孤独な学び舎
「もう大嫌いなのよ!子供なんか大嫌い!冬なのに半袖着て走り回るとか意味がわからないわ!」
さっき、九十九の扉とかいうのが私の前に現れたんだけど、まさか、あの都市伝説が、本当にあったなんて信じられなかったけど、入ってみたら、女の子が一人と保護者みたいなひげ面の大男がいて、イケメンじゃないことにがっかりしたこともあって、私の愚痴は止まらないの。
「やっと100年なのよ!100年!それなのに、私が・・・この由緒正しき私が廃校になってしまうなんてありえないでしょ!ねぇ!そう思わない?!なんとか言いなさいよ!」
私がそう言うと、女の子はクッキーの缶を持ちながら、体格のいい大男の後ろに隠れてしまった。
「ひなげし小学校さん、俺らは愚痴を聞きに来たわけじゃないんだが、ちゃんと聞いてやるから、もう少し落ち着いて話してくれ、るりちゃんを怯えさせない程度にしてもらえるとありがたいんだが。」
大男は隠れた女の子の頭を、ぽんぽんと優しく叩きながら言った。
「あら、それは失礼。でもね、100年も誰とも話せなくて、子供ばっかり見てたら、あなたもこうなるわよ!あたしのどこが怖いのよーーー!!!」
つい、声を荒らげてしまったあたしを見て、るりと呼ばれた女の子がぼそっと言った言葉に、また声を荒らげることになる。
「おばちゃん、怖い・・・」
「あ、るりちゃん、それはいっちゃだめでちゅよ・・・!」
大男がるりの口を塞ぐまもなくその言葉はあたしの耳に入った。
「だ、だ、誰がおばちゃんですってーーーー!!!」
あたしが人間だったら、血圧の数値は跳ね上がり、額に青筋の1本や2本は浮かんでいただろう。
あたしは思わずるりの方へ走ると、るりは
「きゃーっっ!」
っと言いながら、あたしから逃れようと走って逃げ始めた。
大男は、笑いながら逃げ回るのを見て、
「るりちゃーん、そんなに走ったら、こけちゃいまちゅから、やめくだちゃい!!」
と、ある意味怖い言葉遣いでるりに注意を促すと、るりは「はーい」と返事をして、壁の前で立ち止まった。
「るりちゃんっていうの?あたしから逃げようなんて、なんて教育・・・」
あたしの言葉は最後まで言えなかった。
ふと見えた壁には、壁一面に写真のようなものがはってあった。それは、どこが見覚えのあるもので、そのどれもに、子供の写真が飾ってあったからだ。
「これって・・・」
「この壁は、九十九の扉を訪れた人によって壁が変化するようになっている。言うなれば、今の壁は君の記憶、君の思い出だ。」
その写真達は、泣いている子供も笑っている子供、運動会、入学式、卒業式などの学校行事や、学校での日常生活を写していた。
大男は写真を見つめているあたしに、諭すように声をかけてきた。
「ひなげしさん、ひなげしさんのなかには、こんなにも思い出がつまっています。あなたは子供は嫌いだといいましたが、それは本心ではありませんね。ただ、廃校になるから寂しかっただけなのでしょう、俺たちは、あなたのその寂しさに呼ばれて、今ここにいるんです。」
「あたしが・・・寂しい・・・?そんなわけないじゃない!うるさくて、あたしの中を走り回って、いつだってあたしは迷惑だったのよ・・・いなくなって、せいせいする・・・はず・・・なのよ・・・?」
本当はわかっていたの。100年の歴史より、誰とも話せない孤独より、あたしが見ていたかったのは、うるさくても、冬でも半袖で走り回っていても、そんな子達が成長する姿を見られなくなるのが嫌だったの。
「ひなげしさん、ここからは俺たちの仕事です。あなたには3つの選択肢があります。1つめは転生すること、2つ目は、九十九髮様のところへ行くこと、3つ目はこの校舎に残ること。その場合、次にいつこの扉が開くかは、俺たちにもわかりません。幸い、この校舎は取り壊されることなく、改装され、ホテルとして利用されることが決まっています。さて、後はあなたが選ぶ番です。どの選択肢にされますか?」
「ねぇ、どんなホテルになるの?」
「さぁ、そこまでは知りませんが、改装と言っても簡単なもので、学校の面影を残し、教室に泊まるような感じのコンセプトのホテルになるようですよ。」
「そう・・・」
ひげ面の男は、私の答えを待つように何も言わなくなった。
もう、走り回ったり、笑ったり、泣いたりして成長していく子供達をみられなくなるのなら、いっそうのこと、すべてを忘れて転生するのもいい、そう思った。でも・・・
「決めたわ。あたし、九十九神様のところへいくわ!」
転生する前にもうちょっと愚痴をこぼしてからでも遅くはないわよね。
だって、九十九神様のところにいけば、少子化や統合で閉校した学校の友達ができるかもしれない。
どれだけいてるかわからないけれど、そんな友達を作って、愚痴をこぼしあってから転生しても遅くはないわよね、きっと。
やっぱりつくもの扉の続編になりました、
よければ、またみにきてくださいね。
ありがとうございました。






