じ取る事ができません。


 一瞬でレッドドラゴンを倒した邪神さんは、満足げにマントをはためかせてこちらに振り向きます。よく見てみれば、邪心さんってかなり際どい格好をされてますね。ビキニアーマーとで言うのでしょうか? その上から黒いマントを羽織っているだけなので、真っ白な肌の大部分が露出してしまっています。


「これで貴様らも妾に信仰心が芽生え「すげえ!」……ん?」


「すげえよこの子、マジハンパねえ! パーティーに入って貰おうぜ!」


 何を言っているのでしょうか、この勇者(笑)は。


「確かに、僕の魔道には今一歩届いていませんが、優秀な魔道士のようですね」


「アタシはいいぜ、こんなもん見せられちゃ、入れないわけにはいかねえしな」


 邪神さんも、目が点になっています。恐らく私も同じような顔をしているのではないでしょうか。


 そして戦士さん、よく今の轟音で起きませんでしたね。


「おぬしらは一体何を言っておるのじゃ?」


「え? だって俺達のパーティーに入りたいから今の魔法を使ったんだろ? 安心しなって、十分合格だぜ!」



 はあ、本当にこの人達は……


「よーし! じゃあ帰ってこの子の歓迎会だ!」


 言うやいなや、両手を掲げて走り出して行く勇者さんと、そのほかの三人。ああ、戦士さんも起きたんですね。


「ふむ、信者にはならんか。本気で言っておるようじゃの……まあよい、外に出るには丁度よいか」


 どうやらこの邪神さん、私達のパーティーについてくるようです。


「あのー、ちょっと横失礼しますね」


「なんじゃ、まだおったのか。ん? 何をしておるのじゃ?」


「いえ、このレッドドラゴンの討伐が私達の今回の任務でして、その討伐証明として鱗を剥いで行かないと……あの人たちは自分達が何をしに来たのかすっかり忘れているようですので……」


 腰のポーチにしまってあったナイフで、レッドドラゴンの鱗をせっせと剥がしながら、邪神さんに事情を説明します。


「おんしも苦労しとるようじゃの……」


 邪神さんに哀れまれてしまいました。








 ダンジョンから帰る途中。案の定迷子になっていた勇者さん達を探したり、罠にかかった勇者さん達を助けるために罠を解除したりしながら、どうにかダンジョンの外まで帰ってくることが出来ました。


「聖女殿は色々とこなすのじゃな」


「私がやらないと誰も出来ませんから」


 パーティーの私の立ち位置は、ヒーラー兼盗賊兼マッパー兼料理人といったところでしょうか。気がつけば色々とできるようになったものです。


「……苦労しとるの」


 この邪神さんですが、話を聞いたところによると遥か昔、村で生活していた頃に突然邪神にされてしまったようです。

 

 邪神というのは他の邪神から力を移植されて成るようでして、その後直ぐに封印されてしまった様です。なんとも悲しい話です。


 ですから、御伽噺の様な悪い邪神、という訳ではないのでしょう。それにこんな可愛い方を邪神として教会に差し出すのは気が引けますね。一旦この話は保留としておきますか。


 そんな私ですが、今はギルドに戻ってきて討伐証明部位を提出し、依頼の報酬を受け取っているところです。


 勇者さん達は一足先に酒場へと向かってしまいました。


「私はギルド長と話がありますから、邪神さんも酒場へ向かっていて貰っていいですか?」


「うむ」


 とてててと走って行く邪神さんを見ていると、なんとも心が癒されますね。


「待たせたな。これが報奨金だ。王国からの補助金に加え、少しだが色もつけてある」


「ありがとうございます。少し金銭面が厳しかったので助かります」


 強面のギルド長から、金貨の詰まった皮袋を受け取ります。ずっしりとした重み、この瞬間だけは大金持ちになった気分ですね。


「少し疑問なんだが、お前達はかなり稼いでいるはずだろう? なんで金に困ってるんだ?」


 何でも何も……


「勇者さんが思いつきで編み出した技で壊した遺跡の弁償に、魔法使いさんが魔導書と騙されて普通の日記を高額で買わされて、女戦士さんが寝ぼけて宿を破壊して、それから……」


「……なるほど。いつもすまんな」


「いえ、慣れて来ましたから」





 その後も、私の愚痴をギルド長に聞いてもらっていたら少し長くなってしまいました。もう宴会は終わってしまっているでしょうか。


 少し小走りで酒場へと向かいます。何やら酒場の中から大声が聞こえてきますね。揉め事でしょうか?


「だから、金が無いなら何で普通に飲み食いしてたんだ!」


 店の中に入ってみると、言い争っているのは勇者さん達と酒場の店主さんです。


 ……酒代くらいは勇者さんが持っていると思うのですが。


「すまん聖女殿。まさか金を持っておらんとは思って無かったのじゃ」


「いえ、仕方ない事です」


 憤る店主さんに頭を下げ、支払いを済ませます。迷惑料として少し多めに渡しておきましょう。またこの酒場にお世話になる事もあるでしょうし。


「それで、お金はどこへやってしまったんですか?」


「分からん! 多分どっかで落とした!」


 なぜ自信満々なのでしょうか。理解に苦しみます。魔法使いさんも「ああ、よくあるよな」じゃ無いですよ。


 ……はあ、夕ご飯を食べ損ねてしまいましたね。


「あの、聖女殿。これ……」


 邪神さんから手渡されたのは、紙に包まれたサンドイッチ。


「このままでは聖女殿が食いっぱぐれると思って作っておいたのじゃが……」


 ああ、邪神さんの優しさに涙がこぼれそうです。


 邪心さんお手製のサンドイッチは、ここ最近食べたものの中で一番美味しかったような気がします。






 夜になり、勇者さん達は酒に酔ったのか、直ぐに部屋で眠ってしまいました。


 宿は二部屋とり、男部屋と女部屋に分かれています。私は女戦士さんと邪神さんと同室ですね。


 丁度よく部屋にはベッドが三つあったので、一番ドア側のベッドを使わせて貰いましょう。何かあったときに一番早く対応出来ますからね。


 ともかく今日もまた疲れました。早く眠って明日に備えるとしましょう。




 夜半。なにやら気配を感じて目が覚めました。気がつけば、ベットのそばに邪神さんが立っているではないですか。


 何やら尋常ではない雰囲気です。もしかして今までのは全て演技で、本当は悪い邪神だったのでしょうか。


「あの……聖女殿。昔の夢を見て……眠れないので一緒に寝てもいいだろうか……?」


 違いました。よく見てみれば、目の端にはうっすらと涙の跡があります。そうですよね。この優しい邪神さんがそんな事をするわけありませんでした。   


 昔の夢、という事は、封印されたときの事でしょうか。よっぽど怖い思いをしたのでしょう。邪神とはいえ、こんな小さな女の子なんですから。


 気がつけば、私はベッドを空け、邪神さんを招き入れていました。私と一緒にベッドに入り安心したのか、邪神さんは直ぐに寝息を立て眠ってしまいました。


「……むう。お姉ちゃん……」


 ……!? ああ、なんという可愛らしさでしょうか! 初めて自分が聖女としてこのパーティーに居てよかったと思いました。


 こんな可愛い邪神さんと旅が出来るのなら、聖女であるのも悪くないかも知れないですね。





 そして朝方の事。大きな轟音と共に目が覚めました。

 

 寝ぼけ眼で周囲の状況を確認してみれば、女戦士さんが寝返りで宿の壁を破壊しているのが見えました。


 ……訂正します。もう実家に帰りたいです。邪神さんを連れて。

ご覧頂きありがとうございます。


好評なら連載にするかもしれません。


(11/20追記)連載用を書き始めました。11月末か12月頭には投稿開始...出来るといいなあ


(11/29追記)本日夜7時ごろから連載開始します!

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― 新着の感想 ―
[一言] このパーティに精神攻撃って、風邪に風邪をひけって言ってるようなもんですねwww
[良い点] 邪神ちゃんがかわいい [一言] 連載楽しみにしてます。
[良い点] ものすごく面白かったです。
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