処女航海
小学校の時に考えたオリジナルキャラクター達のお話です。
ピッ、ピッ。規則正しい音が聞こえている。目の前のスクリーンには一面の星の海。
「……紛れもなくこれは私の宇宙艇なのよね。……うふふ……とうとう私、マイシップ買ったんだ! しかも最新型! やったあ!」
何度もクルーデータを確認し、花村はるみは歓声を上げた。今になってじわじわと喜びがこみ上げてくる。長かった貯金生活を思い返し、はるみは感慨にうち震えた。
その幸福を、突如鳴り出した警報が破った。コンソールに赤い点滅。
「はるみっ! 大変、大変よお! あたしの……あたしのホットケーキが……!」
そこへ幼馴染の同乗者、秋山優美が駆け込んできた。
「待って、今それどこじゃないのっ」
はるみはマニュアルを必死にめくった。だが優美は必死に食い下がる。
「聞いてよっ! あのね、あたしホットケーキがどうしても食べたくなっちゃったの。メープルシロップと生クリームとあずき乗っけたのがっ」
「はいはい」
コンソールと格闘しながら、やむなく相槌を打つはるみ。
「で、クッキングマシーンに材料積んでね、そうだ、衛星TV見ながら食べようって思ったの」
「……これはメイン回路かもしれないわね……うん、で?」
「そしたら、制御ルームの上のダクトでコンテナが転んだのよお」
「ふう……えっ? 制御ルーム?」
がばっ。はるみは目の色を変えて優美に向き直った。
「なっ、何でそんなトコのダクトが開いてんのよっ!」
制御ルーム。それえはこの小型宇宙艇の頭脳だ。最新型の頭脳は、ゆえに未だコンパクト化されていない。一部屋丸ごとコンピュータという訳だ。
はるみは半狂乱で制御ルームへ向かった。優美は続く。
「でね……あたし、ホットケーキ助けようとしたのよ。だけとあのお部屋、侵入物熱線処理しちゃうじゃない。これじゃ入れないなって思って、防御回路遮断したの、したら……」
「優美……その続きはいいわ……」
はるみは力なく呻いた。何となれば――制御ルームから、巨大なホットケーキの片鱗が姿を見せていたのである。
「……ふふふ……そして残ったのはローンだけって訳ね……」
絶望的な甘い匂いが立ち込める中、はるみは崩れるように座り込んだ。
拙い作品ですが御覧いただき有難うございました。
【2020/12】二点リーダを三点リーダに変更しました。