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一章

「みなさん、きいてくれよ。自分は告白したほうがいいのかな……」


「まだはやいですな、タイミングが重要ですぞ」


「兎が百獣の王に挑んで勝てるわけないやろ。そのまま当たって砕けるのかい、骨折れるわ」


「え、骨折れるの!? いや、でも大丈夫ですよ!応援してます!」


「やっぱりタイミングか~、そうだよな~」

リクさんは冬樹との会話が成り立つ確率がとても高い。リクさんは今年で30歳の大先輩。

冬樹を生まれた時から知っていて、付き合いが一番長いからこその信頼関係がなせる技だと思う。

自分ももっと冬樹とお話が通じるようになりたい。


「いや、でもリクさん。ゆっきーのやつ、この前会った時もなんも発展なかったぜ。デートに誘えよ!せっかく俺のおかげで会いに行ける口実があるのに」


ブルさんも僕の先輩で、たまに僕のことを腹が減ったと言って食べようとしてくる。冗談だと思うがたまに本気に思える時があって怖い。

でも、とてもかっこよくて僕はあこがれている。

さっきも兎がライオンに勝てるわけがないとちょっとふざけていたけれど、ブルさんが一番二人のことを応援しているのだ。

ああ、ちなみに兎とライオンってのは僕たちのご主人の兎内冬樹と、冬樹が一目ぼれしているペットショップで働いている獅戸ななみさんのことで、二人とも名前に動物が入っているのだ。それをブルさんがいじって言っている。

けど、冬樹は肌が白くて背が人のオスの中では高いほうで、かおが小さくて、まるで兎みたいなのは少しわかる気がする。

ななみちゃんのほうは背が小さくてとてもかわいいからとてもライオンさんになんて似てるとは思わないけど。

「ハリさん、だめだ。ゆっきーのやつに喝いれてやれ」

「は、はい!よし、喝だ!」

僕は少し立ち上がって冬樹に訴えかける。


「どうしたハリさん、応援してくれるのか。ありがとうな」

「いや、応援はしてるけども……いまのは喝をいれたんだけどな……」

僕はまだ冬樹とお話が通じないことが多い。

声を上げて笑うブルさんとほほ笑んで励ましてくれるリクさん。

僕ももっと冬樹と仲良くなりたいし役に立ちたい。


ああ、もう一つ言っておくと僕たちは冬樹にお世話してもらっているペットたち。リクガメのリクさん、ブルドックのブルさん、そして僕はハリネズミ。みんなからはハリさんと呼ばれている。

僕は最近はいってきた新入りだけど、冬樹は僕たちのことを家族と言ってくれているし、二人の先輩もとてもいい人で大好きだ。


「いや、でもなぁ……自分みたいなのがやっぱりむりだよなぁ。みなさんがいてくれるからいいか!あはは…はぁ」

ため息をついた冬樹は僕たちのことをそれぞれなでる。みんなこれが好きだ。

僕はこの時ゲージから出してくれるから楽しい。

もう針をむき出しにしないようにすることも慣れてきたと思う。ちょっとだけコツがいるんだよね。

針のある背中をなでてくれるより、お腹のほうを優しくさすってくれるほうが気持ちいい。冬樹はそれをわかってくれる。

「うれしいなぁ」

僕は冬樹の言葉が素直にうれしかった。


「いやいや、あんたは去勢してないんだから、それを活かせよ」

「確かに、先祖を残すっていうのは生き物として大事じゃのう」

先輩たちは冬樹のいわゆる草食系な言動には厳しい。

冬樹は今25歳で一人暮らし。イラストレーターっていうお仕事をしているらしい。いつもパソコンに向かっているのはお仕事をしているんだってリクさんが言っていた。

彼女さんがいたことがないというので、焦らなければならないらしい。

そう言われれば、冬樹はめったに外へお出かけしない。お仕事も会社というところには月に3,4回とかしか行かない。

どちらかというと担当の大槻さんっていう体が大きくてメガネをしている少し見た目が怖い人が家に来るほうが多い。

その他には僕たちの食べ物を買いにペットショップに行って、そのまま冬樹が食べるものも買いにいくとかぐらい。

それに行くのも月3,4回で、毎週のように生活に必要なものは段ボールで運ばれてくるからそれぐらいでいいんだと思う。


冬樹はそれぐらい、外に出かけたくないらしい。というかほかの人に会いたくないんだ。

冬樹はほかの人とはちょっと違う。

この人の左目は見えない。いつもだれかと会う時は黒い眼帯をつけている。

それがほかの人には不思議でならないようで、町に出るとみんな冬樹のことを嫌な目で見てくるのだという。


でも最近はななみちゃんに会いに行くためによくお出かけするようになった。

お留守番するときは少し寂しいけれど、僕たちはよく一緒につれていってもらえるし、何より笑顔になっている冬樹を見るのがみんなうれしいのだ。

きょうもななみちゃんに会いに出かけるようだ。


冬樹が外出するときには必ずブルさんが盲導犬のような役割でついていくし、ななみちゃんがいるペットショップ百獣の王様には、ここのところは僕も一緒に連れて行ってもらっている。

ななみちゃんはお父さんとお母さんがペットショップをやっていて獣医さんっていう僕たちのお医者さんを目指している。

僕は赤ちゃんの時にお世話してもらったし、ブルさんのこともいっつもかわいがって撫でている。

僕とブルさんもななみちゃんのこと大好きだし、もし二人が一緒に暮らしたりなんてしたらとても楽しいと思う。


だから僕たちはここのところ、深夜になると冬樹が寝ている時間に冬樹とななみちゃんをくっつけるためのキューピット大作戦を立てているのだ。

キューピットの意味が僕にはよくわからなかったけど、リクさんが言うには二人が仲良くなるようにするってことらしい。


でもまあそれにはまず冬樹の奥手な性格をどうにかしなくては……





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